第8話 聖女として
「――驚愕の巨大集落! 王都の南端に謎のスラム街を見た!」
なんとなく叫ぶべき場面のような気がしたので叫んでみた。イメージはもちろん水曜スペ○ャルである。藤○弘探検隊じゃなくて川○浩の方ね。
当然のようにナユハさんが冷たい目で見つめてくる。
「……うん?」
「貧民街に異変あり。その情報を得た我々は準備を整え貧民街へと飛んだ! 現地に到着した我々は詳しい話を聞くために貧民街の長・タフィンの元を訪れたのである!」
「説明台詞……。いきなりどうしたのかな?」
「いや、状況説明した方がいいかな~って。みんな忘れているかもしれないし」
「みんな覚えていると思うよ? そんなに時間も経っていないのだから」
それもそうだよねー。なんでだろうねー。
『助言。ナユハ、これはただのボケ。アンスールに正論で突っ込んでも無駄と考える』
天然でボケているウィルドから真顔で指摘されてしまった。
『そりゃあ真顔にもなるよねー』
『水曜ス○シャルとか古すぎだしー』
『しかもイメージしているのが藤○弘じゃなくて川○浩とかー』
『やっぱりどう考えてもオバサンー』
「うっさいわ!」
ちゅっどーんと雷魔法を炸裂させた私である。もちろんというかなんというか妖精さんたちはノーダメージ。ちょっと服の端が焦げたかなってくらいのものだ。
なのだけど、なぜだかウィルドは目を見開いていた。
『驚愕。魔法や物理攻撃無効であるはずの存在にわずかといえ損害を与えた。やはりアンスールは非常識だと判断する』
あ、やっぱり妖精さんって魔法とか物理攻撃無効なんだ? そんな感じはしていたけれど……、いやいや非常識なのは妖精さんの方だよね? なぜ私が非常識扱いされなきゃならないのか。
どうしてこうなった?
◇
貧民街にある一軒のあばら家に入ると、金髪碧眼の美少女が刺繍の内職を行っていた。私の年上の友達、タフィンだ。
「やっほ~、タフィン。来たよ~」
私が声を掛けるとタフィンが刺繍から目を離し、こちらに視線を向けた。私、ナユハ、ウィルドと順に眺めていく。ちなみに狭いのでリュースとアルフは中に入れていない。
「……また大所帯だなぁおい」
タフィンからも呆れられてしまった。解せぬ。
「いや呆れるだろ。今日の予定は察しが付いているよな? なんで嫁さんたちをぞろぞろと連れてきているんだよ?」
「ふっふっふ、甘いねタフィンちゃん。私がいつも女の子ばかり連れてくると思ったらそれは間違いさ! なぜなら今日はそこらの女性よりも千倍は可愛い我が弟☆アルフがいるのだからね!」
私が手招きすると空気を読んだナユハとウィルドがあばら家から出て、アルフを中に入れてくれる。
「あ~そういや前にも話していたな。結婚したければお前を倒せ的なことをほざいていて――」
室内に入ってきたアルフを見たタフィンの動きが、止まった。
同時。アルフも動きを止める。
……なんだろう?
なにやら鐘の音が鳴っている気がする。リンゴーンと。よく教会の屋根に付いている系の鐘の音が。結婚式で鳴り響く系の鐘の音が。
アルフを見つめるタフィンの頬がわずかに赤く染まっている。
対するアルフも、なにやら瞳が熱っぽいような?
「……これは、一目惚れかな?」
『首肯。お互いに一目惚れとは非常に珍しいと判断する』
室内から出て、窓から中の様子をうかがっていたナユハとウィルドがそんな戯れ言を口にする。
「戯れ言かなぁ?」
『否定。二人の間には強固な赤い糸が結ばれている。戯れ言ではないと断言する』
「い、いやいや落ち着こう二人とも。アルフはまだ6歳。6歳だから! タフィンとフォーリンラブとかないから!」
「恋をするのに年齢は関係ないと思うな。9歳で『ふぉーりんらぶ』する人もいるし」
『肯定。9歳で運命の相手に出会う者もいれば、2,212歳で初恋をする者もいる』
な、なんだか年齢が具体的じゃないですか二人とも?
こ、これから姉弟仲良くイチャイチャな毎日を過ごす予定なのに、まさかアルフに恋人(?)ができてしまう(?)だなんて……どうしてこうなった?
私が頭を抱えているとナユハとウィルドが私の肩を掴んだ。ガッシリと。
右手が超圧力なナユハさんはともかく、ウィルドさんも妙に力強くないですか? あなたパワー系のキャラでしたっけ?
「ところでリリア。アルフ様が千倍可愛いってどういうことかな? リリアは、私たちよりも弟の方が千倍可愛いと?」
『不満。自分の弟が可愛いのは理解するが千倍は納得できない。懇切丁寧な説明を求める』
なぜかナユハとウィルドから詰め寄られる私だった。な、ナユハはともかく、なんでウィルドもそんな恐い顔をしているのかなぁー、なんて。
ど、どうしてこうなった……?
ちなみにリュースはあまり騒ぐと王太子とバレるかもしれないので大人しくしていますし、愛理は璃々愛に身体を貸して『漆黒』と対峙中なのでここにはいません。
次回、12月18日更新予定です




