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神木さんちのお兄ちゃん! ~神木家には美人すぎる『兄』がいます~  作者: 雪桜
第4章 再会と変化

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第68話 朝と前進


 一夜明け、神木家は、いつもと少し違う朝を迎えた。


 蓮が目を覚ますと、壁にかけられた時計の時刻は、まだ4時16分──


 少しばかり目が覚めるのが早かったと、蓮は再び布団の中に潜ると、その布団の中でふと昨日のことを思いだした。


 昨日は、華に一人で帰るように伝え、蓮はバスケ部の見学にいった。


 このままいけば入部することになる。だけど、昨日の華の話を聞いてから、蓮は再び、その心に迷いを抱くようになっていた。


(怖かったよな、きっと……)


 男二人に絡まれて、きっと怖かったに違いない。兄が来てくれなければ、どうなっていたか。


 あの華を、また危ない目にあわせたくはない。


 なら、やっぱり部活に入るのをやめて、今まで通り一緒に帰ればいい。


 だけど、どうしたって、自分達は兄姉弟きょうだいで、いつまでも一緒にいられるわけじゃない。


 いつまでも、守ってやれるわけじゃないし、いつまでも「兄」に守られてばかりの「子供」でいるわけにもいかない。


 だからこそ、自立していかなくてはいけないと思った。そして、そのためには、誰かが、今の現状を、 壊していかなくてはならなくて──


 だから、部活を始めようと思った。

 変わるきっかけを、自ら作った。


 きっと、自分達は、変わることを躊躇している。


 このまま、ずっと変わらないなら、まず自分が変えていくしかない。


 だからこそ前進したのに、結果、華を危ない目に合わせた。


 もう、家族が泣くのは見たくない。


 居心地がよいからこそ、今の幸せを壊したくない。



「……なんで、大人になんて、ならなきゃいけないんだろう」


 成長するのは残酷だ。


 大人になるにつれて、家族がバラバラになる日がいつか必ずやってくる。


 兄貴が出ていくのはいつ?

 華に彼氏ができるのはいつ?


 三人一緒にいられるのはあと何年?


 『変わる』ことが『大人』になること?



 でも、確かに昨日、自分達は、そのきっかけを作ったんだろう。


 きっと、華だって自覚したはずだ。


 このままでは、いられないと───



「あー!!」


 瞬間、蓮は起き上がると、一度頭をクシャッとかきみだし、ベッドから抜け出した。


 ゴチャゴチャ考えたせいで、頭がさえてきた。父が使っていた部屋に移動してからは、兄と部屋を別れ、今では一人。


 ガランとした部屋は、どこかすこし寂しくも感じるが、だんだん慣れてもきた。


 これもまた、一つの成長だと思う。




 その後、部屋からでると、蓮はそのままリビングに向かった。


 すると、どうやら先客がいたようで、リビングのソファーには、華がマグカップに注がれたココアを飲みながら、一人ちょこんと座っていた。


「ある? 蓮、早いね」


「お前こそ、早いじゃん」


「なんか、目が覚めちゃって……ココア飲む?」


「……いや、いらない」


 まだ、日の光も入らないリビングは、すこし薄暗い。蓮は、華が座るソファーに一人分間隔を開けて、ドカッと腰掛けた。


 すると、暫く沈黙が訪れたあと、華がゆっくりと語り始める。


「昨日ね、すっごく怖かったんだー。あんなこと、はじめてだったから」


「……」


「蓮が、いつも守ってくれてたんだね。飛鳥兄ぃからきいて、ビックリしちゃった」


「……」


「でも、そうだよね~。思い出せばね、私、守られてばっかりだったなーって。いつも私の側には、蓮か飛鳥兄ぃがいてくれて、私が危ない目に合わないように、先回りして守ってくれてた」


 華は、マグカップを見つめていたその視線をあげると、ゆっくりと蓮を見つめた。


「ありがとう、蓮。でもね。私もう、守られるだけにはならないよ。私がいつまでもこんなんじゃ、きっとみんな、前に進めないと思うから……」


「……」


 再び、沈黙が訪れる。


 守るべき存在がいるというのは、ある意味、幸せなことだと思う。


 それを言い訳に、いつまでもそこに、とどまることができるから。


 でも、華は……



「私ね、優しくて温かくて、賑やかなこの家族が大好き。だから、ずっとこのままでいたいって、みんなで笑っていられる『今』を壊したくないって、ずっと思ってたけど……やっぱり、それじゃダメだって、しっかりわかった」


「……」


「どんなに願っても、いつかみんな大人になっちゃうから……ずっとずっとこのまま、兄妹弟一緒になんていられるわけないから、だから……だから、変わりたくなくても、変わっていかなくちゃいけないんだよね! 家族の"未来の幸せ"を願うなら」


「……」


 そういう華は、すごく穏やかな表情を浮かべていて、その姿は、写真の中でしか見たことない「母」に、とてもよく似ていた。


「私、家族には幸せになってもらいたい。蓮も、飛鳥兄ぃも、お父さんも! だから私も、みんなの重荷にならないように、しっかりとした大人目指して頑張るから。だから……だから蓮も、部活頑張ってね」


「……」


 笑顔でそういった華に、胸が締め付けられた。


 少しずつ、少しずつ、わかり始める。

 華は、きっとまた一つ成長したんだろう。


 本当は、ずっと前から、わかってた。


 年を重ねる度に

 背が伸びる度に


 俺たちがどんなに「今」のままがいいと願っても「大人」になるのは、止められない。


 そして、華はそれを、しっかり自覚したんだろう。



 なら、俺も向き合わなくちゃいけない。



 自分の、これからと……



「あぁ、俺も……部活、頑張る」






 ◇◇◇





「……」


 リビングの中から、華と蓮の話し声が聞こえた。

 

 飛鳥は、扉の前で立ち尽くしたまま、その戸を開けることができなかった。


 華の言葉が、耳に痛い。

 二人はしっかり、前に進み始めた。


 それなのに、自分はいつまで、ここにどどまっているつもりなんだろう。


 二人の成長を、素直に喜んであげたいのに


 いつか、あの二人にも

 置いていかれるのかもしれないと思うと


 心の奥で、何かが叫ぶ。




 ──ゆっくり、大人になれ──




「本当、()()言ってるんだか……」



 あの言葉は、誰でもない。

 自分にむけた言葉だ。


 そう願う。

 そうであってほしいと願う


 自分への言葉……







      (『大好きよ…』)


                 (『なんで…』)

           (『開けて…ッ』)



     (『ごめんな…飛鳥』)



                (『いらないの?』)


       (『死んじゃったから』)


              (『連れてかないで…』)  


     (『嫌だ』)

                 (『たすけて』)

       

      

       (『…いやだ…っ』)




                 (『嫌だ』)






       (『嫌だ』)








           (『ずっと一緒に) (いるよ』)










 せめて、俺が


 前に進めるようになるまで




 今はまだ、"子供"のままでいてほしいのに……っ






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