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幼女ヒロインは女の子を攻略しました ……どうしてこうなった?  作者: 九條葉月
第四章 竜の聖女編

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5.ナユハ 対 攻略対象 ~王宮の大決戦~



 5.ナユハ 対 攻略対象 ~王宮の大決戦~



 王宮には騎士の練兵場もあるので、そこでナユハとウィリス様の対決は行われることになった。


 練兵場にいた騎士たちは急に舞い込んだイベントを歓迎し――いや、あの感じだと訓練時間が潰れるのを喜んでいるだけだね。まぁとにかく文句の一つも出ることなく練兵場を借りることができた。


 ちなみに愛理は私の側を離れ、ナユハのセコンド的なことをやっている。

 そして悪役令嬢のミリス様は義弟のセコンド的な位置に。


 試合観戦の間に原作ゲームについての話をしたかったのだけど、ガングード公がミリス様を連れて行ってしまったのだ。たぶん、何の準備もないまま娘が失言・失態を犯すのを避けたのだろう。貴族としては正常な判断だ。


 それはともかくとして。練兵場を借用するからにはここの責任者に話を通さなければいけない訳であり……。試合の準備を見守る私の隣には我が国の誇る騎士団長様が立っていた。正確に言えば複数ある騎士団を統括する総団長様。


 前任の総団長が『謎の死』を遂げられたので数年前に急遽任命されたそうだけど、噂で聞く評判は上々だ。


 たしかお爺さまの弟子の一人。直接の関わりはないけど、私の兄弟子になるのかな? 噂に違わぬマッスルな人であり、こんな人と殴り合えるフィーさんはやはりどこかおかしいと思う。


 と、騎士団長――ゲルリッツ侯が頭を下げてきた。


「リリア嬢。先日は自分の息子が大変な迷惑をかけた。こちらからも謝罪させて欲しい」


 そう、騎士団長ということは、あのアホの子――ナユハに槍を向けて私にぶん殴られた大馬鹿野郎の父親なのだ。


 非公式とはいえ、現役侯爵に頭を下げられるとか何の罰ゲームだろう?


「頭を上げてくださいませ、ゲルリッツ侯閣下。お互いに身分を隠していたところで起きたことですし、子供のしたこと。なにより、ご子息は反省して家を出たそうではありませんか」


「いやあいつは微塵も反省していないでしょう」


 父親からズバッと切られるアホの子だった。うん、反省はしてないというか、何が悪かったのか理解してないだろうねー。


 とはいえ侯爵閣下が頭を下げたのだ。水に流さないわけにはいかないだろう。


「わたくしはご子息の決断を尊重いたしますわ」


 だから許します。と言外に伝える私。あのアホの子の父親だから伝わらないかなーと少し不安だったけど、意外や意外、侯爵はすべてを理解してもう一度頭を下げてきた。


 よし、あの件はこれで手打ち。私から何か言うことはないし、あちらもこれ以上の謝罪はしてこない。


 そういうことにした私は、ちょうど試合を始めたナユハとウィリス様に視線を移した。


 ウィリス様は騎士団にも名前が通っているようで、事前のオッズではほとんどの人間がウィリス様に賭けているようだった。そういえばゲームでも武闘派で通っていたな。ルートによっては前衛として魔王と戦うし。


 しかし、甘い甘い。


 見た感じウィリス様は9歳(ミリス様と同い年だけど、書類上は弟)とは思えないほど強いけれど、私のナユハは9歳を超えた強さを有しているのだ。


 元々ナユハはデーリン流の護身術で基礎はできていたし、そのあとは私と一緒にお爺さまやおばあ様の元で修行している。しかも右手は超握力なので、ナユハはかなり強いのだ。うまくすれば騎士団長ともいい勝負をすると思う。


 ……近くにいる比較対象が私やお爺さまだから、ナユハ自身に強いっていう自覚無しなのが問題だけれどね。それも今日ウィリス様と戦えばだいぶマシになるだろう。


 というわけでナユハに金貨を賭けた私だった。……おっと違った。清廉潔白な騎士様が賭け事をするはずがないものね。これはそう、訓練。訓練なのだ。勝ち負けの大切さを身を以て学ぶための訓練。訓練とはいえ失ったものは戻らないというのはさすが王国の誇る騎士団だ。厳しいねーまったくー。


 私がうんうんと頷きながらオッズを皮算用していると、



「――あら、なにやら面白いことが始まりそうですのね」



 以前聞いたことのある声がかけられた。顔を向けると、私に殺されたい願望持ちなドラゴン変身娘、マリー・ヒュンスター侯爵令嬢と、その隣に壮年の男性が立っていた。いかにも気弱そうな態度で、丸いメガネが印象的。


 貴族名鑑で見たことがある。マリーの実父であるヒュンスター侯爵だ。いやこの空間高位貴族率高いなぁ。公爵一人に侯爵二人ですよ?


