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幼女ヒロインは女の子を攻略しました ……どうしてこうなった?  作者: 九條葉月
第五章 聖女と○○○○編

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第9話 共同墓地





 ひどい目に遭った。


 それはともかくアルフとタフィンである。もはや認めるしかないけれどアレは一目惚れだろう。


 ど


 う


 し


 て


 こ


 う


 な


 っ


 た


 !?


 おのれタフィン私のアルフを誑かすとはふてぇ野郎だ!



「……お互いに一目惚れなのだから『誑かす』はちょっと違うんじゃないのかな?」

「そうだね。それにタフィン嬢は女性なのだから『野郎』という表現もどうかと思うし」

『結論。アンスールは冷静さを失っている』



 ナユハ、リュース、ウィルドから次々と突っ込まれてしまった。くすん。

 こんなやり取りをしている間にもアルフとタフィンはチラチラと相手を盗み見て、目が合うと頬を赤く染めながら視線を逸らしてしまう。初々しすぎである。まだ6歳なアルフはとにかく、タフィンは歳を考えてほしいものだ。


「……タフィン嬢もそれほど年齢は変わらないのでは?」


「そうですね。貧民街育ちなので正確な年齢は不明ですが、おそらく12~13歳くらいかと」


「少し年が離れているけれど、まぁ貴族なら普通の範囲かな。中には再婚相手に自分の孫娘くらいの少女を選ぶ貴族もいることだし、それに比べればね」


 ナユハとリュースが恐ろしいことを口にしている。アルフとタフィンがそういう関係になるとか……。


 いやタフィンは私の友達だし、頭も顔も性格もいい。貧民街出身だけど身分差は何とかなる。レナード家の財産目当ての鬼畜女と結婚されるくらいならタフィンを選んでもらった方が……?


 いや!

 でも!

 まだ早いと思うな!

 お姉ちゃんは認めません!


「タフィン! アルフとイチャイチャしたかったら私を倒してからにしろ!」


 私がそう宣言すると。


 ウィルドが私を羽交い締めにして。


 ナユハが私の右手を押さえつけ。


 リュースが左手を押さえつけた。


 身動きが取れなくなった私の頭にタフィンが軽く空手チョップ。


「あらら、リリア倒されちゃったね」


 とナユハ。


「見事なまでに打ち倒されたものだよ」


 とリュース。


『祝福。容赦のない一撃によってタフィンは未来を勝ち取った』


 とウィルド。

 君たち事前の相談もなかったのに完璧な連携すぎません?


 結果として。

 タフィンに打ち倒された(?)私はアルフとタフィンのイチャイチャを認めることになってしまったのだった。


 どうしてこうなった?





 辛い現実から目を背け。当初の目的を遂行することにする。


「さて。ここで確認しておこうかな」


 はじめてであるリュースとアルフ、あと一応ウィルドに問いかける。


「ここから向かう先では死体を見ることになるけれど、そういうのがダメだったらここで待っていてね。結構グロテスク――損壊していたり臭いがきつい死体もあると思うから」


「……死体?」


「うん、死体。ナユハと愛理はすでに一度経験済みだし、ウィルドはたぶん大丈夫だろうけど。リュースとアルフには確認しておかないとね」


 なぜかウィルドは『満足。アンスールから信頼されている』としたり顔だった。うんまぁある意味で信頼はしているかな? 多少のことでは騒がない図太い神経をしているだろうという意味で。


「…………」


「…………」


 リュースとアルフはお互いの顔を見てから、かまわないと答えた。まるで「ここで逃げたら負けだ!」とでもいうかのように。


 二人の心境はともかくとして。こちらとしては事前確認したので遠慮なく『いつも通り』のことをするだけだ。


 タフィンの先導で場所を移動。貧民街を抜けて、王都の城壁へ。貧民街は王都の南端に位置しているので、最終的には城壁に到達するのだ。


 王都の城壁には東西南北で四つの城門が設置されている。北は大聖教の大神殿に繋がっているので最高格。王族や上位貴族くらいしか通行は許されない。


 並の貴族はだいたい東の城門から出入りして、商人や旅人、冒険者といった一般人は西の城門から入るのが一般的だ。


 表向きは東西どちらの城門からも入れるということになっているけれど、貴族としては一般人がたむろす場所になどあまり近づきたくないし、一般人としては入城の順番待ちでイライラしている貴族に近づきたくはないので自然と分かれている感じだ。


