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神木さんちのお兄ちゃん! ~神木家には美人すぎる『兄』がいます~  作者: 雪桜
第3章 お兄ちゃんの高校時代

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【番外編】お兄ちゃんと高校時代③


「あ、神木くん!良いところに戻ってきてくれた~!」


「?」


 その後、生徒会での話を終えクラスに戻ると、そこでは、今まさに文化祭の出し物について話し合いが行われていた。


 文化祭実行委員会でもある穂並ほなみに声をかけられ、ふとその前の黒板を見れば、いくつかの候補の中から「劇」と書かれた文字に丸がつけられていて、どうやらクラスの出し物は演劇をすることに決まったのだろうと、飛鳥は再び穂並に視線を戻す。


「クラスの出し物、()()()()()に決まったんだけど、神木くん役者やってくれない?」


「え? 男女逆転?」


 その言葉に飛鳥は、首を傾げる。


「そう! 普通に現代劇するの面白くないでしょ。だから、配役を男女逆転して演じようってことになったの! つまり、男子が女性役で、女子は男性役!」


「へー、このムサイ連中がみんなして女装するんの? なにそれ笑える~」


「ムサイとかいうな!? 神木、お前は役者だからな! 異議は認めない!」


「え、でも俺、生徒会の方もあるから、あまり台詞ね多い役は困るかも」


「ああ、それなら大丈夫! 台詞は少ないし、神木くんは、女装さえしてくれたら、ただ立ってるだけでいいから!」


「そう……なら、いいよ」


 立ってるだけでいい──とは、なんともありがたい役だが、正直、あまり必要性を感じないその役に飛鳥は微かに呆れつつも、とりあえず、席に戻ろうと、飛鳥は窓際の自分の席まで歩く。


 すると、その席の前に座っていた隆臣が「生徒会おつかれー」と、飛鳥に声をかけてきた。


「隆ちゃんも女装すんの?」


「しねーよ。俺は裏方だ。照明担当」


「うわ、さりげなく逃げてるし」


「お前は、いいのか女装なんて。昔は嫌がってなかったか?」


「あれ、そうだっけ? いいんじゃない? みんな楽しそうだし。それに俺に女装させて、()()()するつもりなんでしょ?」


「……」


「まー、立ってるだけでいいなんて、裏方より楽だし。それに俺、誰もが納得の美少女になる自信あるよ~♪」


「そこは誰も疑ってねーよ」


 にっこりと可愛らしい笑みを浮かべる飛鳥に、隆臣がピシャリと言葉をかえす。


 日頃、男の格好をしていても、女に間違えられるくらいなのだ。こいつなら完璧にやりこなすことができるだろう。


「そういや、生徒会はどうだ?」


「うーん。結構大変、やること多くて」


「……そうか」


 なんだかんだ言いながら、飛鳥は与えられた仕事は昔から真面目にこなす奴だった。


 また、自分が相手から"なにを求められているのか"も瞬時に理解して、どんな役割も波風立てないように上手く進行させる。


 それを考えたらコイツは、前に立つよりは、後ろでサポートすることに長けた奴なのだろう。


「あと、生徒会長とは、上手くいきそうか?」


「あー……なんか上手い具合に、()()()()()()()()()()()()()()


「マジかよ!? 今度は生徒会、牛耳ってきたのか、お前は!?」


 とはいえ、"影の支配者"的な要素も備えていて、ただのサポート役とも言いがたいのだが




 ***




 そして、それから一ヶ月が経ち、桜聖高校は、文化祭当日を迎えた。


 「橘くん、これもお願いしてもいい~」

 「ああ、そこ置いとけ」


 演目が刻々と迫り、隆臣は舞台裏で、大道具などの舞台設営の仕上げを手伝いながら、裏方の仕事に徹していた。


 するとそこに──


 「橘くん♪」


 と、隆臣を呼ぶ声がした。


 聞き覚えのある声の、いつもとは違う"呼び方"に、隆臣は一瞬顔をしかめて声が聞こえた方に振り向く。


 すると、そこには、金色の柔らかそうな髪をサラリと揺らしながら、小首を傾げて、にこやかに佇む、制服姿の美少女が立っていた。



  挿絵(By みてみん)





