#14 マスターなら
後ろに影が揺らめく俺。
きっと影は『殺戮影』だろう。
つまりは、先日の俺。
気づいたときには、四方八方鏡に囲まれていた。
そして、あの夢の中の言葉を、言われる。
偽物、嘘つき、別人・・・
信じたくも無い言葉が俺を蝕む。
「違う!俺は本物だ!クロトが、皆が証明して、認めてくれたんだ!」
『それはどうかな。お前は、騙されているんだろう』
何を言っているんだ。そんな訳が無い。
『同情されたんだ。お前はいずれ見放される』
ありえない。あいつらが、俺を見捨てる?冗談も大概にしろよ。
『ほら、自分に聞いてみろ。自分は偽物かって』
黙れよ。・・・黙れ!
『そう言ウってコとは、気づイテいるンだロ?認めチマエよ』
冷静になれ、俺。
でも、心的外傷は治らなくて。
『ホラ、キヅケ。オマエハ、ニセモノ』
「うっ、ぐあああ!」
ダメだ。耐えきれない。俺だけでは、抱えきれない。
皆が、俺を見放す。独りになる。
それだけに、俺は支配されていた。
「ははは!やっぱり彼、最ッッ高の実験対象だよ!」
「おい、俺達のマスターに、何をした?」
「やだなあ、そんな怖い顔して。・・ちょっと心的外傷を見てもらってるだけさ。
まあ、彼の場合、一人では抱えきれないだろうけど。アハハハハ!」
「黙れ、下衆。」
「アハハ、は?」
エクスが、静かに言い放った。
「あいつがどれだけ苦しかったか、分かって言っているのか!」
「ああ、もちろんさ。だからこそ、彼に対して行っている」
「そうか。ならツブス。」
瞬間、エクスが加速、いや瞬間移動した。
「!?、うぐ・・・」
双刀の神器<クロノス>に斬られる。そして、アインが止まった。
「ふん、クロノスの解放、<刻限>だ。能力としては、<時間遡行>、<時間圧縮>の二スキルの連続使用可能化だ。そしてクロノスに斬られた者は[完全停止]デバフを与える。まあ、ボスには5秒が限界だ」
「おのれ、この僕を停止させたなああ!」
「下衆にはお似合いだ。・・・ダウナーズ、マスターを取り返しに行け」
「う、ああ、うっ、ひぐっ・・・」
もう、精神が限界だ。このまま死んでしまいたい。俺は・・・
飛んできた剣閃が、鏡を真っ二つにし、火球が溶かし、矢が、射て砕き、拳が叩き割る。
ギルドメンバーが、鏡を割り、俺を解放してくれた。
「もう大丈夫だぜ、マスター」
「あなたは我々の主。偽物だろうとついて行きます」
「まったく、世話かかるマスターだな」
「まあ、無事ならいいですよ」
「あなたの傷を癒やす回復役はこのマジンですよ!」
「ついでにあんたの心も盗もうかと思ったわ」
「ウチのマスター罠にかけたんどいつだ!ねえナツキ!」
「そうだよキュー!てかあいつだけど!」
「先輩大丈夫ですか?また胸に飛込みます?」
クロトが、ナッツが、ゲンジが、マサムネが、マジンが、コロンが、キューが、ナツキが、フレイルが、それぞれ励ましてくれる。
こんなちっぽけで、メンタル豆腐マスターの、俺を。
せめて、恩返しぐらい、仕返しくらい。
――今度はお前から、俺を求めるとはな。
ああ。アインに勝つには、お前の力を使うしかない。
――また暴走するぞ?
感情ぐらいコントロールする。今度は大丈夫だ。
それにロキ。お前、悪戯好きな神なんだろ?
――ああ。
だったら、俺とお前で、あいつに悪戯してやろうぜ!超最高の!
――ふっ、面白えじゃねえか。・・・いいぜ、のってやる
「さあアイン、いくぜ!解放、<五十三番目の殺意>!」