 とりあえず挨拶。『マリーと仲良くしてくれているようで感謝しているよ』とはヒュンスター侯爵の談。一度しか会っていないんですけどね。マリーはそういう風に説明しているのだろう。


 子供同士で仲良くしなさい、と少し離れた場所に移動する騎士団長とヒュンスター侯爵。いや二人きりにしないでくれません?


「まさか王城でお姉様と出会えるなんて! やはりわたくしとお姉様は赤い運命の糸で結ばれているのですわね!」


 こっちの世界でも運命の糸は赤いからねー。ただあなたの場合は糸が血まみれじゃない? 大丈夫?


「マリーはどうして王宮に?」


 いくら侯爵の娘でも、用事も無しに王宮には来られないだろう。……ときどき『偶然王太子と出会って親密になれるかも!』というしょーもない理由で王宮に通っちゃう貴族令嬢もいることにはいるけど、たぶんマリーは違うはず。


「えぇ、お父様と一緒に王宮の図書館で変竜の呪いについて調べていたのですわ」


 ヒュンスター侯は図書関係の役職に就いているから王宮図書館に娘を連れてくるくらい造作もないことなのだろう。


「わたくしとしてはお姉様に殺していただくので解呪などどうでもよいのですが、お父様はまだ諦めてはいませんので。大人しくついてきた次第ですわ」


 最後まで解呪を諦めない。それが普通の親だと思うけどなぁ。


「……マリー、殺して欲しいって本気なの?」


 一応防音の結界を張りつつ問いかけた私である。いや“左目”で見たから本気なのは知っているけど、それでももう一度問いたくなったのだ。あまりにも非常識なので。


「えぇ、もちろんですわ。わたくしがわたくしでいられる間に、お姉様にはわたくしを殺して欲しいのです」


 うっとりとした顔で断言するマリー。正直、こういうタイプの人は周りにいないのでどう対応するべきか迷ってしまう。


「えっと、私は別に快楽殺人者じゃないので、殺して欲しいと頼まれて『はい喜んで』とはならないのだけれど?」


「お金を払えば殺してくださいます?」


「お金には困っていないね」


「では、やはり悪い子になるしかありませんわね」


「悪い子?」


「えぇ。現状でも騎士様に対する傷害と、妨害。そして禁書級魔導書の窃盗などの罪を犯していますわ」


 姉御や姉弟子から聞いたばかりの話だ。禁書級魔導書“変竜の書”が何者かに強奪され、その犯人はドラゴンだったという。


 ドラゴンに変身できる。

 私の知る限り、そんな子は一人しかいない。


「……やっぱりマリーが犯人だったんだ?」


「えぇ。お兄様もあの場にいましたけれどね。お兄様は見ていただけなので『悪い子』はわたくしだけですわ」


 ……なるほどねぇ。


 私が色々と納得していると、マリーが満足げな笑みを浮かべた。


「お姉様にはすべてお見通しなのですわね?」


「ちょっと特殊な左目を持っているからね」


「……お姉様の瞳は『ちょっと』どころじゃ無いと思いますけれど」


 総会話時間が10分も行っていない子から呆れられる私だった。どうしてこうなった?


「ひ、ひとつ聞きたいのだけど、それは“変竜の呪い”なのかな?」


「えぇ、そうですわ。8年前のドラゴン討伐によって、ヒュンスター家唯一の女であるわたくしは変竜の呪いを受けてしまったのです」


 8年前、ね。


「ドラゴンになりたくないから、そうなる前に殺して欲しいと?」


「えぇ。自我を失いドラゴンとして生きるのなんて嫌ですし。ときどき変身するくらいならいいのですけれどね。殺された竜がそんな都合のいい呪いを残すはずがないでしょう」


 まったくもってその通り。


「……ヒュンスター家はたしか何百年か前にもドラゴンを倒し、変竜の呪いを受けたんだよね?」


「そうだと聞いておりますわ。ただ、ヒュンスター家の女がドラゴンになったとされるのは最初の“竜殺し”の聖女だけですけれど」


「……マリーを殺したとしても、呪いがヒュンスター家の他の女性に移り変わったら意味がないからね。呪いについてちょっと詳しく調べたいのだけど」


 私の提案にマリーはわずかに眉尻を下げた。


「解呪の方法は、我がヒュンスター家が総力を挙げても見つからなかったのですが。先日やっとお目通り叶った“銀髪持ち”の方にも解呪できませんでしたし」


 銀髪持ち?

