012 ヨツバ授業3
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「リョウ君、あたしはねー人類の味方でも、ダンジョンメグちゃんの味方でも、どっちの味方ではないのよー。
あ、これ以上はさすがリョウ君を駆除するっていっても言えないわー。
知的生命体にとってね、「外」の知識っていうもの、は、ねー、時に毒になってのまうのよー。
環境を破壊する敵性外来種ってあるでしょう?
ほら、ブラックサバスとか」
「ブラックバスです」
「それ、それようー。
ある種の知識は文明を崩壊させるのよー。
しかも、それは今ここでリョウ君しかいなからっていっても教えちゃいけないのよー。
生命ってどこに地雷があるかわかんなくてね。実はこの星の知的生命体もどこかで繋がっている可能性もあるからー」
「いや、やっぱり、まったく聞きたくないっす。殺されたくないし…」
「そんな、教えなくてもちゃんと駆除するわー」
「しないでください。しないでください。お願いします。マオウじゃありません」
「でも、先生たちがいたからまだ五十億も生き残ってるのよー。
当初の試算だと、生き残れるのは二、三パーセントだったわ。
先生すごいがんばった!
うん、すごく頑張ったわ!
あ、あれ、これは…。
もうすぐ仲間から連絡くるわねー」
『た、短期未来予知か!』
(なんじゃそりや?)
『一定範囲の事象を演算して、次に起こることを予測する能力です。今、リョウたち人類が研究中の量子コンピューター数万台を並列接続して初めてできるような演算力です』
(もう、この化け物に何やってもムダやん)
『大丈夫、リョウ。リョウは魔王ではありませんし、この女神ダンジョンとは関係ありません。ヨツバにはわたしの正体を見抜く能力まではないと思われます。ヨツバが攻撃しそうになったら、右足に力を入れて触手に引っ張らていくことを全力で想像してください。別の作業もあります。あと、少し、もう五分くらい時間をもたせてください』
(ご、五分も?!この化け物と?コミュ障もどきのオレなのに…色々心労が)
「さーあ、先生かなしーけど、リョウ君駆除するわー。
なーんか別の面倒なことが起こりそうな雰囲気だしー」
「せ、先生、あと一つ、あと一つだけ、聞いてもいいですか?
お願いします!
お願いします!
お願いしまするー!」
「えー?人生は短いのよー。
どうしようかなあー。何、手短にねー?」
「お、オレ、絶対マオウじゃないっすけど、何でマオウって思うんすか?
それと何でマオウを殺そうとするんですか?」
「殺す、なんて物騒なことやだなー。あくまで駆除、駆除よー。
人間さんとかだって、Gとか駆除するでしょう。それにそれ、お願い一つじゃないじゃなーい?」
「人間ってGタメなんすか?!」
「Gは、雑菌振りまくだけで、彼らが持ってた赤痢とか腸チフスなんてのは、人類にとって昔の話しでしょー。
あやつら人間より数百倍歴史古いから、雑菌耐性があって雑菌拡散者として一部の地球生命体に本能的に嫌われてるだけよー。
逆に人間がここ数百年、どれくらい種族を滅亡させたと思ってんのー?
殲滅だよ、殲滅。種族根絶やし。
人権なんて、あたしたちにすれば聞いて呆れるわー」
(な、何か怒り出したぞ…ヤバい、ヤバい、ツボにハマったか)
「お願いします! お願いします!お願いします!ヨツバ先生!ライムさま!」
「すごーい、リョウ君いつのまに営業トークできるようになったのー?
相手の名前を呼んで注意を喚起するのは効果あるわよー」
「お願いします!ヨツバ先生!ライムちゃん!」
「むー…「ちゃん」は新鮮ねえ」
「お願い!ライムちゃん!」
「うっ、自尊心に食らったわ。
しょうがない子ねー。
冥土の土産よー。あ、メイドの格好しよう…」
その瞬間、ヨツバのタイトスーツがミニスカメイド服に変形した。
ヤバい、これはこれで…別の意味でヤバい。
い、いや、そんな場合じゃない。
「ライムちゃん可愛いー!ハートマーク下さーい!」
全力で叫ぶ、リョウ。
「やん…って。
なーに、企んでんのよー。
ムダよ~。あたしには勝てないし、逃げられもしーなーいー」
(変がみ!!オレたち、ホント、大丈夫なのか?)
