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神木さんちのお兄ちゃん! ~神木家には美人すぎる『兄』がいます~  作者: 雪桜
第4章 再会と変化

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第60話 血と兄妹弟


「ねぇねぇ、神木さん~」


 高校の休み時間──


 顔もよく知らない女子たちが、机に座り次の授業の準備をしていた華の周りを取り囲んだ。


 その光景に、華は「またか」と苦笑いを浮かべた。取り囲まれた理由は、すでに理解していた。


 それは先日、華がお弁当を忘れたばかりに、なんの連絡も寄越さず学校に現れた、五つ上の兄──「神木 飛鳥」についてだ。


「お兄さんてさ、彼女いるの?」


「えーと……いないんじゃないかなー多分」


 そしてこれが、相手を変え、品を変え、かれこれもう一週間は続いている!


 やれ、歳は?

 血液型は?

 誕生日は?

 彼女はいるか?

 大学はどこか?

 趣味は?

 特技は?

 好きなものはなにか?

 好きなタイプはどんな子か?

 モデルとかしてるのか?


 エトセトラ…エトセトラ…


(ああ、もう発狂しそう! なんなの!? うちの兄は芸能人ですか!? てかこれ、絶対中学のときよりヒドイよ!?)


 うんざりするような質問の山に、さすがの華も参っていた。


 中学の時も、運動会の応援に来てくれた兄をみて、こんな質問を受けたことはあったが、高校では、むしろ兄を知る人が少なかったのが、逆に仇となった。


「いいよね~神木さん。あんなカッコイイお兄さんがいてー」


「そ、そうかなー」


「そうだよ! あんなお兄ちゃんいたら、私なら自慢しまくっちゃうなー」


「わかるー。あ! そういえばさ、お兄さんの瞳の色、青かったよね! もしかしてハーフなの?」


「え? あ、うんん、違うよ。クォーター。どこだったかな。イタリア人だか、フランス人だかの血が入ってる……らしいけど」


「へーだから、あんなに整った顔してるんだー」


「じゃぁ神木さんもクォーターなんだね!」


「え、あ、いや、クォーターなのは兄だけ。私と蓮は純粋な日本人」


「へ~そうなんだー、そんなこともあるんだね~」



 ──ピシッ。


 だが、その瞬間、その場の空気が変わった。華の返事に女子達は何かを察したらしい。


((いや、あるわけないよね? これ家庭環境複雑で、かなり重いやつじゃ……っ))


 そう、そしてその場は、し────んと長い沈黙が続き、女子達は更に慌てはじめた。


「あ、あの、ごめんね、神木さん!」


「そ、そうだ! もうすぐ授業始まるし、私たちいかなきゃ!」


「なんか、変なこと聞いて、ごめんねー」


 すると、女子達はまるで蜘蛛の子を散らすように、華の席から離れ立ち去っていって、華はそれをみるなり


「よし! おわったー!!」


 と、ガッツポーズをキメた。


 今の話を聞く感じでは、明らかに"重い話"なのだが、華にとっては、よく聞かれる質問のひとつでもあるため、むしろ怒濤の質問攻めを回避できる"魔法の言葉"と化していた。


「あーもう、飛鳥兄ぃのバカー。なんできちゃったのかなーって、もとはといえば私がお弁当忘れたからなんだけど」


 その後、やっと解放された華は、机にしなだれかかると、悪態つきながら愚痴を溢す。


 これも、うちの兄が美人すぎるせいだ!


