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幼女ヒロインは女の子を攻略しました ……どうしてこうなった?  作者: 九條葉月
第三章 男装の王太子編

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11.王太子との一日


 11.王太子との一日。



 隣の屋敷の解体も無事に終わり。

 さぁやっと銭湯建設だ! と、私が意気込んでいると――


「あぁ、リリア。近いうちに妃陛下と王太子殿下がこの屋敷にやって来るから」


 お父様がそんなことをほざいていた。顔を蒼くし胃を押さえつけながら。


「……はい?」


 王太子リュースはこの前一度やって来ているから別にいいけど……妃陛下ってアレですよね? 王妃様ですよね? 実際の権力はともかく、この国で二番目に偉い人。


「急ぎですまないけど銭湯の湯船だけでも作ってくれないかな? 一つだけでいいから。妃陛下が温泉をご所望なんだ」


 王太子とエンカウントどころか、妃陛下まで一緒なんて……どうしてこうなった?


 ……と、嘆いている暇もない。なにせこの国で二番目と三番目に重要な方々がやって来るのだ。子爵家の屋敷に。二代前までは平民だった家に。何の冗談だ?


 もちろんお父様がそんな冗談を言うはずもなく。期日は不明なので早めに準備をしておかないとね。


 私はさっそく隣の敷地に移動して、高さ10メートルほどのゴーレムを錬成した。材料は地面の土。ゴーレムを作った分だけ穴が空いたので、これをそのまま湯船にしてしまおう。


 領地から持ってきた岩を風魔法で切断、成形。

 ゴーレムを操作して岩を運び、穴の中に敷き詰め、あとは土魔法で岩の間に砂を詰め込み、固めて岩状にしてしまえば岩風呂の完成だ。


 あ、岩肌でケガをすると危ないから風魔法で表面を削っておこう。うんうん、我ながら気遣いのできる9歳児だね。


「ゴーレム錬成と、術式を組み込まない直接操作……。そこまではまぁいいとして、砂を岩に変えたのは……もしかして物質転換魔法?」


『しかも風魔法で岩を切ったり削っているよ。どんな速度で風を動かしているんだろうね?』


 近くで作業を見守っていたナユハと愛理が褒めてくれていた。


「いや褒めてない。むしろ呆れているからね?」


『リリアちゃんにはもうちょっと常識を持って欲しいよね。魔法の勉強をはじめたばかりの私ですら最低限の常識は持っているのに』


 そんなにおかしいことはしていないはず、なのだけど。二人の反応を見るに自信がなくなってきたなぁ……。


 ま、いいや。早くできるのはいいことだ。あとは源泉から湯船までの水路を作って、温泉を貯めて……あ、排水のための水路も作らないとか。その辺も土魔法でつくっちゃってーと。


「愛理ちゃん。土魔法ってあんなに便利なものだったっけ?」


『リースさまに習った限りでは、植物の生長を少しだけよくするとか、水はけをちょっとだけよくするとか……。ゴーレムにしたって術式やら魔石やらを準備して初めて錬成できるものらしいし。あんな風に地面を掘ったり魔石無しでゴーレムをぽんぽん作れるような魔法じゃないよねー』


 なにやら自分の中の常識が揺らぎそうだったので二人の会話はスルー。とりあえず湯船はできたからあとはお父様が連れてくる大工さんに任せようかなぁと私が考えていると――


「――め、目の前の光景が信じられないね。さすがは“銀髪持ち”だ」


 はい、王太子リュースの襲来です。たしかアホの子を連れてきたのが3日前のことだよね? キミちょっとフットワーク軽すぎじゃないっすか?