 この国の銀髪持ちと言えば(公には)私の他にはおばあ様とフィーさんだけだ。けど、それだったら『魔導師団長にも』とか『お姉様のおばあ様にも』とか他に言い方があるはず。わざわざ“銀髪持ち”なんて表現をするのは……。


「え~っと、その銀髪持ちって誰?」


「ユーナ・アベイル様ですわ」


 師匠、何やっているんすか……。


 建国神スクナ様のメイドで、初代勇者なあの人がマリーをどうにかできないわけがない。つまり、何を企んでいるのかは分からないけど、師匠は私に解決しろと言っているのだろう。


 よく考えればドラゴンに変身できるマリーに出会ったあと、師匠に遭遇して変竜の呪いの昔話を聞かされるなんて出来過ぎているし……。


 あぁ、嫌な予感。嫌な予感がするというのに、相手が師匠だから逃げることもできなさそうだ。


 ……まぁ、でも、かなりズレているとはいえ、私のことを『姉』と慕ってくれるマリーを放っておく訳にもいかないし、なんとかするしかないか。


 とりあえず、今度マリーの家の図書室で呪いに関する調べ物をさせてもらうことになり。――ナユハとウィリス様の試合が始まった。


 ウィリス様の武器はこの国では普遍的な両刃剣。柄の部分に細やかで麗美な装飾が施されているからたぶん愛用の品だろう。


 対するナユハの武器は、右手にメイス。左手に盾。


 うん、そう。メイス。

 ゲームではよく聖職者が使っているけれど、実態は金属製の棍棒だ。頭を殴ればかなりのグロテスクを生産してくれる、およそ美少女が使っちゃいけない武器。


 ナユハは右手が超握力だから重い武器でも使いこなせるし、何よりメイスは刀剣などに比べて技術を必要としない。私のメイドとして早急に戦力化を求められたナユハにはぴったりの武器だったのだ。


「…………」


「…………」


 お互いに出方をうかがうナユハとウィリス様。


「お姉様はどちらが勝つと思います?」


「そりゃあもちろんナユハだよ」


 金貨を賭けたのだ、勝ってもらわないと困る。……じゃなかった、私は私の友達ナユハを信じているのだ。


「あのメイド服の女性ですね? ……ふぅん、ずいぶん期待されているようで」


「そりゃあもちろん心の嫁だからね」


「……嫁?」


 おや? マリーの周りの気温が数度下がったような気がするぞ? おかしいなぁ冷却魔法なんて発動していないのにアハハハハ……。


「お姉様、嫁とは一体どういうことでしょうか?」


 ずいっと顔を近づけてくるマリー。キスができそうな距離に美少女顔があれば普通は嬉しいはずなのに冷や汗しか出ないや、不思議だなぁ……。


「ま、マリー? もしかして怒っている?」


「怒ってなどいません。ただ、事実を確認しているだけです。それにお姉様にはわたくしを殺していただかなければならないのですから、他の女にうつつを抜かされては困ります」


「うつつを抜かすって……」


「いえ、しかし、お姉様の女好きは有名ですものね。嫁の二人や三人はいても不思議じゃありませんか」


「いやちょっと待って。女好きってどういうこと? 私そんな嫁が二人も三人もいないからね?」


 嫁と愛人と夫はいるけどね。……ほんともう、どうしてこうなった?


「いいのです。たとえお姉様にどれだけ嫁がいようとも。わたくしはお姉様に殺していただき、お姉様の心の中で生き続けるのですから」


「やだぁこの子ヤンデレっぽいぃ……」


 前世の私はヤンデレも大好物だったけどね。頭の中で璃々愛が『美幼女ヤンデレきたー!』と叫んでいるし。


 そんなやり取りをしている間にナユハがウィリス様の(とても高そうな)剣をメイスでたたき折り試合は終了した。


 嬉しそうに手を振るナユハさんに対して、私が取れる選択肢は二つ。




 1.美少女マリーと話していて試合を見ていなかったと正直に告白して、怒られる。


 2.試合を見ていたと嘘をつき、あとでバレて怒られる。




 わぁ、どっちにしろ怒られる未来しか視えないやー。


 どうしてこうなった?





次回、6月20日更新予定です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 試合を観ていないだから怒られるのは当たり前でしょうw まぁ、マリーさんの方が緊急性が高いので、仕方ないだと思います。
[一言] 『女にうつつを抜かして居たのは事実だしー』 『学習という言葉が頭のIMEに何度記憶してもスッポ抜けるのがリリアだしー』 『結局リリアが悪い、最終証明だよねー』
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