 ときどきそんな『お約束』を知らない旅人が東の城門から入ろうとして貴族からケンカを売られる――なんて光景も珍しくはない。


 そして。

 四つある最後の城門。

 南の城門は基本的に閉ざされている。


 それは大神殿に繋がる北門の反対側に位置し、もっとも汚れが強いという風水にも似た思想が影響しているけれど……もう一つ。理由がある。


 城壁の外には墓地があるのだ。

 もちろん王侯貴族が使うような立派なものではなく、一般人向けの集団墓地だ。この世界は(中世風だけど)火葬が一般的なので、土葬と比べれば墓地の規模は小さめ。


 人は死ぬ。

 それは王族だろうが貴族だろうが関係なく。大商人だろうが冒険者だろうが関係ない。ときどきスクナ様や師匠のように何千年も生きている人(人?)もいるけどまぁここでは割愛。


 ここで重要なのは、貧民街に住む人々も死んでいくということだ。

 もちろん貧民に自分の葬式代を残していく余裕などなく。自腹を切って赤の他人の葬儀をしてやるような余裕ある人間もいない。


 結果として貧民街の人間が死ぬと火葬されることもなくうち捨てられることになるけれど。経験則からか死体をそのままにしておくと疫病が出ることを貧民街の人間は知っている。


 だからこそ。貧民街の人間が死ぬと死体は王都の外へ運ばれて、大きな大きな『穴』に捨てられる。古い死体の上に。層を積み重ねるように。


 前世、古代日本における風葬や鳥葬。あるいは江戸時代の遊女の死体を投げ捨てたお寺のように。


 西の城門に到着すると門番の兵士はタフィンと私を見て頭を下げた。もうみんな慣れたもので特に審査などなく通ることができる。


 リュースは身分を隠すために帽子を目深に被っていたけれど、それでも門番に止められることはなかった。


「……一応は王都の出入り口なのだけど。これでいいのだろうか?」


 真面目なリュースが難しい顔をしていたのでフォローする。もちろんフォローする対象は私たちを通してくれた門番さんね。


「いいんだよ。あの人たちはちゃんと仕事しているから。私と、私と一緒にいる子たちだから通してくれただけで」


「……それは、リリアが貴族だからかな?」


「ううん、違う」


「銀髪持ちだから?」


「それは、ちょっと関係しているかな? でも他の銀髪持ちが来てもこんな風に通してくれないよ」


「では、なぜ?」


「それは、私が送って(・・・)くれると知っているから」


 そんな会話をしているうちに目的の場所へと到着する。集団墓地のさらに端。『結界』によって周囲から隔絶されたところへと。


 いわゆる墓穴。

 大きな大きな穴の中に、貧民街で死んだ人間が捨てられている。ボロボロの衣服を纏った老人から、ガリガリに痩せ細った子供まで多種多様に。


「――ひっ!?」


 そんな悲鳴を上げたのはアルフ。もちろん多くの遺体を目の当たりにしたせいでもあるだろうけど……もう一つ。アルフが恐怖する原因がある。


 投げ捨て墓地の周辺には、ゾンビが彷徨っているのだ。


 生ける死者。

 リビングデッド。

 グール。


 様々な呼び名があるけれど、まぁゾンビと呼ぶのが一番分かり易いだろう。今は昼間だからゾンビだけしかいないものの、夜になればゴーストやらファントムといった『幽霊』も彷徨い出てくるはず。


 貧民街の人間は死んだらそのまま捨てられるからね。神官による祈りすら捧げられなかった死体のうち何割かは未練を伴い動き出すのだ。


 そう、動く死体ゾンビとして。


「さて、と」


 私はアイテムボックスから大聖典を取り出しつつ、墓穴の周囲に張られた結界の中に入った。

 この結界はゾンビや幽霊が移動するのを防止するのと同時に、生きている人間が墓穴に近づくのを防ぐ目的がある。


 世の中には肝試しでこの墓地に近づこうとするバカがいるし、死体から金目のものを奪おうとするクズもいる。中にはゾンビを『素材』として使おうとする鬼畜も存在するのでこういう結界は必要なのだ。