 幸いにして(銭湯目的の)妃陛下はまだ来襲せず、リュースだけの襲撃だった。

 いや王太子がやって来るだけでも下手なことをすれば御家お取りつぶしな一大事なのだけどね。慣れって恐いなーと思うリリアちゃんなのであった。


 リュースの目的はお貴族様っぽくお茶会。私の予定が空いていることはキナの姉御から確認済みなのだとか。私そろそろ姉御を殴っても許されると思う。


 まぁ、『友達』だしね。お茶会自体に問題はない。ということにする。


 場所はリュースの希望で私の部屋。

 もちろん二人きりなんてことはなく、私の後ろにはナユハと愛理、リュースの後ろには護衛兼メイドさんが控えている。


 あと、扉で繋がった私の寝室に三人。天井裏に二人。護衛の人間がいるのが気配で分かる。王太子殿下の護衛をしなきゃいけないのは分かるけど、少女の寝室に無断で忍び込むのはどうなんだろうね?


「…………」


 ちょっとムカついたので、ちょっと“威圧(殺気)”を飛ばしておいた。ちょっとスッキリ。


 寝室から響いてきた『ひっ!?』という小さな叫びは聞かなかったことにする。なぜならスッキリしているから。


 そんなスッキリした私とは対照的に、リュースは運ばれてきた紅茶に手を伸ばすことなく、憂鬱そうにため息をついた。美少女を前にしてそんな態度はどうかと思うけど、それだけ気を許してくれているのだろう。


 ま、王太子って普通の友達ができなさそうだものね。そういった意味では私とリュースは似ているのかもしれない。


 で、軽く話をしたところ、アホの子――ギルスは本当に旅立ってしまったらしい。貴族の子息にしては素晴らしい行動力だ。考え無しとも言う。


 色々と思い出したのかリュースが物憂げに前髪を掻き上げた。


「……ギルスを側近候補から外すのは仕方がないことだ。諦めもついている。だが、サリアまでもが辞退してしまったのは想定外だ」


「サリアってあのとき一緒にいた子かな?」


 中々いい聖魔法の才能を持っていた女の子。


「そういえば自己紹介をしていなかったね。そう、将来的には治癒や事務処理で私の力になってくれるはずだった子だよ」


「王太子の側近なんて最高級の出世株じゃん。どうしてまた辞退なんて? リュースがセクハラしちゃったから?」


「……その『せくはら』の意味は分からないけど、非常に不名誉な響きに聞こえるのは気のせいかな?」


「気のせいだよ。そして意味は知らない方が幸せだよ?」


「……なるほど、そういう系統の言葉か。覚えておこう」


「王太子殿下がそんな俗な言葉を覚えてはいけません」


 いやマジで。前世の言葉だから大丈夫だと思うけど、王太子をセクハラ人間扱いしたと知られたら首が飛ぶんじゃなかろうか、物理的に。


 と、なぜかリュースが微笑みを浮かべた。いわゆるイケメンスマイル。女だけど。


「今の私は王太子ではなくて一人の少女、リュースだよ。そして、私の目の前にいるのは聖女でもポーション開発者でもない、ただのリリアだ。同い年の平凡な友達二人が『俗な言葉』を使ったとしても何の問題もないだろう?」


「…………」


 なんというか、リュースって女の子だよね? 滅茶苦茶イケメンな発言が飛び出しているんですけど。後ろで愛理が『きゃー! イケメン! 魂がイケメンだわ! 萌え死にそう!』とか叫んでいるし。


 あー、私も自分の死亡フラグが関わっていなければ萌え萌えしているのに……。


「そ、それで? なんでサリアちゃんは側近候補を辞退しちゃったの?」


「ギルスを止められなかった責任を感じて、だそうだ」


「気にすることなんてないのに。もったいない」


 殿下の命令すら聞かなかった阿呆など放っておけばいいのだ。


「……あまりこういうことは言いたくないが、ギルスの代わりに腕の立つ人間を用意することはできるが、サリアの代わりはちょっと難しいね」


 ひどい言いぐさである。

 が、当然の話でもある。


 なにせリュースはこの国の頂点に立つ人間。使える人材か使えない人材かを判断し、時には使えない人間を排除する決断をしなければいけない立場となるのだ。友人であろうがなかろうが関係なく。それができなければいずれ国は滅ぶ。


 むしろ、今の今までギルスのような人間を側近候補にしていたのは判断が遅すぎる。


「今度選ぶときは、もうちょっと慎重にしないとね」


 私がそう言うと、なぜかリュースはにっこりとした笑みを浮かべた。なんか悪巧みしているときのリースおばあ様っぽい。……そういえばおばあ様も元王族だものね。一応リュースとも血のつながりがあるのか。名前も似ているし。


 おばあ様は国王の姪だから、国王の娘であるリュースとの関係は……、……うん? どうなるんだろうね? 従姉妹、でいいのかな?


