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幼女ヒロインは女の子を攻略しました ……どうしてこうなった?  作者: 九條葉月
第五章 聖女と○○○○編

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閑話 宰相と騎士団長


 




 閑話 宰相と騎士団長



 ・ガングード公……宰相。悪役令嬢ミリスの父。


 ・ゲルリッツ侯……騎士団長(総団長)。ナユハを騎士爵にしようと暗躍(?)した人。


 ・ヒュンスター侯……マリーの父。





 王城。

 騎士団長ゲルリッツ侯は、宰相であるガングード公に呼び出され彼の執務室を訪れた。


 うずたかく積まれた本。書類の積み上げられた机。そして、いかにも『悪役』っぽい顔をした部屋の主。年月を経て多少皺が増えたものの、それでも変わらないゲルリッツ侯の旧友である。


 二人の共通の『旧友』としては他にヒュンスター侯がいるが……今日呼び出されたのはそのヒュンスター侯が原因だろう。


「まず間違いない。変竜の書を奪ったのはマリットだ」


 挨拶もなしに切り出すガングード公。しかしいつものことなのでゲルリッツ侯も気にせず続けた。


「マリットとは、ヒュンスター侯の息子であるあのマリットか?」


「そうだ。次の侯爵であるマリットだ」


 旧友の息子であるので二人はマリットのことをそれこそ生まれる前から知っている。ゆえにこその呼び捨てだ。


「……じゃあ、なんだ? マリットがドラゴンを操ったと?」


「そうとしか思えんな。あるいは『竜の聖女』の末裔であるヒュンスター家には竜使いの力があるのかもしれん」


「竜使いねぇ? 昔話を信じるとはお前さんらしくもない」


「だが、集めた情報を精査すればそうであるとしか考えられんな。ドラゴンに襲われたにもかかわらず死者はなし。しかも変竜の書を奪ったあとドラゴンはすぐに姿を消した。何者かが操って手加減(・・・)した(・・)と考える方が自然だろう」


 実際のところ、そのドラゴンの正体は変身したマリーだったのだが、そんなことをこの二人が知る由もない。


「……マリットが竜使いだとして、だ。そうなると裏にいるのはヒュンスター侯ってことになるな」


「まだ不確定の情報だが、ヒュンスター侯と『漆黒』が接触したとの報告も上がっている」


「…………」


 漆黒という名前を聞いてゲルリッツ侯の表情がこわばった。漆黒。元魔導師団長であり、今となっては王家への復讐を公言して憚らない男。そんな男と接触しているのだとしたら……。必然的に、ヒュンスター侯も王家に恨みを抱き、復讐を誓っていることとなる。


 ガングード公が憂鬱そうにため息をつく。


「8年前のこと、恨んでいると思うか?」


「……ヒュンスター領の罪なき人々がドラゴンのせいで命を落としたのは事実だし、なにより、陣頭指揮を執っていた彼女(マリア)が戦死した」


「…………」


「ヒュンスター領に騎士団の到着が遅れたことは事実。あいつが、ヒュンスター領を襲ったドラゴンや、当時の騎士団長を恨んでいても不思議ではない」


「王家や陛下を恨んでいるとしたら?」


「その恨みは筋違いだ。陛下はドラゴン来襲の報を受けてすぐ騎士団長に勅命を下された。その後の到着が遅れたのはあくまで元騎士団長の不手際だ。……だが、もはや理屈ではないのかもしれないな」


 ゲルリッツ侯の脳裏には仲むつまじかった二人の男女の姿が映し出されていた。まだ伯爵の地位にあったヒュンスター家の次期女当主と、侯爵家の次男坊。多少は政略的な意味が込められていたとはいえ、それでも二人は恋をして、愛し合って結婚した。


 真に恨むべきドラゴンは討伐され、当時の騎士団長も死亡した。

 愛する妻を失った悲しみを怒りを、王と王家に向けてしまうのも仕方がないのかもしれない。


 無論、その先に待っているのはギロチンと一族連座という未来だが。


「もしもこちらの推測が正しく、マリットがドラゴンを操れるのだとしたら――」


「――どんな相手にでも復讐できるだろうな。たとえ王であろうと、国家であろうと」


「しかし我が国にはガルド殿がいる。レナード嬢がいる。王宮大神官や魔導師団長も王城に詰めているのが基本である以上、いくらドラゴンを使ったとしても陛下を害することは難しいだろう」


「あと可能性があるのは王太子殿下か」


「最近は視察に出られることが多くなったが、しばらく自粛していただく必要があるだろう」


 ガングード公が背もたれに体重を預け、少々辛そうに喉を鳴らした。


「道を違えたとはいえ、ヒュンスター侯は知らない仲ではない。近いうちに直接話をする必要があるだろう」


 変竜の書の強奪容疑があれば屋敷の捜索が可能であり、そうなれば“復讐”に関連した証拠も見つかるだろうに。それでもなお「直接話を」しようとするガングード公にゲルリッツ侯は何とも言えない顔をしてしまう。


「……お前さんは宰相なんだから、わざわざ危険に身を突っ込むようなことをするなって」


「危険か? ヒュンスター侯相手ならなんとでもなるだろう?」


「…………」


 その『なんとでもなる』とは魔術師としての実力を言っているのか、あるいは旧友を信頼しているがゆえの発言か……。どちらにしてもゲルリッツ侯としては黙って見過ごすわけにもいかない。


「お前さんの予測じゃマリットは『竜使い』なんだろうが。いくらお前さんでもドラゴン相手は無理だろう。……仕方ない、俺も護衛としてついて行ってやるとしよう」


「それはいいな。お前がドラゴンに食われている間に転移魔法で逃げさせてもらおう」


「ぬかせ。本当にドラゴンが出てきたらお前をエサにして、その間に討伐してやるよ」


 不敵に笑いあう公爵と侯爵は近日中のヒュンスター家訪問を取り決めてからそれぞれの仕事に戻った。







 最近、第三者視点の話だと『どうしてこうなった』を入れる余地がない……どうしてこうなった?



次回、12月14日更新予定です

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― 新着の感想 ―
[良い点] あとがきが可愛すぎる笑
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