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幼女ヒロインは女の子を攻略しました ……どうしてこうなった?  作者: 九條葉月
第五章 聖女と○○○○編

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閑話 ヒュンスター侯と。他一本

短めの閑話二本を一つにして投稿します。



 閑話 ヒュンスター侯と。



 リュースたちとのお茶会を終えたあと。

 王宮の出口に向かっている道中で、見覚えのある男性と出くわした。


 ――キラース・ヒュンスター侯。


 どこか気弱げな印象を与えてくる、マリーの父親だ。


「これはリリア嬢。お目にかかれて光栄です」


 ヒュンスター侯が気さくな様子で挨拶をしてきた。彼からしてみれば子爵家令嬢相手だし、9歳児相手なので畏まった挨拶をする必要はない。けれど、私の立場としてはそういうわけにもいかないので居住まいを正しつつカーテシーをした。


「おや、マリーと同い年くらいとは思えない所作ですね。マリーも鍛え直さないと……いえ、もう必要ないですか」


 ヒュンスター侯のつぶやきに首をかしげてしまう私。「もう必要ない」とは一体どういうことだろうか? 貴族として生きていく以上、礼儀作法は絶対に必要だというのに。


 まさかマリーも貴族を辞めて田舎でスローライフルートを? なぁんて私が考えていると、ヒュンスター侯が柔らかに微笑みかけてきた。貴族らしくもない、裏表なき心からの笑顔だ。


「リリア嬢。是非お礼を言わせていただきたい。……マリーを救ってくださり、ありがとうございました」


 そういえばマリーの『変竜の呪い』を解決してからヒュンスター侯に会うのは初めてだったかもしれない。


「いえ、」


 救うだなんてそんな、と謙遜を返そうとした私だけど、ヒュンスター侯は私の返答に構うことなく話を進めてしまった。こういうところはマリーの父親なのだと思う。


「リリア嬢と出会ってからのマリーは、よく笑うようになりました。素直に感情を表に出してくれるようになりました。私たちではどうやってもできなかったことを、あなたはこんな短期間で成し遂げてくださった。感謝しています。ほんとうに、ありがとうございます」


「…………」


 いやマリーさん出会った瞬間からとても素直で、けっこう簡単に笑っていましたよ? ってツッコミをしていい雰囲気じゃないですよねそれくらい分かります。


「リリア嬢になら、安心してマリーを任せられます」


 おおっとー、とんでもない発言が飛び出してきましたよ? 貴族社会において“親”の決定は絶対。そんな“親”が「娘を任せる」って発言するとか……婚約? 婚約クラスの重さがありませぬか? まさかの女の子同士で? しかも侯爵家の娘さんと?


 どうしてこうなった?


 私が内心頭を抱えていると、ヒュンスター侯は一礼してから駐車場へと歩いて行ってしまった。



「――もしもの時は。マリーのこと、よろしくお願いします」



 そんな、どこか不穏な言葉を残して。











 閑話 ヒュンスター家と竜の末裔。




 竜の聖女とは、人と竜との愛の結晶。

 竜へと変身できる亜人のこと。

 ドラゴンによる呪いではなく。竜の聖女は天寿を全うして。

 昔話と現実は違いました。


 では。

 500年前。

 ヒュンスター家は、竜の聖女は、ドラゴンを退治しなかったのでしょうか?


 もちろん。

 そんなことは、ありません。


 500年前。ヒュンスター領を黒いドラゴンが襲いました。

 下等なる人間と、そんな人間に身体を許した同族。そして、ふたりの間に生まれた穢れた子供。黒いドラゴンにとって――いいえ、誇り高き竜族にとって決して許せない存在だったのです。


 黒いドラゴンの力は強力であり、『聖剣』の力をもってしても完全なる討伐はできませんでした。


 幻想種たるその身体は首と胴体に別たれてもなお生き長らえていて。人の手では完全に滅することもできず。周囲に呪詛をまき散らし、魔力を収集し、復活するための『力』を着々と蓄えていました。


 このまま放置していては近いうちにドラゴンは復活してしまいます。

 そうして行われたのが『御魂封じ』の儀式。ドラゴンの魂を首に封印し、そのうえで肉体は徹底的に解体したのです。二度と魂が暴れないように。万が一魂の封印が解けても、操る肉体が存在しないように。


 これでもう安心。いまだに呪詛をまき散らす首は幾重にも封印が施され、たとえ封印が解かれても胴体がないのですから大した脅威にはならない。……はずでした。


 しかしドラゴンは死なず。

 首は呪詛をまき散らし続け。

 封印のわずかな隙間から魔力を少しずつ蓄え続けたのでした。


 そしてドラゴンの肉体。

 その貴重さを惜しんだ人間は細切れにした肉体すらも素材として有効活用を行い。幻想種としての頑強さは500年の歳月を経てもなおドラゴンの肉体を存在させ続けました。素材として加工され、人間たちに酷使されても摩耗せず、500年という年月を“生き抜いた”のです。



 そうして。

 黒いドラゴンの封印は解かれ。

 素材として各地に散った肉体の欠片は首の元へと集結し。



 8年前。

 500年前の恨みを忘れぬドラゴンが。

 500年間肉体を『素材』として酷使された恨みを上乗せして。


 再びヒュンスター領を襲撃したのです。

 憎き人間を殺すため。

 そして。

 汚らわしき人間とドラゴンの娘。その末裔を殺すために。






次回、1月24日更新予定です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] うん、正式に嫁認定! でも不穏な話が上がりますね。
[一言] 敢えて言うか、食われるから逃げろ(誰がとは言わない)
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