 私が内心で首をかしげていると、リュースはにっこりとした笑みを浮かべたまま言った。


「あぁ、そうだね。次の側近候補は私の立場を理解した言動をしてくれつつ、個人的には友人として接してくれるような人間がいいな。同い年で、楽しく付き合えるならば最高だ」


 じっとこちらを見つめるリュース。

 ふむ。その視線の意味を考えると――


「――ナユハか!?」


 私の後ろに控えているナユハを見ているのか!?


 ナユハは元貴族だから言動で失敗はしないし、リュースが望めば友人としても付き合ってくれるだろう。なにより二人は同い年で、ナユハと一緒にいると楽しい! なんということでしょう! ナユハの魅力は王太子であるリュースをも虜にしてしまったのです!


「……どうしてそうなった?」


 リュースが何かつぶやいているけど気にしている余裕はない!


「くっ! いい目の付け所だねリュース! だが! 私の嫁であるナユハを口説きたかったら私を倒してからにしろ!」


 私はイスに座ったまま流派東○不敗の構えでリュースを威嚇した。美少女ナユハを守るためなら、私はお爺さまにも勝てる気がする!


 ……いや、お爺さまがナユハを奪おうとした場合は『悲しいことだ、一族からロリコンが出てしまった……』怒りとか悲しみによる強化での勝利だろうけど。


 リュースが笑顔のまま固まっていると、私の後ろにいたナユハが呆れを隠さぬ声を上げた。


「殿下。恐れながら申し上げますと、リリア様の『嫁』発言は言葉通りの意味ではなく、どちらかというと保護対象者を表す表現かと思われます」


 リュースがいるからか敬語を使うナユハだった。そして失礼な。ナユハだったらいつでも本来の意味での嫁にしてもO.K.だというのに! 百合趣味はないけどな! ないはずだけどな!


「……そういうことは、冗談交じりではなく真っ正面から口にしてください」


 ナユハがじーっと私を見ている。

 見ている。

 見ている……。


「んふぅ」


 なにやら恥ずかしくなって目を逸らしてしまう私だった。

 おかしい。出会った頃は私が主導権を握っていたはずなのに……どうしてこうなった?



『ヘタレだからさー』

『この意気地無しー』

『恋愛クソ雑魚ナメクジー』



「おぅっふ」


 妖精さんの大合唱に心が折れそう。

 いつものように雷魔法を落としてやろうかと思ったけど、いくらなんでも王太子の前で攻撃魔法を使うわけにはいかないから自重した私である。


 そろそろ攻撃魔法以外の制裁方法(ツッコミ)を探すべきかもしれない。



物質転換魔法を究めると鉛とか水銀を金に変えることができます。いわゆる錬金術。そりゃナユハさんも驚くわー。


スローライフを送るならお金の心配がいらなくなる物質転換魔法を極めるべきなんですけど、そこに気づかない(そういう発想に至らない)のがリリアさんクオリティ。お金は真っ当な手段で稼ぐべきと考える真面目な子です。




次回、22日更新予定です。


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― 新着の感想 ―
[一言] サリア今考えるとめっちゃもったいない人材だよなあ(再登場してくれないかなあ
[一言] 今回も妖精さんたちのツッコミが正しいわな 俺は勘違いしていた、リリアが逃げ出して外堀が埋められていたどころか 本丸以外の施設が壊滅状態やんけ ナユハ達の援軍も(呆れて)期待できないのでリ…
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