1.最近のリリアちゃん
1.最近のリリアちゃん。
はいこんにちは。一日にして夫と嫁と愛人が爆誕したリリアちゃんです。しかも全員女の子というおまけ付きさ。
ゲームのシナリオよ、どこ行った?
……違うって。女たらしなんかじゃないって。ただ、無意識のうちに私への好感度が振り切れていただけだって。ワタシ☆ワルクナイ。
それはいいとして……いやまったく微塵もこれっぽっちもよくないけど、いいということにして。今直近の問題は我がレナード家に滞在中の妃陛下(リュースのお母様)だ。
妃陛下は温泉(銭湯)が気に入ったらしく、しばらくの間レナード邸に滞在されるらしい。
それも、まぁいい。
いやお父様の胃痛的には大問題だけど、いいということにする。
問題は、妃陛下の私に対する距離感だ。
悪魔に呪われていることを教えたとき、気絶しちゃったから私のことを怖がっているかなぁと思っていたのだけど、実際はその逆だった。
「いいですか、リリア。妃とは、いついかなる時も冷静でなければいけません。それは王太子妃でも変わりませんわ」
私を膝に乗せながら、そんなことを口にする妃陛下――いや、エレナ様。『命の恩人に対し権力を笠に着て偉ぶるほどわたくしは落ちぶれてはいませんわ!』とのことなので名前で呼ぶことを強要されている。
あと妃になるのは決定なんですか? まだお見合いどころか正式なお話すら来ていませんけど?
「聖女であるなら、なおのこと。常に冷静に。常に寛大な心を持ち、広く万民の手本とならなければなりませんわ」
私の頭を撫でながら、そんな教えを口走るエレナ様。言ってることとやってることのギャップが酷すぎである。
「リリアは聖女様です。しかし、リュースの嫁となるのならわたくしの娘と同じ。心を鬼にして、リリアに教育を施さなければなりませんわ」
私を抱きしめながらそんな決意を語るエレナ様。どこから突っ込めばいいのだろう?
「これは訓練ですわ。リリアがどんな状況でも動じない心を持つための」
いかにもそれっぽいことを言いながらも私の頭に頬ずりしてくるエレナ様。いや~、もう、どうしてこうなった?
『――アンスールの鼓動の乱れを確認。感情・照れであると推測する』
私の顔を見つめながらそんなことをほざいているのは金髪金目、白い羽根が生えたウィルド。なんか知らないけど家までついてきた。
ウィルドの髪は床についてもなお余るほどに長いし、いくつかの髪束はリュースの首に巻き付いているのだけど、他の人には普通の長さに見えるらしい。
あの髪の毛が『運命』だとしたら、なるほど他の人に見えないのは道理なのだろう。
……いや左目を使っていない状態の私が見えるのはどうしてなのかは分からないけど。
そんなウィルド。家まで着いてきたあとは私の同室どころか同じベッドで寝泊まりしようとしたけれど、さすがにナユハさんストップが発動した。右手で神様(?)を投げ飛ばした様は頼もしかったなぁアハハハハ……。
うん、投げ飛ばすときにナユハが『同衾するのは私です!』と叫んでいたのは気のせいだ。きっと気のせいだ。
ちなみに、創造神スクナ様と同じ外見のウィルドを見てエレナ様はまた気絶してしまったけど、半日もすれば慣れた。私のベッドをめぐって対立するナユハとウィルドを見て『まぁまぁ! リュースちゃんはもう恋の修羅場に巻き込まれているのね!』と目を輝かせていたし。
さすが王妃様は神経が図太い。
もちろんお父様は未だに胃を痛めている。
と、私を猫かわいがりするエレナ様を見ていたナユハと愛理がひそひそ話をしていた。
「……まさか妃陛下まで誑かすなんて……」
『人妻まで守備範囲とは、さすがリリアちゃんだよねー』
違うから。誑かしてなんていないから。愛妻家の国王陛下に聞かれたら酷いことになりそうな冗談は止めてくれません?
そしてこの二人もウィルドには一瞬で慣れた。適応能力高すぎである。
「リリアに付き合っていればね……」
『大抵のことは『まぁ、リリアちゃんだし』と諦められるようになるよねー実際』
私のせいなの? いや色々とやらかしている自覚はあるけどさ、さすがに神様 (っぽい見た目の人)に慣れることができるのは元々の適応能力が高いだけだと思うよ?
ちなみにリュースは不在。王太子だからね。彼女は彼女で忙しいのだ。
「リリアが王宮で最上級攻撃魔法を連発したから……」
『抗魔法の結界の再設計が大変みたいだね』
「王宮で攻撃魔法が使えるとか、下手すれば王族暗殺に繋がる欠陥だし」
『たぶんリリアちゃんにもお呼びがかかるんじゃないかなー?』
「結界内で魔法を使った張本人だものね」
やだなー二人ともー。口は災いの元って言葉を知らないのかなー? ……リアルに起こりそうなことを口にするのは止めてくださいお願いします。王宮ってスローライフとは真逆の場所だから!
私は王妃にならないし、王宮にもなるべく関わらない! のんびりまったりなスローライフを目指すのだ!
『……まだ目指していたんだー』
『まぁ、目指すだけならタダだしねー』
『星に手は届かないー』
『太陽は逆から昇らないー』
妖精さんから心底同情された目を向けられてしまった。いや相変わらずのデフォルメ顔だけど、同情されているのが確かに分かる。
え? というか、私がスローライフするのって太陽とか星のレベルなの?
『というか運命が視える時点でねー』
『しかもウィルドのバカまで出てきたしー』
『もう少し運命の破壊者としての自覚を持たないとねー』
いや璃々愛と同じ扱いはマジで止めてほしい。前世だけど。前世だけど。
頭の中で璃々愛が『ふふーん、そう言っていられるのも今のうちだけさー』とほざいていたけれど、まるっと無視した。今日も平和なスローライフである。なのである。
璃々愛
「王妃様はあくまで娘としてリリアちゃんを可愛がっているだけだから。恋愛感情はないから。安心してねナユハちゃん&愛理」
オーちゃん
「安心できるのか? 王妃に可愛がられている貴族令嬢とか王太子妃ルート一直線じゃないか?」
次回、14日更新予定です。




