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幼女ヒロインは女の子を攻略しました ……どうしてこうなった?  作者: 九條葉月
第三章 男装の王太子編

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15.妃陛下と、呪い


 15.妃陛下と、呪い。



「やぁ、リリア。今日はよろしくね」


 とある日。またまた王太子リュースの襲来があった。貧民街であれだけ胃を痛めるような目に遭ったのに、私を訪ねる頻度に変わりはない。


 彼女、思ったよりも図太い神経しているのかもしれないね。

 ……まぁそうでもなければ『王太子』なんてやっていられないか。


 さて、リュースが来るだけならいつもの日常なのだけど、今日はもう一つイベントが重なっている。

 前々から話があったように、妃陛下が温泉を堪能しにいらっしゃるのだ。


 今日という日に備えてお父様の胃に何度か治癒魔法をかけたのは言うまでもない。


 妃陛下がレナード邸にやって来るまで時間があったので、私とリュースは貴族らしくお茶会と洒落込むことにした。いやリュースは王族で、正確には貴族じゃない(貴族より上)のだけれどね。





 リュースとのお茶会を堪能していると、メイドさんが妃陛下の来襲――じゃなくて到着を教えてくれた。


 リュースたちと一緒に部屋から玄関のエントランスホールに繋がる廊下を歩いていると、お父様の話し声が聞こえてきた。どうやらエントランスで妃陛下に挨拶をしている途中らしい。ちょっと遅かったか……。


 ここで慌てて挨拶に出向くのは悪手だ。妃陛下をお待たせした格好になっちゃうからね。子爵家令嬢が王妃を待たせるのはかなりの不敬。


 まぁ王太子殿下であるリュースに付き添っての登場なら問題はないだろうけど、妃陛下が礼儀にうるさい人だったらちょっと面倒。

 ここは応接間に先回りして、そこで待ち構えて挨拶するのが一番穏当だろう。


 と、その前に。

 私は廊下の壁に隠れながら妃陛下の姿を確認した。なにせ妃陛下は絶世の美人として有名だからね。肖像画しか見たことないけど、女の私でも見惚れてしまうレベルの美しさ。挨拶の場ではジロジロ見ることもできないし、今のうちに堪能させてもらおう。


 壁から少し顔を出す私。


 その後ろではリュースとナユハが、


「リリアは何をしているのかな?」


「はい、美人として有名な妃陛下を盗み見ているのかと。リリア様は美しい女性に目がありませんので」


 という会話をしていた。


 ちょっとナユハさん、友人兼ご主人様の名誉を毀損するのは止めてもらえませんか? 間違っていないのがアレだけど。

 まぁ毒舌を吐くナユハも可愛いからこれはこれで。


「…………、……う~む?」


 私は妃陛下を観察しながら疑念の声を上げた。

 やせこけている。

 それでも十分元の美しさを察することはできるけど……。いや、妃陛下はご病気だという話は聞いたことがあるから、そこは驚くことではない。でも、しかし……。なんだろう? この違和感は?


 嫌な予感がした私は眼帯を外し、左目で妃陛下を観察した。


「……うわぁ」


 妃陛下のご病気の原因は分かった。

 分かったけど、アレはダメだ。どんな治癒術も効果はないし、たとえ上級ポーションを使ってもダメだろう。


「…………」


 あまり目立つことはしたくない。特に相手はリュースの母親。妃陛下。下手に気に入られたらスローライフ計画が吹き飛んでしまうかもしれない。


 でも、罪なき人が苦しんでいるのに、見て見ぬふりができるほど私は達観していないし、したくない。


 挨拶を終えたお父様と妃陛下は応接間に移動を開始した。私も向かう――前に、ちょっとした演出をすることにした。


 その演出に必要なことなのでアイテムボックスから“聖布”で作られた聖女の神官服を取りだし、さっそく着替えて――


「――り、リリア!? なぜいきなり服を脱ぐのかな!?」


 リュースが慌てていた。女子の着替えを見て取り乱すとか、そんな思春期男子じゃあるまいし。


 私は服を脱ぎながらリュースの疑問に答える。


「うん、部屋まで戻るのは面倒くさいからここで着替えてちゃおうかなーって」


 リュースからの好感度が急落するって? 破滅ルート回避を考えればむしろ望むところですよ? ぜひ婚約前に幻滅してくださいな。


「貴族子女としてそれはどうなのかな!?」


「いいじゃん、減るものではないし。ここは私の家で、覗きをするような人間はいない――あぁ、リュースの護衛は覗き魔みたいなものかな? でも、みんな女性なのだから私は別に見られてもいいし」


「え? なんで護衛が全員女性だと――じゃなくて! ダメだよ! 減っちゃうよ! 色々なものが! いくら姉御と呼び慕っているからってキナの真似はしちゃダメだよ! アレはっ! 特殊なっ! 事例っ!」


 その口ぶりだと、姉御、殿下の前で脱いだことがあるのか……。いや今の私は人のことを言えないか。


 と、私とリュースの間にナユハが割り込んできた。私に対する壁になるかのように。


「殿下。恐れながら申し上げます。殿下は表向き男性なのですから、リリア様の下着姿を見ることは控えるべきかと。えぇ、ご安心を。お着替えはリリア様の“専属メイド”であり、“嫁”でもある私がお手伝いいたしますので」


