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幼女ヒロインは女の子を攻略しました ……どうしてこうなった?  作者: 九條葉月
第四章 竜の聖女編

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閑話 とあるメイドと、とある主。



 閑話 とあるメイドと、とある主。




「――昔々。竜は若い女を生け贄に欲しました」



 とある屋敷にて。



「領主は悩みました。自分でいいなら喜んでその身を捧げるところですが、竜が望んだのは若い女。領主が犠牲になることはできなかったのです」



 とある女性が、とある絵本を読み上げていました。



「苦悩する領主。そんな“父親”を見た領主の娘は決意します。自分が竜の生け贄になるしかないと」



 静かながらも通る声音。



「そして。そんな領主の娘の覚悟を知った神様は、領主の娘に竜殺しの聖剣を授けたのでした」



 透き抜けるような銀の髪。



「聖剣の力によって竜を屠った領主の娘ですが、めでたしめでたし、とはなりませんでした。竜が最後の力を振り絞って“呪い”をかけたためです」



 血を啜ったかのような赤い瞳。



「そうして。領主の娘は竜に変身してしまう呪いを受けてしまい。その呪いは代々領主の家系に受け継がれていくことになったのです」



 絶世と評してもなお足りないほど綺麗な彼女は、ふと視線をベッドの上に移した。お昼寝をしていたはずの“主”が目を覚ましていたのだ。


 それ自体が輝いているかのような金の髪。

 伝説と同じ――否。伝説の元となった金の瞳。

 背中から生えた純白の翼。



 ――建国神スクナ。



 大陸で最大の信者を有する“かみさま”が、汚れを知らぬ少女のように頬を緩めた。


「ユーナが昔話を読むなんて珍しいですね」


 からかうように笑う主を横目に、初代勇者と称される女性・ユーナは小さくため息をつく。


「消化不良の発散、といったところでしょうか。本題に入る前に話をぶった切りましたからね、あのバカ弟子は」


「なんだかんだでリリアちゃんのことを可愛がっていますよねぇユーナって」


「……スクナの溺愛っぷりには負けますよ。いくら“血”を引いているからって……」


「あら、嫉妬ですか? ふふ、ユーナに嫉妬されるならもっとリリアちゃんを可愛がりましょうか?」


「やめてください。あれ以上“加護”を与えたら収拾が付かなくなります。ただでさえ“運命の破壊者”という業を背負っているのですから」


「はいはい、そういうことにしておきますね」


 白い羽根を嬉しそうに羽ばたかせながら。くすくすと笑うスクナが手を伸ばしてきたのでユーナは読んでいた本を渡した。


 スクナがパラパラとページをめくっていく。


「ヒュンスター家の竜の少女(・・)……こんなお話でしたっけ?」


「今はそうなっているみたいですね」


「私は昔の方が好きですねぇ。人と竜が恋に落ちるなんて素敵じゃないですか」


 そう。

 今でこそヒュンスター家の物語は『竜を討伐した少女が竜化の呪いを受けてしまった話』だが、昔は違っていた。


 真実を作り話で覆い隠した、と言った方が正確か。


 物語にいわく、竜から受けた呪いによって人が竜に変わるという。

 だが、そんな都合のいい呪いなんてない。


 そもそも一個の生物としては人より竜の方が遙かに優れているのだ。そんな竜になれることが『呪い』であるはずがない。むしろ祝福と考えるのが自然だ。


 竜による祝福。

 自分が愛した人との間に生まれた子供や、その血を引く子孫たちへの。


「ほんと、あのバカ弟子は最後まで話を聞かないんですから」


 ユーナは一通り表の物語を話したあと、『でも実際は違います』と話を繋げる予定だったのだ。500年経った今となっては知る者の限られる真実を。


 ヒュンスター家の呪い。

 竜の聖女。


 実際は、竜と人との恋物語。


 竜と人とが恋に落ちて、愛を育み、子を成して。ヒュンスター家の“血”には竜の因子が組み込まれた。女性にのみ発現する奇跡の力が。


 半龍。あるいは竜人とでも呼ぶべき存在。彼女たちは人でありながら竜でもあった。


 人が呪いで竜化するのではない。

 もともとそういう『亜人』であるだけの話。


 生物の特性として竜に変身するのだ。どんな解呪を施そうが効果が出るわけがない。たとえ“銀髪持ち”で初代勇者と称されるユーナでも、かかっていない呪いを解呪することは不可能だ。


「…………」


 絵本を読んでいたスクナの金瞳が一瞬煌めいた。本に残された“縁”を辿って読み取ろうとしているのだ。竜の聖女から現在に至るまでの『物語』を。


 すべてを視たスクナが深くため息をつく。


「ヒュンスター家の女の子には会ったんですよね? 助けてあげなくてよかったんですか?」


 万物万事を見通す金の瞳。

 その瞳を持つスクナは見抜いていた。ユーナであればあの少女を救い出せることを。


 しかし、ユーナは首を横に振る。


「私と彼女には“運命の糸”が繋がっていませんでしたから」


「あ~、運命の赤い糸、でしたっけ? ユーナって意外と『ろまんちすと』ですよね。……ふふっ、赤い糸が繋がっている人は大切にしませんと、ね?」


 くすくすと笑うスクナは楽しそうにユーナの頬を小指・・で突いてきて。抵抗の無意味さを悟ったユーナはしばらくスクナのされるがままになるのだった。




竜=ドラゴンの古名と思っていただければ。


次回、8月1日更新予定です

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― 新着の感想 ―
[一言] 半龍っこっていいですよね!
[良い点] あらー [気になる点] ドラゴン男じゃないだろうなぁ…
[良い点] おおおぉ、師匠は初代勇者さんでしたかぁ、凄いですね〜 古きの百合百合ですねw しかし、ドラゴンは祝福のつもりですけど、龍化が無意識と制御不能では、果たして呪いとは何の違いでしょうか。。。
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