閑話 とある“運命”
夜あたりにもう一本閑話を投稿します。
閑話 とある“運命”
――狭い部屋だった。
両腕を広げれば左右の壁に手のひらがついてしまうほどの狭い空間に、“彼女”はいた。
神話に語られる創造神たちと同じ金の髪、金の瞳。そして、背中から生えた純白の羽根。
見目の美しさや、人間ではありえない羽根はもちろん目を引くのだが、“彼女”において最も特徴的なのはその髪であった。
流れるような金の髪はひたすらに伸ばされていて。床に付く――どころか、床一面を覆い隠すほどの長さがある。
髪の一部は束となり、天井や壁に向かって伸ばされている。不思議なのはその髪束が途中で変色し何処かへと消えていることか。ある束は黒ずみ、ある束は赤く、ある束は白く……、といった具合に。
金と複色の髪が支配する空間。
その中心にいる彼女はふと視線を上にあげた。天井へと伸びていた髪束のいくつかが激しく揺れたためだ。
『――運命が狂った?』
抑揚はあるのに感情は込められていない。そんな不思議な声だった。
“彼女”は腕を上げ、指先で何かを操作した。
途端、目の前に青白く光る画面が出現し、とある光景を映し出す。
輝くような銀髪の少女と、彼女の手を取り片膝をつく金髪の少女。
その光景はまるで演劇の一場面であり、とても素敵な物語の始まりを予感させた。
きっとその物語は幸せで、悲劇なんて存在せず、ありとあらゆる障害も二人を止めることはできないはずだ。
そんな物語は『運命』に存在しない。
彼女にあるのは悲劇のみ。
幸せな結末も、かすかな希望もありはしない。
彼女の死は絶対で、一度や二度避けた程度では死の運命は覆らない。
人はいつか必ず死ぬが、彼女にはそれが早く訪れる。彼女に15歳より長く生きる道などないのだ。
……でも。
もしも、そんな悲劇を破壊できる存在がいたとしたら。
もしも、悲劇を喜劇に変えられる“少女”がいたとしたら……。
『――これの識別名称はウィルド。運命を司り、可能性を見届ける者』
小さくつぶやいた“彼女”は気づいているだろうか?
背中の翼が、何かを喜ぶように羽ばたいていることに。
本日、もう一本閑話を投稿します。