『確率はあるにはあります』
(あ、ゼロじゃないってことね)
「でも、教えてあげるわー。
ダンジョンってクリアするものでしょう?
ダンジョン外の生き物にはダンジョンのクリアが目標なのよー。
それでねー。
発達したダンジョンをクリアすると三つのチョイスがあるのよー」
「一つはダンジョンのコア、中核ね、それを破壊して、ダンジョンを壊しちゃうこと―。
これは時と場合によるけど、あまりお勧めできないわねー。小さいダンジョンがたくさんあるところなら、森林や里山の間伐みたく、喜ばれるんだけど、大きなダンジョンを潰すと星のダンジョン総体から敵認定されるのー。
存在の危機を感じるんでしょうねー。
それで、魔王や他のダンジョンから敵視されて、袋叩きに遭うのだわー。
バカな勇者や魔王によくあるケースね」
「ホ―!なんてゲームっぽい!」何とか五分、何とか五分を稼がねばと思うが、ありきたり受け答えしかできない。冷汗が続いている。
「もう一つは、ダンジョンコアと意思疎通をして、協定を交わしてダンマス、ダンジョンマスターになること。」
「おー!ダンマス!ダンマスっすねー?!」ハーハーハー気が疲れる。
「そうそう、でも、これは結構レアよー」
「なぜに?」(時間を稼ぐ、時間を稼ぐ)
「ダンジョンはねー、言わば、主なの。
王様よ、王様。
ダンジョンに入ってその恩恵を受けようとする者は、ダンジョンにとって家来みたいなものなのよー。
王様が家来に屈服させられて従うなんていやでしょう?
よっぽど家来のことを気に入らないとこれは起こらないわー」
「ほう?」
(じゃあオレはいったい何なんだ?オレと変がみはお互いどういう立ち位置なんだ?)
変がみに聞こうとしたが何だかヤツは世話しなく活動している。
「最後がねー。ダンジョンコアと合体しちゃうこと。それが魔王ね。
クリアした者が同意の上でダンジョンに同化することもあれば、ダンジョン自身が迷宮生物、魔物というのかしらー、そいつらを誘き寄せて魔王になることがあるわねー」
「誘き寄せる…」オレは誘き寄せられたのか?いや、どうもそうには思えない。変がみの様子からはそうではなかったように思える。
(オレたちはいったい何なんだ?)
「その方が星の生物を刺激するのに都合がいいんでしょうねー。たぶん。
それでね、魔王が生まれるとダンジョンが格段に強くなるのー。
生物と合体することで、おそらくダンジョンの変化可能性上がるんでしょうねー。
そういう生き物だからー」
『い、生き物じゃありません』
(忙しそうなのにツッコミ入れんでよいわ)
「でもね、ダンジョンが強くなると生き物たちはダンジョンに入らなくなる。
入ってすぐ死んじゃったらみんな嫌でしょう。
でもね誰も入ってくれなかったら、ダンジョンは枯渇しちゃうのー。
ゲームにならなくなっちゃう」
「げ、ゲームって…しかし五十億人も」
「それは別よ。それでダンジョンと合体した魔王は、ダンジョンから出たりして、生き物にちょっかいを出すのー。「そりゃ我輩を倒してみろー」ってね」
「ち、超迷惑!」
「でもそれだとあっという間に魔王が生き物を殲滅しちゃうかもしれない。
けど生き物を殲滅すれば、やっぱりダンジョンがエネルギー枯渇で滅んじゃう。
だからダンジョンの総体は、外の生き物に「勇者」っていう異常能力者を生み出すのよー。
それで地上に出て来た魔王をぶっ叩いて、弱らせたり、代替わりさせたりするのよー。
星のダンジョンは根で繋がっているからねー。
魔王君も勇者君も繋がってるのー」
「な、なんたるマッチポンプ!?
マジ笑えるほどのマゾ構造!
ち、地球大丈夫か?」
(う、上手く合いの手できてるか?オレ?)
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少し説明回が長くなりすみません。
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