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幼女ヒロインは女の子を攻略しました ……どうしてこうなった?  作者: 九條葉月
第四章 竜の聖女編

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6.騎士爵


 6.騎士爵。



 試合後。


「つまり、リリアは私の試合を見ていなかったと? リリアが勝手に売ったケンカに巻き込んだくせに?」


 絶対零度の視線で私を見つめるナユハたんだった。


「……ふ、違うよナユハ。キミの美しさは私の脳裏に焼き付いているからね、直接目にしなくともナユハの活躍は――」


「見ていなかったと?」


「……真に申し訳ございませんでした」


 大人しく頭を下げる私だった。最近のナユハさん、強い。


 私が苦笑していると、不意に左腕を抱きしめられた。近くで様子を見ていたはずのマリーだ。


「あら、嫉妬ですの? 淑女にあるまじき浅ましさですわね」


 おや? ナユハとマリーの間に火花が散ったような?


「……あなたは?」


「お初にお目にかかります。ヒュンスター侯爵が一子、マリー・ヒュンスターですわ。どうぞよろしくするつもりはありません(・・・・・・・・・)ので、よしなに」


 まぁ殺される気満々だしね。末永い付き合いなどするつもりはないのだろう。



『いやいやそういうのじゃないだろー』

『恋のさや当てー』

『女の戦いー』

『天然ハーレム作成女ー』



 妖精さんから総ツッコミされる私だった。え~? ナユハならとにかく、マリーは出会ったばかりだよ? いくら私のことを(情報としては)知っていたからって、ちょっと展開早すぎない?


『きゅあー! 修羅場だわ! 幼女の修羅場とか超可愛い!』


 騒ぐ愛理にはそろそろデコピンしてもいいだろうか?


 私とマリーの様子を見ていたナユハの目が、スッと細められた。マリーに対抗するように私の右腕を抱きしめてくる。


「そうでしたか。お初にお目にかかりますマリー様。わたくし、リリア様の“嫁”であるナユハ・レナードでございます」


 嫁と自称し、レナードの家名を名乗るとか、初めて聞いた人は本物の嫁と勘違いするよね。実際はただの養子なのに。ナユハたんは策士だなー……。


「…………」


「…………」


 睨み合うナユハとマリー。良好な関係とはとても言えないけれど、まぁ出会う人すべてと仲良くするのなんて無理な話だし、睨み合うくらいならいいと思う。


 いや、私を挟んで睨み合うのは勘弁して欲しいけどね。そろそろ私の胃が死ぬぞー?


 私の左腕をマリーが抱きしめ、対抗するようにナユハが右腕を抱きしめてきた現状。いつリアル大岡裁きが始まってもおかしくはなさそう。


 右手で岩を砕けるナユハと、ドラゴンの力が使えるマリーに引っ張られたら裂けるんじゃないだろうか私? もしかしてバッドエンドルート入っちゃった?


 いやしかし、美少女二人から取り合いになるという状況を経験できるなら多少裂けてしまっても――嫌だな。さすがにそこまでは遠慮したい私である。


 どうしたものかと私が灰色の脳細胞をフル回転させていると、



「……リリア。何をしているんだい?」



 地獄に仏とはこのことか。声をかけてきたのは仕事に戻ったはずのリュースだった。


「あ~、えっと? ……何をしているんだろう?」


 自分でも首をかしげるしかない私だった。


「――いけない子だね、リリアは」


 リュースが近づいてきて、私の顎を指でクイッと持ち上げた。両腕をナユハとマリーの抱きしめられているから逃げることも出来ない。


『きゃあ! 顎クイよ! まさかリアルで拝める日が来るだなんて!』


 愛理が大興奮だった。うぅむ、まさか前世のイケメンにのみ許された伝説の恋愛技『顎クイ』を天然でやってしまうとは、リュース……恐ろしい子!


 そしてリュースの吐息はお酒臭かった。


「りゅ、リュース、もしかして酔っ払ってる?」


「うん、そうだね。リリアの可愛らしさに酔っ払ってしまったよ」


 なんだこのイケメン?