 だが、最終的に「大学に行く前にわざわざ届けてくれた兄は悪くない」との結論に達すると、お弁当を忘れてしまった自分に呆れつつ、口元をひきつらせた。


 そして──


「クォーター……か」


 ふと、窓の外を見つめながら、幼い頃を華は思い出す。


 あの時のことは、今でもはっきり覚えてる。


 それは、自分が小学1年生の時。ある男子に兄とのことをからかわれたのがきっかけだった。




 ◇◇◇



「お前ら、兄貴と全然似てねーよな! 本当は血、繋がってねーんだろ!」


 学校が終わり、蓮と二人で、当時六年生の兄を待っていた時、それは、同じ学童保育の男の子に言われた言葉だった。


 正直、すごく頭にきた。


 だって、そんなもの、当たり前に繋がっているものだと思っていたから。


 でも、確かに私たちは、兄とは全く似てなかったし、その上兄は、あんなにも日本人離れした"綺麗な姿"をしていたから、周りからしたら、共通点を探すことの方が難しかったのかもしれない。


 そして、そんな不安をぬぐい去りたいばかりに、私達は、ある日、兄に問いかけた。


「ねぇ私たち、お兄ちゃんと血、繋がってないの?」


「……どうしたの、急に」


「学童の子が、お兄ちゃんと似てないのは、血が繋がってないからだって!」


「オレたち、ちゃんと血、繋がってるよね!」


「……」


 蓮と二人で、兄の服にしがみつきながら詰め寄った。ただ一言「繋がってるよ」っていってほしかったから。


 だけど──


「半分……だけ」


「……え?」


「俺たちの血が繋がってるのは、()()だけだよ」



 半分て、なに──?


 その時の私には、まだ理解できなかった。


 でも、成長するに連れて、それも少しずつ、理解していった。


 そう私たちと兄は、俗言う「異母兄妹弟」


 平たく言えば兄は、父とその「前妻」との間の子で、父の「連れ子」だ。


 でも、例えそれを知っても、私たちの関係は、それまでどおり何も変わることはなかった。


 優しくて頼りになる兄。私たちは、そんな兄と、生まれたときから、ずっと一緒にいたから。


 だから、血の繋がりや連れ子だなんて、そんなの全く気にならないくらい、私たちはあくまでも「普通の兄妹弟」として育ってきた。


 むしろ、父も兄も

 母と結婚する前、前妻とのことは一切口にしない。


 まるで本当に、()()()()()()かのように


 兄の幼い頃の話すら、聞いたことがないのだ──







 ◇◇◇




「なに、この本?」


 行きつけの本屋によると、飛鳥は文芸書のコーナーで一冊の本を手に取っていた。


 文芸書の帯には【遺産をめぐる骨肉の争い!?実は異母兄妹だった愛し合う二人の運命は!?修羅場続出の本格派恋愛小説ここに刊行!】などと、書かれていた。


(え?これ、恋愛小説なの? ミステリーじゃないの? 骨肉の争い繰り広げながら、恋愛してんの? なに、この帯、怖すぎるんだけど)


 たまたま目についた文芸書の帯をみて、飛鳥は少し困惑した表情をみせる。


 骨肉の争いを繰り広げるミステリー小説はざらにあるが、愛し合う二人が異母兄妹で、遺産をめぐり骨肉の争いを始めるなんて、それ、もう愛してないだろ。そりゃ修羅場になるだろって話である。


「……異母兄妹、か」


 その後、小さく呟くと、飛鳥は手にしていた本を、再び平台に戻した。


 すると、そのタイミングで、今度は本屋の店員がかけよってきて、飛鳥の横で本を探し始めた。


「もうしわけありません。今、在庫を切らしているみたいで、注文もできますから出版社に在庫を確認してみましょうか?」

 

「あ、そうですね、お願いします」


 なにやら、本の問い合わせを受けたらしい。その店員は、客と会話をすると再びカウンターへと戻っていく。


 その光景を、飛鳥が横目で流しみると、ふと店員の影に隠れていた、その"客の姿"が目に入った。


 長い栗色の髪をした、優しげな女の姿──


 飛鳥から少し離れた所で、本棚を眺めながら立つその客の姿は


「あれ……」

「?」


 どうやら飛鳥にも、()()()()()()女だったようで……?



パパはみんな一緒です。

***

閲覧や評価など、いつもありがとうございます。

パパ実はバツイチです。でも、血は半分しか繋がっていませんが仲良し兄妹弟なのはかわりません。そして、いつぞやの迷子のお姉さんが再び登場です。

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