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神木さんちのお兄ちゃん!   作者: 雪桜
第6章 死と絶望の果て

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第79話 死と絶望の果て⑤ ~妻~


 薄暗いワンルームの一室。


 侑斗は、割れた写真立てにむかって、ゆっくりと語り始めた。


「本当、バカだよな、俺。飛鳥を()()のところに置いてきたことを、お前にあんなに怒られて懲りてたはずなのに、子供たちの気持ち無視して勝手に決めて、また同じこと繰り返そうとしてた」


 当時のことを反省してか、妻の写真を見つめ、侑斗は苦々しい笑みを見せた。


 いつまでたっても、褪せない記憶。


 妻を亡くしたあの悲しみも、華と蓮を手放そうとしたあの後悔も、飛鳥の悲痛な声も


 今でもしっかり刻まれてる。


「でも……あれから、俺も頑張ったんだよ。会社やめて、子育て支援に前向きな街探して引っ越して、節約しながら勉強して資格とったりしてさ。前の会社の取引相手だった社長さんが、いい仕事紹介してくれなかったら、正直どーなってたか」


 当時のことを思い出すと、侑斗は「褒めてほしい」と言わんばかりに、小さく笑う。


 飛鳥と話した後、それから先は、とても目まぐるしい毎日だった。


 なりふりかまっていられなかった。


 家事も料理も、できないなりに頑張って覚えた。失敗もいっぱいした。


 支援センターや役所に相談して、なんとか保育所があくまで一時保育をお願いして、不規則な仕事を辞めて、定時に上がれる仕事にもついた。


 理解してくれる人もいたけど、それでも子供がいるからと、定時であがる俺を見て、同僚からキツイ言葉や視線を向けられた時もあった。


 それでも、たまに残業すれば、子供たちには寂しい思いをさせた。


 働く時間が減った分、給料も減った。

 やりくりするのも大変だった。


 華と蓮はイヤイヤ期にはいって、環境がかわったのもあって、飛鳥と二人頭を抱えた。


 正直、育児って、こんなに大変なものだったのかと、心が折れそうになったこともあったけど


 そんな時は、いつも飛鳥が側に来て笑うんだ───まるで、君みたいに。


「飛鳥には、本当に助けられた。アイツがいなかったら、ここまで頑張れなかったと思う……だけど、今思えば、あの時、お前が死んで一番つらかったのは、飛鳥だったんじゃないかって思うんだ……飛鳥にとってお前は、本当に本当に"大切な人"だったから」


 飛鳥は幼い頃から、全く手の掛からない、しっかりした子だった。


 いや、きっと、()()()がそうさせてしまった。


 でも、そんな飛鳥も、お前にだけは、わがままをいったり弱音をはいたり、年相応に甘えて、子供らしい姿を見せてた。


 それなのに



『華と蓮を、連れていかないで──ッ』



 俺がまた、それを奪ってしまった。


 あんな小さな子に「母親の代わりをする」なんて言わせてしまうほど、追い詰めてしまった。


 俺がもっとしっかりしていれば、あの時、華と蓮を手放すなんてバカなことを考えさえしなければ、飛鳥に、あんな重荷を背負わせることはなかったのかもしれない。


 誰よりも優しくて、誰よりも家族を大切にするあの子は、あれからまた、甘えることをしなくなった。


 わがままを言うこともなく、弱音を吐くこともなく「母親になる」と言った、あの日の言葉を、今でもずっと守りつづけてる。


 そう考えると、あの優しい息子に甘えてしまったことを──今でも、後悔してしまう。



「本当ダメだよな……俺なんかより、子供たちの方が、ずっとしっかりしてるんだから」


 また呆れたように笑って、侑斗は当時のことを思いだした。


 あのあと、目を覚ました華と蓮は、俺と飛鳥が泣いてるのを見て、驚いた顔をして頭をなでてきた。


『にぃに、とーと、いたいのー?』


 なんて、つたない言葉をつかって、小さな手で、だけど、凄く凄く──温かい手で。



 妻と一緒にいられたのは、たったの4年ほどだった。


 ──たった4年。


 でも、その4年間で、君はたくさんの愛情を、俺たちに注いでくれた。


 あの子たちが、こんなにも頼りない父親を、未だに見捨てないでいてくれるのも、きっと、君が注いでくれた、その愛情と優しさのおかげなのだろう。


 そして、君のその愛情は、飛鳥にしっかり受け継がれて、華と蓮に注がれて、あの子たちは、あんなにも他人を思いやれる


 ──優しい子に育った。



 後悔もした。

 辛い時も、苦しい時もたくさんあった。


 でも、それでも


 「守りたいもの」があれば

 「側で支えてくれる誰か」がいれば


 きっと人は、どんな苦難も乗り越えてゆくことができるのかもしれない。



「はは……なんだか子供たちの声が、聞きたくなってきちゃったな~」


 棚の上にある子供たちの写真を見つめて、にこやかに笑うと、侑斗は再び妻の写真に視線を移し、ゆっくりと瞳を閉じた。



 妻が亡くなって──13年。


 生きていてほしかったと、今でも思う。


 だけど、それ以上に

 君に出会えてよかったと、心の底から思う。


 ただ、ひとつだけ心残りがあるとすれば


 「ありがとう」の言葉を、もっともっと伝えておけばよかった。


 でも、それも、失ってから気づいた。


 最愛の人の「死」は、俺に"かげかえのないもの"を、たくさん教えてくれた。





          ありがとう


          ありがとう


          ありがとう





         俺は、そんな君を














        今でもずっと、愛してる










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