 この結界を通れるのは結界を張った張本人である私と、あとは『死体運び』の数人だけ。


 結界の中に入ってもゾンビたちは私に襲いかかってくることはなかった。むしろ期待をするかのような目で私を見つめている。


 大聖典を開く。

 王都の空き屋敷でリッチを浄化させたときのように今一番必要とされる呪文が浮かび上がってくる。


 自動で選ばれた文言は、やはり前世日本と同じ。


 今さら原作ゲームについて語るつもりはない。ここはそういう世界で、私はこの世界に生きているのだ。


 瞳を閉じる。

 深呼吸。

 肺を満たしたのは死の香り。

 その腐臭に取り巻かれても私の心は平穏だった。




「――沖津鏡」



「――辺津鏡」



「――八握剣」



「――生玉」



「――死返玉」



「――足玉」



「――道返玉」



「――蛇比礼」



「――蜂比礼」



「――品物之比礼」



 十種の品々が私の周りに浮かんでは消えていく。すでに失われたはずの神宝。二度とは現れるはずのない輝き。それが、死者の鎮魂のために再び現世へと姿を現した。



「――ひと、」



 一歩、踏み出す。



「――ふた み よ」



 二歩、三歩と地面を踏みしめる。



「――いつ む なな や」



 穢れた大地を浄化するように。



「――ここの たり」



 あなたたちは一人じゃないと教えるかのように。



「――ふるべ」



 誰にも悲しまれなかった死を、私は悲しむと。



「――ゆらゆらと ふるべ」



 誰にも祈られなかった死を、私がいま祈ると。


 最後の一歩を踏みしめると、空から光が降り注いだ。きらきら、きらきらと。まるでこの場にいる死者の転生を祝福するかのように。




『……おぉ、おぉおぉ……』




 ゾンビの一人が空を見上げて涙を流した。天へと向けて腕を伸ばす。

 まるで風に吹かれる砂のように。その腕の先からゾンビの身体が崩れていく。

 でも、その瞳に恐怖はなく。

 その顔には笑顔が浮かんでいた。



「――ゆく道に幸福(さいわい)を。ゆく先々に安寧(やすらぎ)を。転生輪廻の終焉で、いつか再び(まみ)えましょう」



 五分か、十分か。

 空からの光が途絶える頃には周囲にいたゾンビの姿はなくなっていた。


 死体の投げ込まれた穴へと近づき、しばしの黙祷。

 次いで、魔法で遺体に火を付けた。

 惜しみなく魔力を注いだので骨まで燃え尽きてくれるはずだ。


 浄化の炎が燃える様を私が見守っていると、



「――お見事です」



 背後からそんな声が掛けられた。


 ここは私の張った結界の中。そう簡単に中に入ることはできることはできないはずなのだけど。

 元々この結界を通過できる『死体運び』たちの声じゃない。


 可能性があるとすれば私を超える魔法使いか、あるいは……この結界はあくまでも死者を閉じ込めることと、生者による死者の冒涜を防ぐために張られたもの。つまり、死者に対する一切の冒涜の心がなければ通ることができる。の、かもしれない。


 なぜだか嫌な予感を感じつつ。私はゆっくりと振り返った。


 視線の先にいたのはもう老人と呼んでいいような小柄の女性。顔の皺は多いけれど背筋は伸びているので弱々しさはない。

 身を包んでいるのは大聖教の純白の修道服。


 この世界の修道服は基本的には穢れなき純白であり、唯一の例外は『聖女』が身に纏うことの許された漆黒の修道服のみだ。


 そして私は聖女に選ばれてしまったらしい。黒い修道服も送られてしまった。


 誰に選ばれたかって?

 誰から送られたかって?


 それはもちろん――大聖教のトップに君臨するお偉いさん。神と二番目に近しいとされる神召長様だ。


「あぁ、申し遅れました」


 老婆は恭しく頭を垂れた。わずか9歳の少女を相手に。その何倍も年齢を重ねている女性が。まるで、私が、敬意を表するに値する存在であるかのように。


「わたくしはミレーヌ・サンリス。過分ではありますが神召長(・・・)の職を拝命しております」


「…………」


 はい、私を聖女に選んだ張本人が登場ですよ。いやもう聖女に選ばれるのは既定路線っぽいけれど、まだ直接そうだと言われたわけじゃないし、なるべく出会いたくないな~面会要請も何とか断れないかな~と考えていたのに、どうしてこうなった?





 ナユハ

「どうしてこうなったって……いや、まぁ、今のリリアって完璧に聖女だしね」


 ウィルド

『肯定。亡者を送ったあの姿はまさしく聖女と呼ぶにふさわしいと絶賛する』




次回、12月25日更新予定です



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― 新着の感想 ―
[良い点] 作者さん、最近の投稿はお疲れ様です! マリーさん、母親の記憶が少ないのでそこまでの実感はないでしょうけど、客観的に成るのは容易じゃないだと思います、だから八つ当たりの復讐を選ばないのマリー…
[一言] リリアは雑に扱って三流ハッピー・エンドさせて暴走させて嫁増えてどうしてこうなったさせとくのが安定まである
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