2.もうすぐ、弟。(または鈍感主人公)
るんるん気分である。
いや最近は他殺願望っ娘からお姉様と呼ばれたり嫁や夫や愛人が爆誕したりドラゴン退治したり狸親父とやり合ったり悪役令嬢とエンカウントしたり妃陛下から猫かわいがりされたりと精神的に『どうしてこうなった?』となる機会が多かったけど、それもすべて吹き飛んだ。
なぜなら、私が住んでいる王都のレナード別邸に我が弟☆アルフが引っ越して来ると決まったからさ!
なんでも最近のアルフは『お姉様の弟として恥ずかしくないように!』と燃えているらしく、これからはお父様の元で商売や経営について学びたいそうなのだ。
つまりこれからはアルフと一つ屋根の下生活! アルフと一緒にご飯を食べたり、勉強したり、ちょっとしたハプニングがあったり、そんな未来を想像するだけでるんるん気分なのだ!
うんうん、アルフが頑張ってくれれば女子爵ルートは潰えるし、何よりアルフが! あのアルフが自分からやる気になってくれたのだ! 喜ばない姉がどこにいる!?
「……“ぶらこん”だね」
『完全にブラコンだねー』
『評価。アンスールはブラコンである』
ナユハ、愛理、ウィルドから次々に賞賛される私であった。
「弟バカにとってはブラコンも褒め言葉なんだね……」
『璃々愛もブラコンだったなー』
『理解。アンスールは年下の男女が守備範囲』
「そういえばマリー様も年下……愛理の教えてくれた『ろりこん』ってやつだね……」
『……ちょっとナユハちゃんに俗な前世言葉を教えすぎたと反省する愛理なのであった』
『納得。アンスールの性癖を考えれば、マリー・ヒュンスターに甘いことも当然』
「……8歳児に性的興奮を覚えているだなんて……」
なにやらひっじょーに名誉が毀損されている気がするのは、気のせいかな? 私、一応乙女ゲームのヒロインですよー? 世界を救う聖女ですよー?
いやまぁ「殺してください!」とか言ってくるマリーを拒絶せず、なんやかんやと付き合っていたのは甘いと判断されてしまうかもしれない。
でも、やっぱり『姉』たちから何かと助けられている私としては、初めてできた『妹』であるマリーに甘くなっちゃうのは仕方がないと思うのですよ。決して性的興奮うんぬんだからじゃありません。
……いや、マリーは8歳児にしては胸部装甲が膨らみはじめているからね。マリーより1歳年上なのに敗北しているナユハとか、享年女子高生なのに絶壁な愛理とかに比べると――
――ガッシリと。両肩を掴まれた。
ナユハと愛理だ。
二人とも笑顔。
ものすっごく笑顔だけど笑ってない。
そして肩を掴んだ手に握力かけすぎです。特にナユハ。キミ右手が超握力なんだから手加減して痛い痛い痛いごめんなさい! そのままのナユハさんと愛理さんが素敵だと思います!
「――リリア。また何かやらかしたのかい?」
ガチャリとドアを開けて登場したのはリュース。と、案内役のレナード家メイドさん。リュースは呆れ顔だけどメイドさんは無反応でそそくさと部屋を出て行ってしまう。
あれだ、レナード家のメイドさんは状況判断能力が高いからね。『巻き込まれたら面倒くさそうです』と判断するとごくごく自然に退避してしまうのだ。主に私が巻き込みまくったせいで。
リュースが呆れ顔で見つめてきたので思わず視線を逸らしてしまう私。
「じょ、女性の魅力は内面にあると思うんだ私。うん、外見だけで判断しちゃイケナイデスヨー」
「……なるほど、また失言して女心を傷つけたと」
「ま、またとは失礼だねリュースちゃん。女心を傷つけたことなんて……ない、かな? ない、よね? あれちょっと自信がなくなってきたなぁアハハハハ……」
ナユハと愛理からの視線が痛いでござる。
私が苦笑していると愛理とナユハは肩から手を離してくれたので、改めてリュースと向かい合う。
とても重要なことなので、アルフが引っ越してくることをリュースにも伝える。
「アルフ君とはリリアの弟君だったかな?」
お! リュースもアルフのことが気になるのかな!?
「いえ~す、その通り! 私の弟にして天才で可愛くて格好良くて聡明でジーニアスでプリティでクレバーで笑顔が素敵なアルフレッドがshow upなのさ!」
「は、半分くらい言っていることが分からないけど、喜んでいることは伝わってくるね」
「そうだよーアルフのイケメン☆可愛さを見たらリュースだって恋に落ちても不思議じゃないんだから!」
「…………」
なぜか笑顔になるリュースだった。ものすっごく。それはもう、先ほどのナユハや愛理のように。
あれ? 私また失言しちゃいましたか……?
「なるほど。つまりリリアは、私と弟君が恋に落ちると?」
「え? え? え~っと? ……あ! そうか! リュースは表向き男の子だものね! アルフと恋に落ちるのはアレなのか!」
わたし子供だから具体的には言わないけど、前世で愛理が大好きだったヤツだ! BでLなヤツ!
私がそれとなく愛理を見ると、愛理は哀れみを込めた目を私に向けていた。な、何か間違えた私?
助けを求めてナユハとウィルドを見るけど、ナユハは首を横に振るだけで、ウィルドは『理解。鈍感主人公』とかほざいている。
そんなやり取りをしているとリュースは軽く肩をすくめた。
「なるほど、私の本気さが伝わっていなかったみたいだね?」
「ほ、本気って……?」
「よく分かった。リリアはどうにも言い逃れのできない状況に追い込まないと自覚してくれないみたいだ。母上――妃陛下のおっしゃることはまだ早いと思っていたのだけど、そんなこともないだろうね。むしろ早期に自覚させた方が良さそうだ。ぐずぐずしていたら脇から出てきた男にかっ攫われるなんて展開もあり得るのだから」
リュースさん、今とても早口です。
「な、何の話か分からないけど悪寒がするのは気のせいかな?」
「気のせいだ。そして気にすることはないよ。いずれふさわしい状況で、ふさわしいことをするだけだからね」
にっこりと笑うリュースだった。な、何一つ理解できないのに冷や汗が流れるのはなぜだろう?
『ついに来たかー』
『ルート確定ー』
『さらば女子爵の道ー』
なにやら妖精さんが小躍りしているし。
どういうこと? と、妖精さんを問い詰めようとする私の両肩が掴まれた。また。ナユハと愛理によって。
あ、あの、二人とも? ものすごく可愛い笑顔なんですけど、笑ってないですからね? 何でそんなに怒っているのか私分からないなぁアハハハハ……。
……ど、どうしてこうなった?
璃々愛
「もしも王妃になっても、ナユハちゃんと愛理は王妃付きのメイドとして側にいられるから安心だね!」
オーちゃん
「安心できるのかそれ?」
次回、10月20日更新予定です。




