第87話 あかりとエレナ
「へーそれでお姉ちゃん、刺されちゃうかもって、心配してるんだ?」
あかりとエレナは、あれから暫く、二人ベンチに座り、会話を弾ませていた。
エレナから、悩みを聞きたいとの申し出があり、あかりは、今、もっとも悩んでいる「大学の先輩」のことについて話をすると、苦笑いをうかべたあと、深くため息をつく。
「まー、本当にファンがいるとも限らないし、相手が私とも限らないんだけど、皆の話を聞いてたら、不安になっちゃって」
「うーん。たしかにそんな話聞いたら、不安になっちゃうよね。でも、そんなに人気者だなんて、そのお兄さん、凄くかっこいい人なんだね」
「あー、確かに見た目は凄くいいかな? みんな、"絵本から出てきた王子様"みたいって言ってたし、怖いくらい整った顔していて……あ。そう言えば、髪の色がエレナちゃんによく似てたよ?」
「え? その人、金髪なの?」
「うん。金髪で髪が長くて、あと目も綺麗な青い色をしてて……あんまり綺麗だから、初めて会った時、女の人だって勘違いしちゃった」
「ふーん……なんか、 うちのお母さんみたい」
「え? お母さん?」
「うん。うちのお母さんも、金髪で髪長くて、瞳の色も青いから! いいな~私も瞳の色、青だったら良かったのに」
「……あ、そう言われたら、エレナちゃんの瞳は青くないね」
「うん。私、瞳の色は"茶色"なの。目の色は日本人のお父さんに似ちゃったみたいで……」
「そうなんだ……」
「うん。 うちのお母さん、二回結婚してて、私は二人目の旦那さんとの子供なんだって。でも、私が産まれてすぐ離婚しちゃったみたい……だからお母さん、私の目の色嫌いなんじゃないかな? 一人目の旦那さんの写真は大事に持ってるのに、私のお父さんの写真は一枚も持ってないから」
するとエレナは、微笑みながらも、悲しそうに俯いた。
きっと、自分の父親の顔を知らないのだろう。
あかりは、そんなエレナの気持ちを思い、ただ聞いてあげることしかできない自分に歯がゆさを感じた。
「でも、そのお兄さん、お姉ちゃんの荷物持ってくれたり、自転車から守ってくれたんでしょ? 悪い人って感じしないけどなぁー」
だが、その後また、エレナが先輩のことを尋ねてきた。あかりは、切り替わった話題に再び、その神木先輩のことを思い出す。
「……うーん、確かに優しいところもあるけど、でも、あの人、どうみても嫌がらせして楽しんでるようにしかみえないし、性格は悪そう」
「え? そうなの?」
「そうだよ! 大体、人のことをいきなり呼び捨てで呼ぶなんて、遊びなれてるようにしか見えないし! もしかしたら、女の子弄んで喜んでる悪魔みたいな人かもしれない!」
「え!? そんなにチャラい人なんだ!?」
「うん、なんかチャラそう。スーツとか着たら完全にホストみたい」
「……」
「それに、自分のことは何も話さないくせに、人のこと根掘り葉掘り聞き出して、まるでニコニコしながら近づいて、人のこと騙す詐欺師みたい! 実際に、何考えてるのかよくわからない人だし、いくら優しくされたからって、そう簡単に信じちゃいけない相手だと思」
「おい」
「!?」
瞬間、二人が座るベンチの後ろから声が聞こえた。
その声に、あかりとエレナがゆっくりと振り返えると
「俺が……なんだって?」
するとそこには、にっこりと綺麗なに笑みを浮かべて「噂の先輩」が立っていた。




