閑話 漆黒と、
「――なぜだ? どうしてうまくいかなかった? マリーは王家に復讐を誓うはずなのに……」
王都の路地裏に身を隠しながら『漆黒』は悪態をつく。
語るのは本来の歴史。
本来この世界が辿るべきストーリー。
マリー・ヒュンスターは王家へと復讐を誓うべきであるし、ドラゴンに変身して王太子を殺さなければならないのだ。
なのにマリーは王家への復讐を拒絶し、『漆黒』への協力を拒否した。
本来の歴史にはない行動。
本来ならありえない異常。
考えられる原因は――
「――リリア・レナード」
親の敵であるかのように。
人類の敵であるかのように。
打ち倒すべき魔王であるかのように。
幾重の恨みを込めながら『漆黒』は少女の名前を口にした。
「何が聖女だ。力をもてあました子供じゃないか。無責任で、狡猾で、卑劣。偽善者で大言壮語しかできないくせに」
本人が聞いたら「どうして赤の他人からそこまで酷評されるのかな!? どうしてこうなった!?」と嘆きそうな評価を下しながら『漆黒』は深く深呼吸する。
「やはりあの女は邪魔だ」
直接の排除は難しいだろう。戦闘能力は高いし、悪知恵も働く。正面切って戦うくらいならまだ王城を直接襲撃した方が簡単だ。
「……一時的でもいい。どうにか無力化できればその間に『復讐』は成せるはずだ」
そう。
漆黒の頭にあるのはそれだけ。
行動理念はその一つ。
――復讐を。
この腐った国に復讐を。
そのためならば。
きっと、何だってしてみせるだろう。
『――小豆研ごうか』
路地裏に子供のような声が響き渡る。
『――人取って喰おか』
くすくす。
くすくすと。
子供のような存在が舞い踊る。
『リリアは、泣いてないねー』
『ナユハも、泣いてないねー』
『泣かせてないなら許そうかー』
『泣かせてないなら許そうかー』
『でも、いつまでかなー?』
『いつまでもつかなー?』
『楽しみだねー』
『楽しみだねー』
子供のような声色で。
子供のような無邪気さで。
その存在は『漆黒』を見つめていた。
『ショキショキ』
『ショキショキ』
『もしもあの子を泣かせたら』
『もしもあの子を泣かせたら』
『頭の先からー』
『足の先までー』
『――喰べちゃうぞ』
復讐に身を焦がす漆黒には聞こえない。
復讐しか頭にない者には、最後の警告とでも言うべき『声』は聞こえなかった。
妖精さんについて
リリア&ナユハ 生まれつき見える。妖精の愛し子。
愛理 幽霊になったおかげ(?)か見えるようになる。
リュース リリアの『夫』として後天的に見えるようになる。
マリー ドラゴンが『基準』になったおかげで見えるようになる。
元々の『妖精の愛し子』はリリアとナユハとなります。
ちなみにウィルドも生まれつき(?)見えますが、愛し子とはちょっと違います。
次回、12月5日更新予定です