「ルビーのように輝く赤い色の瞳。星なき夜に浮かぶ満月のような左目。遙か遠き竜列国よりもたらされた絹のように白く柔らかな肌。伝説の建国神スクナ様にも決して劣らぬ美貌。それでありながら中身は普通の少女なのだから……ふふ、本当に可愛らしい子だよ」


 なんだこのイケメン!? よくもまぁそんな小っ恥ずかしい褒め言葉がすらすらと出てくるな!


 私が戸惑っていると、リュース付きのメイドさんがスッと私の背後に立った。


「リリア様。先ほど大神官様と魔導師団長様が殿下の執務室を強襲――いえ、訪問されまして。不幸な事故により殿下が飲酒してしまったものと思われます」


「……事故?」


「はい。事故でございます。優秀なメイドである我々は何も見ておりません」


「…………」


 酒に酔った姉御と姉弟子がリュースに無理やりお酒を飲ませている光景が簡単に想像できた。何やっているんだあの二人……。

 いやこの国では(お酒は長期保存できる飲料水という扱いなので)弱いお酒なら子供が飲んでも大丈夫なのだけど……王太子に無理やり酒を飲ませる大神官と魔導師団長ってどうなのだろう?


 私の心労なんてどこ吹く風。完全に酔っ払っているリュースは止まらない。


「まったくリリアはしょうがない子だね。私のお嫁さんになるというのに、次々に女の子を口説いてしまうのだから」


 とっさに防音の魔法を展開して他の人に『私のお嫁さん』うんぬんが聞こえないようにした私。あー、でも、声は聞こえなくても私と王太子殿下が親しい仲(意味深)であるとは見れば分かるよねー……。


 ここにはまだ(原作ゲームでは王太子の婚約者に選ばれる)悪役令嬢ミリスと、その父であるガングード公がいるというのに……。どうしてこうなった?





 酔っ払いとか混乱している相手には状態異常解除の魔法。これ世界の常識ね。


 まぁとにかく、リュースは酔っ払ったときの言動は覚えていないみたいだったので問題なし。うん、問題ないということにした。ガングード公爵も『仲が良くてよろしいですなぁ』と笑っていたし。


 ……あの狸親父の発言をそのまま受け取れるわけがないけれどね。今頃どんな謀略を考えていることやら。


 できれば私が王太子妃ルートから外れるような謀略がいい……あ~、それもダメか。リュースを守るって約束しちゃったし、何よりリュースは友達だ。友達と頻繁に会えなくなるのはちょっと寂しい。


 王太子妃にはなりたくないけど、リュースの友達ではいたい。我ながら何ともワガママなことだね。


 まだ9歳なので多少のワガママは許されるかな?


 ちなみに王太子殿下に無理やりお酒を飲ませちゃった姉御と姉弟子だけど、リュースはアルコールのおかげで何も覚えていなかったし、優秀なメイドさんは何も見ていなかったのでお咎め無しだ。個人的にはそろそろ打ち首獄門でもいいと思うのだけど。


 あの二人はアレでも優秀だから王太子殿下に酒を飲ませたくらいで処罰するわけにはいかないのだろう。うん、ちょっと(王族を頂点とする)貴族としての価値観が崩壊しそうだけど、頑張れ私。


 私が現実と精一杯戦っていると、騎士団長であるゲルリッツ侯がナユハに何かお願い事をしていた。騎士の皆さんと模擬試合をして欲しいとか。


 9歳児に何をお願いしているのだろうと思う私だけど、いつも同じ騎士同士で訓練していると相手の手の内が読めてしまうため、ときどきは部外者と戦った方が訓練になるそうだ。


 本格的な槍の修行を受けている私としては納得するしかない理由だった。ナユハがそこらの騎士より強いことはさっきの一戦で分かっただろうし。


 そういうことならばとナユハも引き受けてくれた。……小さな声で『リリアのせいでイライラしていたし』とつぶやいたのは聞こえないふり――は、できないよね。あとで肩もみとかマッサージとかしてあげようかな。


 おっと、もちろんエロい意味ではないので妖精さんは騒がないように。こちとら純真無垢な9歳児じゃ。


 妖精さんたちと小さな争いをしている間にナユハと騎士たちとの戦いは始まった。


 いい機会だということでリュースも見学しているけれど、ガングード公とミリス様、ヒュンスター侯とマリーは帰ってしまった。あの二人は役職持ちだからね。いつまでも見学できるほど暇じゃないのだろう。


(マリーは王宮の図書館で変竜術について調べていたらしいけど……悪役令嬢のミリス様は何で王宮にいたのだろう?)


