第81話 諦めと本気
「それは、多分、蓮のせいだぞ」
その予想外の返答に、蓮は呆気に取られた。
「え? なんで?」
「俺と蓮、小学校は校区が違ったから中学で初めて同じクラスになって、仲良くなっただろ? その時に、蓮に神木(華)のこと聞いて、はじめは"友人の双子の姉"くらいにしか思ってなかったんだけど……お前シスコンだから、よく神木のこと、俺に話してくれてたじゃん」
「……」
「で、中2で神木と同じクラスになって、始めはただのクラスメイトだったんだけど……蓮から色々聞いてたからか、 危なっかしくて見てらんなくてさ。なんとなく気にかけるようになったんだよ。困ってたら、たまに、助けてあげたりしてさ……そしたら、だんだん話す機会が増えてきて、気がついたら目で追うようになって、あれ?って思った時には、めちゃくちゃ焦ったんだけど……もう遅かった」
「……」
これには、蓮も驚いた。
一目惚れでもなく、進展イベントがあったわけでもなく、いつの間にか好きになってたリアルパターンだった!
(──て、マジで俺が招いてんじゃん!?)
まさか華を守っていたはずが、自ら種を巻いていたとは!?
だが、確かに、榊は何だかんだいいつつ、華にはいつも優しかったなー……なんてことを、今更ながらに思い出す。
気にかけてるうちに好きになってしまったのなら、確かに、その気にかける"きっかけ"を作ったのは、自分かもしれない。
「そうか……なら、そんな榊に、俺からアドバイスをやろう」
「お? マジで!?」
すると、蓮は一際真剣な表情をすると
「いいか、まず、料理ができて、勉強できて、ひととおり家事をこなせる、絶世の美男子になってから、あと5年くらいして出直せ!」
「いや、それのどこがアドバイス!?」
もはや「絶世の美男子」の時点で、一生告白するなといわれているような気がした。
「お前、シスコンもブラコンもこじらせすぎだろ!?」
「だって、華の理想のタイプ、多分兄貴だろうし、うちの兄貴みたいになれたら、成功する確率あがるとおもうけど?」
「……なれるのか、あれ?」
「多分、無理」
なろうとしていれば、なれたのだろうか?
俺も兄貴のように、努力していれば……
だけど、今更そんなことに気付いても
──もう、遅い。
「そっかー、じゃぁ、とりあえず料理から始めてみるかなー」
「は?」
だが、その瞬間、航太から飛び出した言葉に、蓮は目を見開いた。
「はぁ!? お前、なれると思ってんの!?」
「なんだそれ!? 誰もあそこまでなれるなんておもってねーよ! でも、俺二年も片想いしてんだぞ! それに、正直、男として憧れてはいるんだよ、お前の兄貴に!」
「……」
「まーなんていうか……蓮と神木が、すごく信頼してる人だってのはよくわかるし、それが神木の理想のタイプなら、俺にとっては目標になるし……なりたいと思うなら、今から始めても遅いなんてことないだろ?」
「……」
「ま。絶世の美男子にはなれないし、5年も待つ気はないけどな!」
「しぶといな、お前」
「うるせーよ」
「お~い、お前ら! モタモタするなよー」
体育館に着くと、部室前から着替えをすませた同じバスケ部の先輩が声をかけてきた。
それを見て、航太がバタパタと部室まで走ると、蓮はそれを目で追いながら、ボソリと呟く。
「今から始めても……か」
気付いたのなら、今からでも遅くはないのだろうか?
やる気さえ、あれば──
「たまには良いこと言うじゃん……あいつも」
もし俺が、少しでも兄貴に近づけたら、兄貴も少しは俺の事を頼ってくれるだろうか?
一人で抱え込まず、話せなかったことも、話してくれるようになるだろうか?
もし、そうなれるのなら、俺も努力してみよう。
今からでも──
この先、いつか、家族と離れる時がきても、俺が自分に自信を持って
歩いていけるように──




