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神木さんちのお兄ちゃん! ~神木家には美人すぎる『兄』がいます~  作者: 雪桜
第6章 死と絶望の果て

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第73話 エレナとモデル


 物心つくころには、もうモデルを目指してた。


 小さい頃からだったから 、特に疑問に思うこともなくて、だから、モデルになるのは、もはや当然のことだった。


 少し前の授業参観──


「私の将来の夢は、モデルになることです」


 私はそう言って、みんなの前で自分が書いた作文を発表した。


 先生の前で、クラスメイトの前で

 そして、お母さんの前で……


「エレナちゃんのママ、すごくキレイだね!」


 私のお母さんは、とてもとても綺麗な人。


 新しいクラスで迎えた授業参観。そこでも、お母さんはクラス中の注目を集めてた。


 いつものこと。

 だって、あんなに綺麗な人、なかなかいないと思う。


 もう41歳なのに、今でも男の人に言い寄られるみたいで、いつか新しい「お父さん」が出来たりするのかな?……なんて考えてたこともあったけど


 お母さんは、どんなに言い寄られても 、そんなの全く見向きもしない。


 もう、結婚する気はないらしい。

 私だけいれば、いいらしい。


 お母さんは、いつも綺麗で

 いつも笑ってる人。


 でも、笑っているのに


 ──笑ってない。


 だから、お母さんが喜ぶならと思って、モデルだって、ずっとずっと頑張ってきた。


 だけど……


 最近、それがすごく嫌で嫌で仕方ない。


 作文だって、頑張って書いたけど、自分の作文じゃないみたい。


 周りを見れば、みんな、未来に夢をもってた。


 アイドル

 警察官

 サッカー選手

 パティシエ

 教師

 漫画家

 デザイナー

 建築家


 世の中には

 こんなにも、たくさんの「夢」が溢れているのに


 どうして、私の夢は

 もう、決められているんだろう。





  挿絵(By みてみん)


   第73話 エレナとモデル







 ◇◇◇


「それでは、紺野さん。来月のスケジュールですが」


 モデル事務所の一室で、担当の坂井が前に座るエレナとミサに声をかけた。


 狭山は、その坂井の隣に座り、手にした書類に目を通しながら、その話に耳を傾けていた。


「来月は少し忙しくなるかもしれませんが、大丈夫ですか?」


「えぇ。大丈夫です」


「エレナちゃんも、大丈夫?」


「……はぃ、大丈夫です」


 いつも通り行われる打ち合わせ。坂井の問いかけにミサが応えると、この後エレナも同じように返事を返した。


 だが、どこか歯切れの悪い返事をするエレナを見て、狭山は眉を顰める。


 正直、狭山からみて、エレナは少し無理をしているような気がした。


 やる気がないわけではない。だが、撮影が終わると、まるで母親の機嫌を伺うように、脅えたような目をすることが、たまにあった。


(……本当は、モデルやりたくないとか……だったりして)


 ふと、そんなことを考えて、狭山は口元をひきつらせた。


 もし、本当にやりたくないのなら、メンタルケアを担当する狭山としては、かなり厄介な事案である。


「あ。それと今度、オーディションがあるんですが、受けてみますか?」


 すると、思い出したように坂井がそう言って、ミサが手帳を開きながら反応する。


「……オーディションですか?」


「はい。有名デザイナーが審査員として参加するので、気に入られれば、今後のモデル活動にはかなり有利になるかと。まー、それなりに競争率も高いですけど」


 オーディション。

 そういえば、そんな案内が来ていた。


 そこそこ大きなファッションショーだ。芸能人やトップモデルが一堂に会すような、大きなイベント。


 もちろん、競争率は高いが、 有名デザイナーがこぞって審査員として参加するため、仮にオーディションに合格できなかったとしても、気に入られれば、そのままデザイナーの専属モデルになる子だっている。


 事務所としても、エレナのように見込みのある人材がいれば、参加を進めるのは当然だろう。


「エレナちゃんはどうしたい?受けてみる?」


「え?……ぁ……えと……っ」


「エレナ」


「は、はい、受けます! 受けたいです……!」


 母親の声と同時に、慌てて返事をしたエレナ。 狭山は、その様子を見て、再びその表情を曇らせた。


 この親子は、どこか少し歪な感じがする。だが、だからといって、家庭の事情にまで首を突っ込めない。


「では、オーディションは受ける方向で……」

「はい。お願いします」


 坂井の確認にミサが答えると、どうやら話は纏まったようで、ミサは再び手帳にスケジュールを書きこみはじめた。


 そんな、なにげない所作ひとつでも、彼女はとても絵になる。


 ペンを滑らせる、その指先すら美しく見えるのだから、世の男ならほっとかないだろう。


 今でこそこうなのだ。

 きっと若い頃は、もっと引く手あまただったに違いない。


 そんなことを考えていると……


「もう、よろしいですか?」

「はい。今日はこれで」


 スケジュールを書き終えたミサが、再び坂井に問いかけると、坂井の返答を聞いて、ミサは手にしていた手帳をパタリと閉じた。


 だが、ミサが手帳をバッグにしまおうとした瞬間、その手帳の間からヒラリと一枚、薄い紙状のものが、空間を切るようにして、狭山の足元に滑り落ちてきた。


「?」


 テーブルの下に落ちたそれを、狭山は前屈みになり拾い上げる。


(……写真?)


 すると、その手帳から滑り落ちてきたそれは、一枚の写真だった。




新章始まりました。『死と絶望の果て』編。


今章では、神木家の過去が少しだけ明らかになります。少し重いお話も入りますが、引き続きお付き合い下さると嬉しいです。

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