 いくら公爵令嬢だからといって用事もないのに王宮には来ないだろう。……『王太子と偶然出会って親密になれるかも!』という理由で娘を王宮に通わせるバカ親もいるにはいるけれど、ガングード公の地位ならば普通にお見合いを申し込めばいいだけの話だ。不確定な偶然の出会いを期待する必要はない。


 あとで姉御に話を聞いてみるかな。姉御は情報収集の専門家だし。


 そんなことを考えていると、ナユハに模擬試合をお願いした騎士団長・ゲルリッツ侯がにこやかな笑顔で近づいてきた。……怪しい。筋肉マッチョな男がまるで策謀家のような笑みを浮かべているのだ。警戒心をMAXにした私は悪くないと思う。


 私の警戒した様子を見たゲルリッツ侯は動きを止め、じっくりと私の立ち姿を観察した。


「ほぅ、強いですなぁ。その年でそこまで至りますか。いやはや、自らの才能のなさが嫌になります」


 そんなことをうそぶく騎士団長だった。図太い人だ。


「ご冗談を。槍で戦えば、私のことなんて赤子扱いできるでしょうに」


 あ、もちろん『チート』な魔法を使えば勝てるけどね。これはそういう問題じゃない。私だって一応は“神槍”を目指している身。騎士に魔法で勝てるからといって誇りは満たされないのだ。


「いやはや。強くなるのに最も必要なのは才能ではなく、現状に満足しないこと。なるほど、我が師は恐ろしい存在を育てておられるようだ」


「ふふ、現役の騎士団長様に褒められるとは光栄ですわ」


 私たちがそんなやり取りをしている間にも模擬試合は進み、ナユハは順当に一人目を撃破した。


 しかし、本当の勝負はこれから。ナユハは連戦で体力を消耗するし、相手の騎士たちは仲間の戦いを観察してナユハの動きの癖を見極められるのだ。ナユハは戦えば戦うほど不利になる。


 でも、私の襲撃者は基本的に多人数だからね。ナユハにとってもいい経験となるだろう。


「さて、何人勝ち抜けると思いますか?」


 ゲルリッツ侯の問いとほぼ同時にナユハが2人目を撃破する。

 わざわざ剣を叩き折ったのはストレス発散ですかそうですよね?

 さっき怒られたばかりだからゲルリッツ侯と会話しつつもちゃんと試合を見ていないとね。


「そうですわね。純粋な戦闘能力ならば滅多なことで遅れは取らないと思いますが……ナユハはまだ9歳で体力がありません。身体強化の魔法で多少はマシになるとはいえ、それでも5人か6人といったところでしょうか?」


 私の褒め言葉に奮起したようにナユハが3人目を撃破。相手の腕が折れたようだけど、常駐の回復術士がいるそうなのでたぶん大丈夫だろう。


「なるほど、十分ですな」


「十分と言いますと?」


「リリア嬢は『騎士爵』に叙される条件をご存じで?」


 ナユハが4人目を撃破。息が上がっているし、あと1人くらいが限界かな?


「騎士爵は……戦場や魔物討伐などで、他の手本となるような成果を上げた者に対して陛下が任命されるのでしたよね?」


「ほぅ、さすがは才女として名を馳せたリース様のご令孫。よくご存じですなぁ」


 これはどちらかというとお爺さまからの知識だけどね。


 ナユハは5人目の騎士と一進一退の攻防を繰り広げている。実力ではナユハが勝るけど、体力的な問題で勝負を決めきれていないようだ。


 相手の騎士もそれを理解しているので、受けに徹してナユハの体力消耗を狙っているみたい。


 騎士らしくない戦いと言えばそうなのだけど、この国の騎士は魔物との戦いの方が多いので『騎士道』なんて叫んでいる余裕はないのだ。


「リリア嬢。騎士爵に叙されるにはもう一つ方法があるのですよ。特殊な条件なのであまり知られていませんが」


「それは、どのような条件なのですか?」


 ナユハの武器が騎士によってはね飛ばされた。

 騎士が勝利を確信して剣を振りかぶり――


「公式の場で、現役の騎士5人に勝ち抜くこと。かつての魔王との戦いの折、騎士爵の数を増やすために作られた古い条件ですな。昔は騎士爵がなければ馬に乗れませんでしたから」


