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神木さんちのお兄ちゃん! ~神木家には美人すぎる『兄』がいます~  作者: 雪桜
第6章 死と絶望の果て

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第75話 死と絶望の果て① ~母親~



 妻が亡くなったのは、とても急な話だった。


 朝、いつも通り笑顔で送り出してくれた妻。

 だけど、その日なんの前触れもなく、彼女は帰らぬ人となった。


 そして残酷なことに、妻の異変に最初に気づいたのは、その時まだ小学二年生の


 ──飛鳥だった。


 その日、飛鳥が学校から帰ると、華と蓮の泣き声が聞こえてきて、家に入ると妻が倒れていたらしい。


 慌てた飛鳥は、そのあと救急車を呼んで、俺にも電話をしたらしいが、会議中だった俺は携帯にはでれず。


 その後、俺が妻のことを知ったのは


『星ケ峯総合病院の者ですが……』


 電話口から聞こえてた、看護師からの残酷過ぎる知らせをうけた時だった。


 死因は、心筋梗塞。


 妻の母も同じ病で病死していたことから、もともと心臓の弱い家系だったのだろうといわれた。


 病院に駆けつけると、霊安室の前の病院特有の硬いソファーの上で、子供たちが三人身を寄せあって座っていた。


 泣き疲れたのか、華と蓮は飛鳥に身を預けるようにして眠っているようだった。


 飛鳥は、そんな華と蓮を抱き抱えたまま、その青い瞳を兎のように赤く腫らして


 ただひたすら──声を殺して泣いていた。






 ◆


 ◆


 ◆




「侑斗君には悪いけど、下の子供たちは施設にいれた方がいいんじゃないかしら?」


 妻の葬儀の最中、まだ呆然としている俺たちの周りを、親戚たちが取り囲んだ。


「男手ひとつで、三人も育てるのは大変でしょう?」


「それに、こんな小さな子には、やっぱり母親が必要だし」


「俺たちは、侑斗のために言ってるんだ」


「そうよ。まだ二歳なんだから、分からないわよ!」


「…………」


 亡くなった妻の前で紡がれる非情な言葉。


 まだ分からないからと、子供たちの前で容赦なく紡がれた言葉。


 それは、まるでナイフのように、槍のように、俺の心を引き裂きズタズタにし、心ないその言葉に


 酷くこの世を呪った。


 だけど、その中でも一番頭にきたのは、自分の"母親"から受けた言葉だろう。



 ◆



「アンタもつくづく結婚に縁がないよねー。再婚したと思ったら、"あの子"死んじゃうなんてさぁー」


 葬儀のあと、もう長く連絡をとっていなかった俺の母、神木 阿沙子あさこから呼び止められた。


 俺が子供の時から、最悪な母だった。

 外に男をつくってばかりの──"女"だった。


 愛情をかけられた記憶なんて、全くない。


 だからだろう。俺は、もともと両親とは折り合いが悪く、頼れるような親戚も、ほとんどいなかった。


「来るなって言っただろ」


「なにさ。嫁が亡くなったんだ。姑が来ないわけにはいかないだろう?」


 喪服姿で、ケバい化粧と鼻につく香水を撒き散らした母は、普段と変わらない抑揚のある声を発しながら、俺たちの元に近づいてきた。


 こんな人が、自分の生みの親かと思うと、正直、自分の血を呪いたくなるくらいだった。


 しかも、このひとは、なぜか飛鳥のことは酷く気に入っていて、母はコツコツとパンプスの音を響かせながら、後ろに隠れていた子供たちに近づくと、そっと飛鳥にむけて手を差し出してきた。


「それにしても、飛鳥は相変わらず綺麗ねー。今どこで、どうしてるのか知らないけど、()()()()()()()()()()()()()()()は、"あの女"に感謝しなくちゃね。ねぇ、アンタも一人じゃ大変でしょう? この子なら、後々いい感じで金稼いでくれそうだし、飛鳥は私が引き取ってあげるわ!」


「!?」


 母がケラケラ笑いながら、飛鳥の頬に触れた。


(引き取る? 何言ってんだ、こいつ……っ)


 正直、その言葉には、嫌悪感した生まれなかった。


 俺のことすら、ほとんど見向きもしなかったくせに、何を言っているんだろう。


 母にとって、子供とは、一体なんなのだろう。



「飛鳥に触るなッ!」


 飛鳥に触れた手を咄嗟に払い除けて、俺は実の母を威嚇するように睨みつけた。すると母は、呆れたように笑って


「そんな怖い顔しないでよ。アンタのために言ってるんじゃない 」


「何が、俺のためだよ……っ」


「だって母親なしで、こんな小さな子供三人も育てられるわけないでしょ」


「心配しなくても、お前らに頼ったりしねーよ!」


「相変わらず馬鹿な子ねー。なら、華と蓮は施設にでもいれなさい」


「!?」


「子供は一人いれば十分よ。それに、みんな言ってたじゃない。華と蓮はまだ小さいし、里親に出しやすいうちに捨てときなって……片親で貧しい思いするよりも、他所にもらわれた方が、この子たちも"幸せ"よ」


「……っ」


 フツフツと怒りが込み上げてくる。


 妻を亡くした息子の心に寄り添うこともなく、平然と大切な我が子を捨てろという母親に──


「アンタにとって子供ってなんなんだ!? 飛鳥は渡さない! 華と蓮も施設に入れたりしない! 子供たちは俺が」


「でも侑斗と一緒にいたら、みんな"不幸"になっちゃうじゃない」


「……ッ」


「前の女とは離婚して、今回は死別でしょ? 侑斗のそばにいたら、みーんな不幸になっちゃう。次は、()()()()()()()()()()()()()()


「……っ」


 その言葉は、深く俺の心に突き刺さった。


 確かに、家庭環境には恵まれなかった。

 前妻とは離婚。


 そして、やっと手にいれた安らぎも、あっけなく俺のもとから去っていった。


(なんで……っ)



 どうして、こうなった?



 俺の……せいなのか?








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