#11 偽物じゃない
自我の破壊が生んだものは、疑心暗鬼。
自分は、本当の自分じゃ無い?じゃあ本当の自分は?破壊されてしまった。本当の自分は永遠に帰ってこない?
――そうだ。お前は本当のお前じゃあない。
――そして、本物も帰ってこない。
――もう、お前は変わってしまったんだ。
「うっ、うわああああああ!!」
夢。夢は醒めた。でも・・・
腕を横に振ればメニュー画面が出てくる。つまり、あれは夢じゃない。自分は偽物。まだ、醒めてない。
「落ち着けよ・・・俺は、俺は・・・本物なんだ・・・」
――お前は本当のお前じゃあない。
「ひっ、うっ、ううっ・・・」
夢の中のことを思い出す。涙が溢れる。
「止まれ、止まれよ!・・・止まってよ・・・」
『まるで、存在そのものが無かったかの様に』
イレースの言葉がよみがえる。心的外傷を掻き回される。当然涙は止まらず、さらに溢れる。
「うぇ~い、イズモ~、狩りいかね?」
「マスターの腕ならしもかねてさっ!」
「先輩、無理なら言ってくださいね」
クロト、ゲンジ、フレイルから声をかけられる。
「悪い、そんな気分じゃ無い。」
俺は反射的に後ろを向いて、答える。
「あれ、イズモ、なんか鼻声だね、どうしたの?」
「別に、関係無い!」
「ふーん、」
いきなりクロトが俺の前に現われる。こいつ<転移魔法> (意思制御版)使いやがった。
「イズモ・・・どうして泣いてるの?・・・」
「もういいんだ。ほっといて・・」
「話してよ。悩みがあるならさ。」
「ほっとけって・・・ ほっとけっつってんだろ!」
しまった。怒りにまかせてクロトを突き飛ばしてしまった。
「ク、クロト、ごめん!」
クロトは何も言わず、殴り飛ばしてきた。
「ちょ、クロト!」
「クロ先輩!それはダメです!」
ゲンジとフレイルが即刻止める。
クロトのパンチは、痛くない。痛くないけど、痛い。
「ほっとけるかよ!あんたは俺の、俺達のマスターだ!あんたはいっつも、人の悩みは聞いて!自分の悩みは抱えたまんまで、後回しだ!少しは俺達を頼ってくれよ!何のための、俺達なんだよ!・・・少しでいいんだ。話してくれよ・・・ 俺、気が気じゃ無くて、倒せるモンスターも倒せねえよ・・・」
クロトの言う通りだ。俺はいつも悩みを抱えていた。抱えっぱなしだ。
「本当に、頼っていいの・・?」
「当たり前だ!」
涙が溢れる。俺は、こんなにも信頼されていたんだ。
「俺は、この前のレイドで、ロキを解放したんだ。能力は、全て破壊、そして消去する。俺は、あいつのデータを、存在を消してしまったんだ。そして、俺の自我も壊してしまったんだ。そしたら、夢で、お前は本物じゃない。本当のお前は永遠に帰ってこないって言われた。・・・怖いんだ。本当に。あんなボスよりも、自分が。寝ても、醒めても。俺が、俺じゃない気がして・・・」
全部言い終える頃には、また泣いていた。クロトも泣いてた。
「辛かったなあ・・・もう大丈夫だ・・・。お前はお前だ。変わらない。お前は、いつもの俺達のマスターだ。」
「ああ、・・・俺、ほんとダサいマスターだな」
気づけば、笑っていた。安心、感謝・・・いろんな気持ちが混ざって、形容できない。
「ありがとう・・・」
「こちらこそだよ・・・イズモ~!」
クロトが泣きながら俺に抱きつく。なんだろう、この安心感。そして、甘い香り。
「えっ、クロトって、まさか、女性?」
「え、そうだけど。知らなかったの?」
「う、うおお、ちょっ、クロト、離れろ~!」