 振り下ろされる剣。

 その剣を握った騎士の手首を、ナユハが右手で掴んだ。

 そう、岩をも砕く右腕で。


 ぼぎゃり、とでも表現するべき音が練兵場に響き渡った。ナユハが騎士の右手首を握りつぶしたのだ。


 アレは痛い。

 いくら回復魔法で完治するからといって、容赦なさ過ぎですよナユハ様。そんなにストレスたまっておられましたか?


 あのストレス発散が私に向かないよう、心を込めて肩を揉まなければ……と考えつつ私はゲルリッツ侯に顔を向けた。


「王太子殿下が見学されているのですから、公式な場と言えるでしょうね。そして、ナユハは見事騎士5人に勝ち抜いてみせました」


「えぇ、見事なものです。騎士団長として、私からも推薦状を書かなければならないでしょう」


 騎士団長直々の推薦ともなれば決まったようなものだ。


 しかし、ナユハが騎士爵かー。


 国によっては準貴族だったりするけれど、ヴィートリアン王国においては騎士爵も立派な貴族籍だ。もちろん格は一番下だけれども、それでも平民とは大きな壁があるし、実力で勝ち取ったものだから一目置かれる存在となる。


 レナード家の養子であることも含めて、騎士爵になることはナユハの“力”になるだろう。特にナユハはデーリン家の娘であるとか黒髪黒目であるとか余計な色眼鏡で見られやすいし。


 まぁ、ナユハ本人が聞いたら『どうしてそうなるのかな?』と口走りそうな展開だけどね。女騎士ナユハとか絶対萌えるのでこちらとしては問題なし。あとでカッコ可愛い鎧を買ってあげよう。


 私は試合を終えたナユハに対して存分に手を振ったあとゲルリッツ侯に向き直り、カーテシーを決めた。


「ゲルリッツ侯閣下にはわたくしの友人のために何かと心を砕いていただいたようで。このリリア・レナード、感謝の念に堪えませんわ」


「ははは、なぁに、うちのバカ息子がナユハ嬢に槍を向け、さらには謝罪すらしなかったようですからな。今回の件はその謝意と思っていただきたい。それに、ここに殿下がお越しになったのは偶然ですからな」


 その偶然を利用できるのが凄いんだけどね。騎士団長と言えば脳筋のイメージだけど、脳筋では侯爵家の当主は務まらないということだろう。


 まぁ、とにかく。

 後日ナユハには騎士爵が叙されることになりそうだ。陛下もレナード家との関係を重視して拒絶することはないだろうとのこと。


 あとでナユハに教えたら予想通り『……どうしてそうなるのかな?』と首をかしげていた。





 ちなみにだけど。

 そのとき不思議なことが起こって、私が賭けた金貨1枚はとてつもない数の金貨に化けた。なにせナユハに賭けた人はほとんどいなかったし。


 もちろん清廉潔白な騎士様が賭け事をするはずがないので、本当にもう不思議なことが起こったのだ。


 この臨時収入はナユハのおかげだし、あとでいい鎧(女騎士ver)を買ってあげよう。


 いま鎧を買っても成長ですぐに着られなくなるって? そんな理屈よりナユハさんの可愛さ優先なのだ。




ちなみに、リリア以外でナユハの勝利に金貨を賭けていたのは騎士団長だけです。


次回、7月2日更新予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 『現役騎士の面目丸つぶれで騎士さんたちのほうがどうしてこうなったな感じするよねー』 『そろそろシリアスさんをデストロイが秒読みに入ったよー』 『そろそろシリアスさんはリリアを訴訟しても許され…
[良い点] 作者さん、更新はお疲れ様です! 修羅場ですねw マリーさんを心配しますが。。。 ナユハさん、完全にリリアさんのせいでトラブルを巻き込まれましたね(笑) 不思議なことが起こった!って、何かの…
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