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幼女ヒロインは女の子を攻略しました ……どうしてこうなった?  作者: 九條葉月
第三章 男装の王太子編

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17.悪魔退治 (瞬殺)


 17.悪魔退治 (瞬殺)



 王宮に着いてから一悶着あった。ナユハが馬車の中で待機していると言い出したのだ。


 まぁナユハは罪人であるデーリン伯爵の娘だし、不吉とされる黒髪黒目。奇異の目にさらされることや、主である私への不利益を考えれば馬車の中での待機を希望したくなるのだろう。


「……あれ? じゃあなんで王宮までは付いてきたの?」


「殿下は一応男性ということになっていますから。貴族子女であるリリア様と、馬車という密室空間で二人きりにはできません」


 色々気遣われていたらしい。さすが伯爵家令嬢だったことはある。

 私にとってリュースは最初から女の子だったから、その辺の注意というか警戒心が薄まってしまうんだよね。


 それはともかく。

 私としてはナユハを連れて行ってその可愛らしさを広く王宮に喧伝したい気持ちもある。でも、本人が拒否しているなら無理強いはできないよね。


 それに、ナユハの可愛さを見た貴族が結婚を申し込んでこないとも限らないし。ナユハの可愛らしさを独占できると思えばむしろ待機してくれるのは好都合的な?


 と、私が納得しかけていると、


「ナユハ嬢。気にする必要はない」


 リュースがナユハの手を取っていた。


「陛下は黒髪の人間に対する差別撲滅を宣言していて、そんな陛下の住まう王宮に黒髪のキミが入ることに何の問題もない。そしてキミの無罪は王家の命を受けた騎士団の調査によって証明された。王太子である私と同じ馬車に乗れたことがその証拠だ。罪人が私と同じ空間にいられるはずがないからね」


 なんというか、イケメンだなぁリュース。女の子の一人や二人口説き落とせそうだ。


 まぁでもナユハは大丈夫。ナユハはそこまでチョロくない。……ない、よね? ちょと不安になってナユハの顔を見てしまう私だった。


 当のナユハはというと……『あ、はぁ、そうですか』みたいな顔をしていた。少し安心だけど、リュースは今結構いいこと言っているからね? もうちょっと感動してあげてもいいんじゃないのかな?


「この黒髪はリリア様が褒めてくださいましたから、他の誰が貶そうが気にする必要はありません。リリア様と共に生きるため、私は『逃げる』ことをやめました。他の人からどんなことを言われようが、私の心が動くことはありません」


「……ん、」


 何それ照れる。


「ですが、殿下のお心遣いは嬉しく思います。このナユハ・レナード、見事にリリア様の従者としての勤めを全うさせていただきます」


 そう言って見事なカーテシーを決めるナユハ。そうそう、忘れがちだけどナユハはレナード家の養子で、ナユハ・レナード子爵家令嬢なんだよね。


 ナユハをただの平民だと思って馬鹿にすると、レナード家を敵に回すというトラップ。さすがお父様は容赦がないですわ。


 なにやら空の彼方でお父様が『そんなつもりはないからね!?』と叫んだ気がするけど、気のせいだ。


 とにもかくにも。馬車を降りたナユハを引き連れて私とリュースは王宮の中に入った。


「おぉ……」


 この王宮はそれなりの歴史があるせいか、それなりの数の幽霊がいた。

 正面玄関を守るフルプレートな騎士とか、怨念をまき散らす首無しの貴婦人、詩人っぽい格好をした男性に、『わたくし王妃でしてよ!』ってオーラをまき散らす若い女性とか。


 とりあえず王妃っぽい幽霊にカーテシー&自己紹介。うん満足そうな表情。おばあ様仕込みの所作は王宮でも通用するみたいだ。ちょっと安心。


 ただ、幽霊さんにいちいち反応していては先に進まない。私は意識して幽霊を見ないようにして……そうすると、今度は装飾の数々が目に飛び込んできた。


 うん、ものすっごく豪華。前世の記憶にある世界遺産の大聖堂とか、宮殿とか、そんなレベルの装飾。ちょっとした金細工がすべて純金ですよ? メッキじゃなくて。


 いくら魔法技術の応用でガラスを作りやすいとはいえ、すべての窓を透明ガラスにするとかどれだけお金をかけたのだろうか?


