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神木さんちのお兄ちゃん! ~神木家には美人すぎる『兄』がいます~  作者: 雪桜
第3章 お兄ちゃんの高校時代

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第57話 遅刻と忘れ物



「あーやばい、遅刻するぅ!!」


 ただでさえ、慌ただしい朝。


 華は、歯磨きを終え、再びリビングに戻ると、バタバタと慌てた足取りでソファーにかけていたブレザーを手に取った。


 華が「今にも遅刻しそうだ」と、慌てふためいている理由は、昨晩遅くまで「兄と弟と共にゲームに勤しんでいたから」という、遅刻の理由にするには、なんとも呆れ返る行いのせいである。


 昨夜、夕食を終えた後、なにげなくゲームを始めてから、かわるがわるお風呂に入ったまではいいのだが、三人で対戦を始めてしまったのが運のつきだった。


 次の日も学校があるというのに、気がつけば深夜二半時を過ぎ、さすがにマズいと、ずくにベッドに入ったのだが、結果、寝坊して今に至る。


 神木家の父は、現在海外にいるが、正直こう言うときに、静止の声をかけるべき保護者がいないというのは、本当に厄介なものだった。


「あれ!? 飛鳥兄ぃ、着替えないの!?」


 すると、上着を手に取った瞬間、華はいまだ椅子に腰かけまったりとしている兄に気づいて、声をかけた。

 見れば、兄はTシャツにスエットといったラフな……と言うか、まだ寝間着姿のままでボーッっしていた。何を微睡んでいるか。大学に行くなら、兄だってそろそろ準備を始めなくてはヤバイはずだ!


「ちょっと飛鳥兄ぃ、大学は!?」


「ふぁぁ~だって俺、今日は午後からだもん」


「はぁ!!?」


 華の問いかけに、以前眠そうな飛鳥は、一つあくびしながら答えた。どうやら計算高いお兄様は、しっかり午前中に寝る時間を確保をしてからゲームをしていたらしい。


「うっそ、なにそれ裏切者!!」


「はは、なにいってんの。俺は一度止めただろ『明日大丈夫か?』って」


 余裕たっぷりの笑みを浮かべて「それを無視してゲーム続けたのはお前たちだろ?」と、意地悪そうに微笑む兄は今日も綺麗だ。だが、その笑顔がたまらずに憎たらしい!


「おい、華、なにやってんだよ! オレもういくぞ!」


 すると、今度は玄関から急かすような蓮の声が聞こえてきて


「あ!まって、蓮!」


 華は、慌ててブレザーを羽織り、鞄を手に取ると、玄関へと向かう。


「ひゃ──!?」


 だが、リビングから出ようと扉に手をかけた瞬間、いきなり背後から首根っこを掴まれた。


 遅刻寸前だと言うのに、いきなり引き止められたは華は、とらえた相手を見るなり


「ちょっと、飛鳥兄ぃ!? なにしてんの!!?」


 華をとらえた相手は、兄の飛鳥。


 強制的にリビングから出るのを阻止してきた兄に、華が困惑していると、飛鳥は酷く呆れた口調で


「お前、()()透けてる」

「!!!?」


 瞬間放たれた言葉に、華は目を見開き、そして、みるみるうちに赤くなる。


「きゃぁぁッ!! どこ見てんの、変態!!?」


「は? 見せてんの、お前だろ」


 いきなり変態よばわりされ、今度は飛鳥がにっこりと笑いながらも怒りマークを浮かべた。


 どうやら、ジャケットの下に着ている白いブラウスの上から、華の可愛らしいピンク色の下着が透けて見えたらしい。そして、それに気づいた飛鳥は、とっさに捕まえたようなのだが


「お前、もう高校生だろ。身だしなみには気を付けろって、あれほど……とりあえず、すぐ着替えてこい!」


「えー!! 上着、着てるだから、このくらい平気だよ! 体育の時は更衣室で着替えるんだし!」


「お前、それマジで言ってんの?」


「飛鳥兄ぃは気にしすぎなの! もう行くね、本当に遅刻するんだってば!!」


 これ以上は付き合ってられないと、華は再びリビングから出ようと試みる。だが──


「あっそう、じゃぁ、俺が着替えさせてあげよっか♪」

「!!?」


 瞬間、華の制服を掴んだ兄が笑顔でそう言って


「きゃぁぁ、ちょっと、嘘でしょ!?」


「嘘じゃないよ。ほら、時間ないんだろ」


「わっ、やっ」


 逃げようとする華をのブレザーに手をかけた飛鳥は、それをいても簡単に脱がせた、今度は首元のネクタイに手をかけた。


 ボルドーのネクタイをほどかれたら、次はシャツを脱がされてしまう!そんな兄を見て華は顔を青くする。


 別に兄に裸を見られるのは、初めてではない。なんせ、兄が中学に上がるギリギリまで、一緒にお風呂にだって入っていたくらいだ。だからか、兄からすれば、妹の身体なんて見慣れているのかもしれないが……


「きゃぁぁぁぁぁ最っっ低!! 鬼! 悪魔!!」


「じゃぁ、自分で着替えろ」


「あーもう、わかったから!! 飛鳥兄ぃのバカー!!」


 結局、兄相手に諦めるしかなくなった華は慌てて自室に戻ると、今度はしっかりと下着が透けないよう、中のインナーを黒色のものに着替えて、改めて玄関まで走る。


「いってきまーす!!」

「華、走るぞ!」


 待っていた蓮とバタバタと出ていく華。

 飛鳥は、それを見届けると、一人になった家の中で、深くため息をついた。


「はぁ……本当にわかってんのかよ、華のやつ」


 妹の華は、どうも無防備過ぎるところがある。


 男所帯で育ったせいなのか?

 はたまた、大事に育て過ぎたのか?


 “男性の危険性”を、まるでわかっていない。


「育て方……間違ったかな?」


 そう言って、まるで親のような一言を呟くと、飛鳥は再びリビングへと戻った。


 静かになったせいか、急に睡魔が襲ってきて、飛鳥は小さくあくびをすると、軽く背伸びをし、眠気覚ましにとキッチンで冷たい水をコップに注ぐ。


「?」


 だが、水を飲もうとコップを口につけた瞬間、キッチンのカウンターテーブルの上に置かれた可愛らしい包みに目を奪われた。


 うさぎ柄のハンカチでつつまれた、ピンク色の包み。それは妹の──


「ありゃ? 華のやつ、弁当忘れてる?」


 飛鳥は、それが今朝、自分が作った双子のお弁当の片割れだと気づくと「はは」と渇いた笑みを浮かべたのだった。






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