#5 衝突
「イズモ、頼みたいことがある。」
エクスは俺にこんな事を言ってきた。
現在、大手の戦闘系ギルドは生産系ギルドの材料調達や貿易系ギルドの移動時の護衛といった仕事を引き受けている。しかし、「不用意に動くより、情報を集める方が重要」というギルドと、「『ハイエンドコンテンツ』をクリアして、強化するべき」というギルドで対立しているのだという。
ちなみに、ハイエンドコンテンツというのは、ゲームにおける最上級のクエストのようなものだ。
「イズモ、君は、どちらに味方する?」
情報か、強化か。どちらが重要か。
「俺はどちらにも味方しない。」
エクスが驚きの表情を浮かべる。確かに強化は重要だ。しかし、情報が無ければこの世界では生きていけない。そう思うから、この回答にたどりついた。
「そうか・・・なら頼む。近々対立しているギルドが衝突しそうなんだ。どうか、それを防いでくれ。」
「もちろん。任せておけ」
「情報だ!」
「いや、強化です!」
ユースフルのレンタル会館。その一室で6人の男女がにらみあっていた。
情報収集優先を掲げるギルドは、「C・ヒル」マスターのイレース、「ライフ・ソサエティ」マスター、マリア。そして「レジスタンス・バード」のホーク。
対する強化優先を勧めるギルドは「ブラック・ストリート」のジェイ、「ヴァイパーファング・バクフ」のヤマタ、「アイシード」のタイタン。
そして、傍観している俺とエクス。
全員が強力なギルドのマスター、そして神器を持っている。各ギルドから一人ずつ、護衛役の者が来ているが、彼らもマスター達に恐れ、おののいている。
「先輩、煽っちゃだめですよ。」
フレイルが心配そうに言ってくる。そのタイミングで
「ジェイ、貴様とはここで決着をつけねばならないようだ。」
イレースが神器<ハーデス>を構える。
「それはこっちのセリフですよ、イレースさん。」
ジェイも神器<ナラク>を構える。
ハーデスは長刀、ナラクはダガー。リーチはイレースの方が長いが、ジェイはゲームの頃から素早いことで有名だ。
「まずい、ぶつかる!」
エクスが叫ぶと同時、
「セラアアア!」
「シッ!」
二人が地面を蹴った。
「まずっ・・<ロキ>!」
二人の剣が衝突する寸前、ロキを滑り込ませる。激しい金属音とともに、衝撃。吹き飛ばされる。そこで俺を迎えたのは柔らかい感触、甘い香り。
「せ、先輩!」
フレイルの胸だった。
「うおおお!ごめん!」
「ちっ、あの幸せ者め・・」
ヤバい、イレースの怒りの矛先がこっち向いた。
「まあ、今日のところは奴に免じて許してやる。」
「イズモさん、次邪魔したら、マジで殺しますよ~」
どうやら、二人の怒りはおさまったらしい。
「もうケンカせずにバラバラで行動しろよ。子供じゃあるまいし」
「「黙れ!」」
こいつら、本当は仲良いんじゃねえの。
ギルドハウスに帰ってから、最後に買うものを忘れていることに気付いた。