 ちなみにこの世界の窓事情というと、庶民の家は木戸で、ガラス無し。貴族の家では応接間とかの一部の窓で透明ガラス。他は木戸か色つきガラス。……色つきというとオシャレに聞こえるけど、(予算や技術の関係で)透明度が高くできないだけだ。


 ま、大商人であるレナード邸は全部透明ガラスだけど、さすがに王宮とは規模が違いすぎるからあまり参考にはならないだろう。


「さすが王様はお金持ちですねー」


「一番偉いからね。それなりにお金をかけないといけないのさ。その辺の金細工でどれだけの国民が救えるかと考えると胃が痛くなるよ」


 なんとも庶民的な王太子である。貧民街をその目で見たから尚更なのかな?


「売り払うならレナード商会にご相談を。親切丁寧、安心査定、即日現金払いで対応致しますわ」


「何とも魅力的だが、遠慮しておこう。質素倹約は素晴らしいが、必要な権威を貶めて王権が揺らぐことになれば意味がない。金細工で救った以上の国民が不幸になってしまう」


「…………」


 ちょっと見直した。本音を言えばリュースって少し頼りないなぁと思っていたのだ。女の子だし、魔力も平凡。体捌きからして武術も並の腕前だし。友達としては良くても未来の王様としてはどうなんだろう、と。


 でも違う。

 リュースはすでに“王”としてふさわしいものを持っているみたいだ。


 大のために小を捨てる。

 集団のために個を捨てる。


 綺麗事を言えば許されないことだ。命は平等。価値は同じ。差を付けるのはいけません。


 そんなことを言い出す人間が国王だったら、国は滅ぶ。

 そんな綺麗事は、責任を取る必要がない人間に任せればいい。


 責任を持つ者。

 国を背負う者。


 最も重い責任を背負う人間は、その責任に応じた決断を下さなければならない。


 人間には差がある。

 価値も違う。

 文明を進める者。軍才を持つ者。知識の極みに到達する者。万年残る言葉を編み出す者。人々を統べる者。魔法の天才。金貨の山を稼ぐ者。など、など。人には価値の差があるし、価値のない人間よりも価値ある人間を選ばなければならない。


 それが国王。


 すべての人間を救うなんて奇跡は、神様でもなければ不可能だ。


 ただの人間であり、それでも、最も偉い国王は決断しなければならない。選び、決め、責任を負わなければならない。


(キミは、もう、その道を進みつつあるのか……)