「なんだ、飛鳥か」


「は? なにそれ。もっとほかに言うことないわけ」


 もっと面白い反応を期待していたのか、女子の制服に身を包んだ飛鳥は、つまらなそうに言葉をかえす。


 すると、劇の時間が迫っているからか、飛鳥のあとに続くように、教室で着替えを終えた、ほかの女装男子たちも、わらわらと舞台裏に姿を現し始めた。


 その"体格のよい女装集団"に、隆臣はおもむろに顔をしかめると、一旦作業を止め、改めて飛鳥を見つめた。


 いつもは一つに束ねている髪をおろし、膝上で揺れるスカートからは、スラッとした細くしなやかな足が伸びていた。


 日頃、外に出ないのもあってか、肌の色も他の男子に比べたら明らかに白い。


 骨格は確かに男性のものだが、もともと華奢なうえに、ブレザーの上着はまだ手にもったまま袖を通していないため、あわい薄桃色のブラウスが、女性らしさを更に演出しているのだろう。


 他の男子とは、明らかにまとう空気が違う。


 どこをどうみても美少女、それも、男性だと伝えても、疑いたくなるレベルの可愛さだ。


「お前……()()、なんかつめてんの?」


「え?」


 そして飛鳥の姿を見て、いつもとは違う違和感に気づいた隆臣は、目を丸くして問いかける。


 なぜなら、今の飛鳥の胸には、男にはないはずの女子特有の()()()が、しっかりあるのだから!


「なに、揉みたいの?」


「誰がそんなこと言った! 変なこと言うのやめろ! 」


「あはは……なんか、やるなら本格的にって、みんな張りきりだしちゃって」


 飛鳥は自分の胸元を見ながら、軽く苦笑いをうかべる。すると


「橘、見ろよ、神木のこの仕上がり!」


「!?」


 今度はその後ろから、文化祭実行委員の星野ほしのが、飛鳥の肩に腕を回しつつ、隆臣に熱く語りかけてきた!


「もう、完璧じゃね! これ、絶対男だってわからないよな! 俺、なんか危ない扉 開いちゃいそうなんだけど!!」


「開くな。一生閉じ籠ってろ」


「つーか、お前どこ触ってんの?」


 危ない扉を引きそうとか言いながら、ちゃっかり胸元に手が伸びる星野に、飛鳥は鳥肌をたたせる。


「ところで神木。お前、なんで胸ちっさくしたの?」


「はぁ? だって邪魔だし。それに女子がリアリティー出すなら、このくらいだって」


「バカかお前は!! それには、男の夢とロマンがつまってるんだよ!」


「男の偽乳に、どんな夢とロマンがつまってるんだ。お前マジで大丈夫か?」


 目の前の星野の騒ぎ様を見て、隆臣が目を覚ませと言わんばかりに星野を見つめた。


 だが、興奮する星野を見れば、きっと、教室で飛鳥を囲みながら、なにやら下らない談義が、男子と女子の間で繰り広げられたのだろう。


 まぁ、ここまで"良質な素材"が目の前にいるのだ。


 クラスのやつらが、本気になる気持ちも分からなくはなく、更にこれだけ上手く化けてくれたとなれば、手掛けた方もさぞ満足だろう。


「まー、予想通りっていうか、予想以上っていうか、お前、性別間違えて生まれてきたんだろうな」


「ん? 誰が、性別間違えたって?」


 隆臣の言葉に苛ついた飛鳥が、いつもの笑顔で睨みをきかせてくるが、女装しているのもあり、いつものような凄みは一切ない。


「ここが、()()でよかったな」


「なにそれ、どういう意味!?」


「ま。とりあえず、もうすぐ劇始まるから、頑張れよ」


「……」


 もう時期、開演だ。

 そう思った隆臣は役者の飛鳥を激励する。だが……


「あ………あのさ、隆ちゃん……っ」


「?」


 急に俯き視線をそらすと、飛鳥は隆臣に向けて、少し弱々しい声を発した。


「……スカートってさ。凄くスースーして心もとないんだけど……俺、マジでこれで舞台に立つの? 大丈夫これ?」


「今さら、なに言ってんの?」


 いくら美少女に化けたとは言え、中身が"男"であることに変わりはないので、どうやらスカートの中が気になり怖じ気づいたらしい。


 飛鳥は、顔を引きつらせながら、隆臣にそう問いかけたのであった。




 ☆番外編 終わり☆



このあと、大河が飛鳥に一目惚れして、焼きそばぶちまけた大河を隆臣が発見して、現在に至る。


***


閲覧&評価、いつもありがとうございます。サービス精神はそこそこあるお兄ちゃんです。ちなみにこの劇、神木家みんな見に来てます。そして、帰ってから家族にめっちゃいじられる(笑)


さて、長くなりましたが、高校時代の雰囲気、少しはつかめたでしょうか?今後も箸休み的にギャグな番外編を入れていくので、どちらもお楽しみ頂けたら嬉しいです。


そして、次回からは新章「再会編」に入ります。ちょっと真面目な話&新事実発覚?

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