「…………」


「…………」


 なぜか無言で見つめ合うナユハとリュース。そんな二人を見て『修羅場キター!』と騒ぐ愛理。

 そして三人を脇目に素早く着替え終えたリリアちゃんであった。


 まぁ、仲の良さそうな三人は置いておくとして。

 無駄に重い裾を翻しながら、応接間へ。正式な神官服を着ると背筋が伸びた気がするのだから不思議なものだ。


 応接間の扉には護衛らしい騎士が二人立っていたけれど、私の姿を見て『せ、聖女様!?』と叫び声を上げ、慌てた様子で室内に入った。たぶん妃陛下に報告しているのだろう。

 しまった、リュースたちとのやり取りの間に妃陛下は応接間についていたのか。


「せ、聖女様! どうぞお入りください!」


 入室許可が下りたのか、緊張した様子で私を案内してくれる騎士二人。う~ん、私ってそんな大層な人間じゃないんだけどなぁ。


「いや聖女ですからね? 神と最も近しい人間ですからね? リリア様が大層じゃなかったら、この世界から偉人英傑の類いは消滅しますよ?」


 他の人の手前、ナユハが敬語でツッコミをしてくる。いやスクナ様と最も近しいのは師匠だからね?

 私が反論しようとすると今度はリュースがツッコミしてきた。


「主神スクナ様と同じ色の瞳を持ち、1,500年ぶりにポーションを作ったくせに『大層な人間じゃない』って……。ダメだこの子自覚がなさすぎる。私がしっかりしないと」


 なにやら使命感に燃えているリュースだった。

 そんな二人の声は聞き流し、私は教会式の礼をした。妃陛下が視線で許可をくれたので自己紹介する。


「お初にお目にかかります。わたくし、レナード子爵が一子、リリア・レナードでございます。不相応ではありますが、神召長様から“聖女”と認定させていただいております」


 まだ神召長には会ったことすらないけどね!

 私の挨拶を受けて妃陛下は惚れ惚れするような一礼で答えてくれた。今にも倒れそうなほど痩せ細っているのに、所作に微塵も狂いがない。彼女こそ本物の淑女だろう。


「聖女様にお目にかかれた幸運、スクナ様に感謝致します。わたくしはキュテイン公爵が長子、エレナ。現在はエレナ・ヴィ・ヴィートリアと名乗らせていただいております」


 妃陛下にしては懇切丁寧な挨拶。子爵家令嬢に対するものとは信じられない。

 なぜこんな挨拶をしたかというと、私が“聖女”だから。国家宗教である大聖教に絶対的な影響力を持つ聖女(わたし)に対しては、王妃とはいえ丁重な対応をしなければならないのだ。


 あぁ、そう考えると私のスローライフってかなり難しそう。姉御め、だからあのとき『ちょっくら平穏無事な生活というものを諦めてもらおうか』なんて口走ったのか……。


 くっそうあのときもう少し聖女についての知識があればなー。まさかここまで影響力があるとは思わなかったんだよなー。ゲームでもそこまでの描写はなかったしー。


 ……ま、ナユハを救うためだから、たとえ知っていたとしても私は迷わなかっただろうけど。


 問題は、聖女になったこととナユハを救えたことにほとんど因果関係がないってことか。というかナユハは自分で決着付けちゃったし。……あ、ちょっと泣きそう。負けるな私。今はとにかく妃陛下だ。


 小さく首を振ってから私は左目で妃陛下をじっと見つめた。

 やはり間違いない。

 確信を抱いた私は微笑みを浮かべながら“答え”を口にした。


「妃陛下の寝室、ベッドのすぐ側に飾られているツボは素晴らしい一品ですね」


「……は?」


「竜列国の磁器ですか。蓋付きとは珍しい一品ですね。なるほど、公式な贈り物であれば無下にできないでしょうけれど、それを抜きにしてもお気に召しているご様子」


「あ、あの、何を……?」


 顔を蒼くして後ずさる妃陛下。最近“左目”を使うことが多いせいか視えることが増えたんだよね。レベルアップが嬉しくて余計なことまで喋ってしまったみたい。


 まぁ恐がられるのは覚悟していたので別によし。私はさっさと伝えるべきことを伝えることにする。


「そのツボ、呪われていますよ? 妃陛下の体調不良はそれが原因。病の原因が体内にないのですから、どんな治癒魔法を使っても効果はないでしょう。たとえポーションを使っても再発してしまうに違いありません。すぐに魔導師団の――フィー・デファリン師団長に相談されるべきかと」


「…………」


 もはや倒れそうなのを護衛騎士に支えられている妃陛下に対して、私は笑顔を浮かべながら最後の一言を言い放った。


「信じるか信じないかは、あなた次第です」





『……そこでネタに走るのかー。しかもハロー○イバイの都市伝説とか……。さすが璃々愛が認めたシリアス・デストロイヤーの後継者……』




 愛理のツッコミが胸に突き刺さった。あれ? おかしいな? ネタに走るつもりはなかったんだけど。前世の記憶に残っていた言葉を無意識のうちに口走っちゃったのかな?


 ど、どうしてこうなった?







 リリアの主観では、ナユハの心を救ったのはナユハ自身で、自分はほとんど何もできていないことになっています。


次回、21日更新予定です。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 妃陛下ってなんて読むのですか?普通は王妃とかですよね。何か意味があるのですか?
[一言] 誰から貰ったとか聞かずにさらりと真実ぶちまけんなやw
[良い点] 作者さん、最近の更新はお疲れ様です! リリアさん、どうやらスラム街と貧民孤児達に手助けをしているようです、慈善活動もしっかりしていますね! 何故リリアさんは自分が一般人だと思うか凄く不思議…
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