 9歳の子供が進んでいい道じゃない。

 9歳の女の子が歩むべき道じゃない。


 …………。


 リュースと私が友達になったのは、成り行きだ。私が望んだわけではない。

 それでも。

 友達として付き合えば、それなりの情は湧いてくるものであり。


 ……いいや、はっきり言おう。

 私はリュースと一緒にいると楽しい。ナユハと同じように、気負うことなく付き合うことができている。立場も『チート』も関係なく……。


 リュース本人から言い出したことなのだし、私たちは『ともだち』でいいのだと思う。


 だからこそ。


「……逃げ出したくなったら、私に言ってね。誰にも責められない。誰にも求められない。そんな場所に連れ出してあげるから」


 私はそんなことを口走っていた。


 リュースの答えは、決まり切っている。





 なんやかんやで私たちは妃陛下の部屋前に到着した。


「――あら、リリアちゃんも巻き込まれちゃったの? あの嫁バカ男にも困ったものね」


 部屋前で近衛騎士と会話していた、高そうなローブを着た魔導師が笑顔で片手を上げる。


 銀髪、碧眼。


 王宮唯一とされる銀髪持ちで、私の“姉弟子”にあたる、魔導師団長のフィーさんだ。


 姉御に匹敵するほどお世話になっている人なので、フィーさんのことも『姉』と呼んでもいいとは思うのだけど、やはり姉弟子なので最低限の礼儀は保たなきゃいけないと思う。


 そんなフィーさんは20代半ば。貴族的には結婚適齢期を過ぎているが、そんなことを口走ったら最上級雷魔法を落とされると思う。


 本当はデファリン伯爵家を継いで女伯爵をやらなきゃいけないのだけど、宮廷魔術師をやめるつもりはないみたい。


 仕事一筋。

 そんなんだから結婚できないのだ。


「あはは、リリアちゃん。今、ものすごく失礼なことを考えなかったかしら?」


「考えてないです。だから9歳児にアイアンクローをするのはやめてください」


 フィーさんに『むんず』と掴まれた私の頭がきしみを上げている。比喩じゃなく。


 この世界にはアイアンクローという言葉はなかったのだけど、フィーさんがことあるごとにアイアンクローをして、そのたびに私が技名を口にしていたら広まってしまった。たぶん王宮にいる人間なら大体通じると思う。


「リリアちゃんは考えていることが分かり易すぎよね。ガルド様もその辺を鍛えてあげればいいのに」


「……それはフィーさんの観察眼が鋭すぎるだけですよ?」


 彼女は魔眼持ちではない。

 ただ、魔術師兼研究者として観察眼を鍛えに鍛えまくった結果、後天的に魔眼並の力を得てしまった規格外なのだ。特に他人の表情筋から考えていることを察する能力は精度が高すぎて恐れられている。


 ま、そんなところも結婚できない原因――痛いのでアイアンクローはそろそろやめてください。力込めないでー。


 この人の何が恐いって、強化魔法無しの握力でリンゴを握りつぶすんだよね。前世の知識が正しければ握力80kg越えているはず。女性なのに。魔術師なのに。色々と間違ってる。


 ま、そんなところも以下略。これ以上握力を強められるとマジで頭が割れかねないからね。


「……あれ、フィーさんが返り討ちに遭ったんですか?」


 私が呼ばれた理由は、王妃を呪っている“存在”に宮廷魔術師が返り討ちに遭ったから。らしい。


「失礼ね。私もついさっき到着したばかりで、詳しい話を聞いていたところよ。ちょっと事件の調査で出ていたから」


「事件?」


「うん、そう。事件。ちょっと前に輸送中の馬車が襲われちゃってね。リリアちゃんにも関係が――おっと、その話はまたあとで。キナと引き分けちゃったからね、二人一緒の時にお話ししないと」


 馬車が襲われたとか、また面倒なことに巻き込まれそう。

 そしてフィーさんと姉御はまた『引き分け』るようなことをしたらしい。よくもまぁ飽きないものだ。


 と、ここにきてやっとフィーさんはアイアンクローを止めてくれた。


「リリアちゃんが来たなら話は早いわね。さっさと“悪魔”を退治してちょうだい。具体的にはキナが来る前に。私とリリアちゃんの絆の深さを見せつける感じで!」


「えー」


 また何か対抗心を燃やしているらしい。


 まぁ“左目”で視たから相手が悪魔だというのは知っているし、悪魔くらいなら何とかなるけれど。だからといって9歳児に仕事を放り投げて、それで姉御に『絆の深さ』を見せつけようとする魔導師団長ってどうなんだろう?


「荒事はリリアちゃんやキナに任せた方がいいに決まっているでしょう? 私はか弱い研究者なのだから」


「…………」


 ははは、まったくフィーさんは冗談が下手だなー。か弱い研究者は騎士団長と殴り合いなんてできないし、王宮の城壁(魔法障壁付き)を破壊できないし、なによりあの『師匠』の弟子になれるはずがないじゃないか。


