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神木さんちのお兄ちゃん! ~神木家には美人すぎる『兄』がいます~  作者: 雪桜
第6章 死と絶望の果て

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第76話 死と絶望の果て② ~不幸~


 葬儀が終わってからも、心が休まる暇はなかった。


 まだ小さい華と蓮の子守りに加えて、仕事に復帰するために、俺はひたすら華と蓮の預け先を探していた。


 だけど、保育園はどこも空きがなく、仕事を辞めるかも考えたけど、再就職にも明らかに不利なこの状況で、辞めるのは得策じゃなかった。


『神木、お前いつから出勤できるんだ?』


 そんな時、上司から電話がかかってきた。それは、妻が亡くなって二週間後のことだった。


「すみません。子供達の預け先がまだ見つからなくて、だから、もう暫く……」


『何を言ってるんだ。お前が働かないと、それこそ子供たち食わせていけないだろう。親でも親戚でも預けて、早く仕事に戻れ。それが、無理なら子供は』


「……ッ」


 電話先の上司の声に、酷く絶望した。


 働けるなら、働いてる。

 預けられるなら、預けてる。でも──


「それが出来ないから、こんなに悩んでんだろッ!!」


 受話器を叩きつけるようにして切ったあと、膝から崩れ落ちると同時に、そう叫んだ。


 味方など、誰もいないように感じた。


 誰もがみな「子供には母親が必要だ」と「子供は手放せ」と、そう俺に語りかけてくるようだった。


 上手くいかないことばかり続いて、イライラすることも増えて、それと同時に、体が思うように動かず、部屋で呆然とすることも増えた。


 何を食べていたかも、よく覚えていない。


 だけど、そんな俺のもとに、飛鳥はよく声をかけにきた。



 ◆


「お父さん、なにか食べて……」

「…………」


 薄暗い部屋の中で、呆然と座り込む俺のそばで、飛鳥が語りかける。


「ねぇ、お父さん」


 まだ小学二年生の、女の子みたいなか細い声をした飛鳥の……とてもとても不安そうな声。


 お父さん、お父さん、と。

 なんでもいいから食べてほしい……と。


 だけど、その時の俺には、そんな飛鳥の言葉すら心には響かず。


「……なぁ、飛鳥」


「?」


「子供には、母親がいなくちゃダメなんだってさ……お前も……そう思うか?」


「……」


「会いたいか……?」


 ──お母さんに。


 ただ漠然と、そうと問いかけた。

 今思えば、なんて残酷な問いかけだろう。


 だけど、俺は、無性に会いに行きたくなった。


 また、あの声を聞きたい。

 あの優しくて透き通るような、彼女の声を聞きたい。


 あの笑顔も、あのぬくもりも、あの心地良さも、何もかも全て取り戻したい。


「みんなで……会いにいくか……?」


 ぽつりぽつりと、亡霊のように呟いて、再び飛鳥に問いかけた。


 そうだ。みんな、会いたがってる。


 華も、蓮も、飛鳥も、俺も、みんなみんな、アイツに会いたがってる。


 なら、会いに行けば、きっと




 ─────みんな、幸せだ。





「会えないよ。お母さんは……もう、死んじゃったから」


「…………」

 

 だけど、静かな部屋の中に、また飛鳥の言葉が響いて、俺の思考は、再び現実へと引き戻された。


 妻が亡くなった(受け止められない)現実を、再度叩きつけられて、目の前が真っ暗になる。


 まるで闇の中に、一人置いてきぼりにされたような


 この先、どうすればいいのか

 どうなるのかすらわからない


 ────不安。





『侑斗と一緒にいたら、みんな不幸になっちゃうね』


 すると、その瞬間、また母のあの言葉が、俺の中に蘇ってきた。


 みんな、不幸になる?


 だから、アイツは死んだのか?


 俺と一緒にいたら、みんな不幸になって、辛い思いをするんだろうか?


 みんな、みんな、みんな、()()()()も、みんな




 ───────────不幸になる。






「……飛鳥」


 ずっと、流せていなかった涙が、不意に頬を伝って溢れだした。


 この子達の幸せを考えた時、もう、どうするのが一番いいのか、俺には分からなかった。


 だけど──



「飛鳥……今度、華と蓮を……施設に……預けに行くから……っ」



 だけど、きっとこれが


 ()()()()()






 ────"最善策"なのだと、思った。






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