 それなのに“か弱い”とか、まったく、可愛い子ぶる歳でもないだろうに――


「――ゴチャゴチャ言ってないで、さっさとやって来なさい!」


 フィーさんは妃陛下の部屋のドアを開け放ち、私の首根っこを掴んで、そのまま中に放り投げた。猫じゃあるまいし……いや猫を放り投げる人間も滅多にいないか。


 猫のようにくるりと一回転して着地。警戒しつつ辺りを見渡す。


 広い。部屋と言うよりはちょっとしたホールみたい。いかにも高そうな絵画や陶器、磁器などが並べられている。妃陛下は芸術作品がお好きみたいだ。


 そんな部屋の、真正面。5人くらい寝転がれそうなベッドの上に“悪魔”が座っていた。


 黒山羊の頭と鳥の翼を持つ男性。いや、伝承通りなら両性具有かな? ……地球の悪魔と同じという保証はないか。ただ見た目が似ているだけかもしれないし。


 ただ、地球の悪魔と同一だとしたら、この悪魔の名前はバフォメット。まごう事なき上級悪魔だ。


『ほぅ、聖女とは珍しい。くくくっ、自ら人身御供になりに来るとは殊勝な女だ』


 言われて気づく。私、聖女専用の黒いシスター服着たままじゃん。家で妃陛下に挨拶(?)してからずっと……。うわぁ、シスター服のまま王宮の中を歩いちゃったとか『自分、聖女ですよ!』って宣伝しているようなものじゃないか……。


 恥ずかしさに身悶えながら私はアイテムボックスから大聖典を取り出した。姉御の独断で私に譲られたものだけど、先日神召長様から正式に私のものにする旨のお手紙をいただいた。


 その手紙の中に『近々お目通り願いたく』と書いてあったことは見なかったことに……できないよねぇやっぱり。そして会ったら会ったで正式に聖女として任命されてしまいそう。


 うぅ、私の目指すスローライフがどんどん遠くなっていく……。


 私が嘆いていると悪魔がいかにもな高笑いを上げた。


『ふははははっ! 大聖典だと! この俺様が! 詠唱する暇を与えると思っているのか!?』


 私に向けて突進してくる悪魔さん。正直、驚くほど速い。並の9歳児なら瞬きするまもなく引き裂かれているだろう。


 でも、お爺さまよりは遅い。

 お爺さまより遅いなら、余裕で対処できる。



 ――視えた。


 左目を使わないまま。

 私は、目の前の悪魔を見切った(・・・・)



 私は右手の大聖典を強く握りしめて――


「姉弟子直伝! 姉弟子カウンター!」


 ――ぶん殴った。

 悪魔の顔面を。

 大聖典の角を使って。

 姉弟子直伝の技で、絆の深さを見せつける感じで。


 我ながら惚れ惚れするようなカウンターの一撃だ。


 本で殴るのはどちらかというと姉御の仕事じゃないか? というツッコミはしてはいけない。


『へぶぅ!?』


 悪魔が鼻血を出すが容赦などしない。


「姉弟子ラリアット!」


『ごふ!?』


「姉弟子ドロップキック!」


『げはっ!?』


「姉弟子クーゲルシュライバー!!」


『がはぁっ!?』


 クーゲルシュライバー。ドイツ語でボールペン。


 ――特に意味はない。


 ただ単に、カッコイイから採用しただけよ。by姉弟子。

 もちろん元ネタ提供はこの私だ。


 トドメのクーゲル(以下略)を鳩尾に受けた悪魔はサラサラと足元から灰になっていった。


『ば、ばかな! 上級六大悪魔である俺様が、物理攻撃で滅せられるなど――』


 滅せられました。

 あっさりと。

 悪魔は灰となって散り消えた。


「……ふっ、勝った」


 一応左目で確認。うん、完全消滅。消えたふりなんかじゃなさそうだ。


 こうして妃陛下を長年苦しめた悪魔は討ち倒されたのだった。めでたしめでたし。


 フィーさんが痛そうに頭を抱えているけど、気のせいだ。私に任せたのだからシリアス・デストローイくらいは覚悟していただきたい。






 ちなみに。

 今回の件が王宮内に広まったらしく、一部の人間は私を“撲殺聖女”と呼んでいるらしい。そんなどこかの撲○天使じゃあるまいし……。


 ……どうしてこうなった?




この話に使えるシリアス・ポイントは直前のリリアとリュースのやり取りで使い切りました。スマン悪魔よ。



次回、3月1日更新予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 撲殺天使のOPが流れてくる
[一言] 撲殺聖女、聖典ゲシゲシ、リリアちゃん♪
[良い点] この聖女の技リストにはリリアガントスパークとかリリアの断頭台とか悪魔殲滅落としとか控えてそう
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