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幼女ヒロインは女の子を攻略しました ……どうしてこうなった?  作者: 九條葉月
第三章 男装の王太子編

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5.王太子との出会い。



 5.王太子との出会い




 王都から馬車で一時間ほどの小さな森。


 木々が少し開けた広場で、私は仮面な変身ライダーのスーパーな変身ポーズその1を決めた。あの難しいヤツね。



「――遠からん者は音にも聞け! 近くば寄って目にも見よ! 我が名はリリア・レナード! プロメテウスの火を奪い、裁きの飛礫(つぶて)を墜とす者!」



 決め台詞を叫んだ私である。最近は(主に璃々愛がぶっ飛んでいるせいで)中二病っぽい言動が足りていないからね。ここらでポイント(?)を稼いでおかないと。


「わー、かっこいいー」


 棒読みで拍手してくれるのはナユハちゃん。相変わらず目が死んでいるでござる。


「きゃー! リリアちゃーん! こっち向いてー! L・O・V・E! アイラブ☆リリアー!」


 と、往年のアイドルオタクみたいな声援をくれるのは愛理。二人を足して二で割るくらいの反応が欲しいところだ。


「さぁ! やっと銭湯予定地の屋敷の解体が始まった今日この頃! お元気ですか、お元気ですね! 本日は試作ロケット2号機の打ち上げをしたいと思います!」


『どんどんぱふぱふー!』


「どんどんぱふぱふー……」


 ナユハが明らかにやる気ないけれど、気にせず突き進む!


「なぜ宇宙を目指すのか? それは、宇宙(そら)には浪漫があるからです! 璃々愛もそう言っています!」


 頭の中で璃々愛が万雷の拍手をしていた。オーディンさんを無理矢理付き合わせて。


 ちなみにロケットの試作一号機は、まだナユハと友達になる前に鉱山で作ったアレだ。爆発したヤツ。廃材を利用したのでたぶん強度が足りなかった。残念無念。


 そして試作二号機。

 動力には爆発系の魔石を使用。思いっきり軍事目的に使われるもので本来は王国軍に専売するものなのだけど、そこはチートなリリアちゃん。燃焼系の魔石を改造して爆発的な燃焼をするように改造しちゃいましたよ。

 ものすごく疲れるからあまりやりたくないけれど。


 爆発系ではなくて、爆発 (的な燃焼をする)系の魔石なので問題はない。きっとない。


「……愛理ちゃん。魔石自体の改造とか理論的に不可能って研究結果が出ていなかったっけ?」


『今さらだよナユハちゃん。リリアちゃんに常識は通用しない』


 なにやら友達二人がひそひそ話しているけれど、気にしない。


 ロケット本体は鍛冶職人さんに作ってもらった鉄製。かなり重いけど前世のような炭素系複合素材とかアルミ合金とかはないのでしょうがない。


 今度、いい素材がないか冒険者ギルドに聞いてみようかな。


 素材の改良は後日にするとして、今日はとりあえず魔石を燃料とした発射実験だ。


 まずは発射台に移動。

 とはいっても岩に立てかけるだけだけど。


 続いて燃料の注入。

 魔石内の魔力や空気中の魔素だけじゃ足りないから私の魔力も注ぎ込む。


「ハンドパワー!」


 注入する魔力量は、とりあえず雲の上まで到達するくらいの量にしておこうかな。


「……愛理ちゃん。はんどぱわーって何?」


『信じる心だよ』


 なにやら愛理が深いようなそうでもないようなことを言っていた。


 さて、そんな二人は置いておいて。魔石をロケット燃料として使うと考えた場合、足りない魔力を注ぎ込むだけではダメだ。重要なのは魔石内の魔力を均等に放出させること。


 一気に放出させたらただの大爆発だからね。宇宙に到着するまで魔力を持たせないと。


 魔力の制御装置、なんてものはない。魔法を制御したいなら術者が直接操作する必要がある。


 でも、これは天高く飛んでいくロケットであり、速度は速いし距離もどんどん遠くなる。直接操作なんて無理な話だ。


 いや無理をすればできるかもしれないけど、スキル“未熟なるもの”を持っている私はたぶん大爆発させちゃうと思う。


 そこで使えるのが髪の毛だ。

 そう、魔法使いにとっての髪の毛は蓄電池ならぬ蓄魔池。大量の魔力を貯められつつも、自分の身体の一部なので色々と無茶ができるのだ。


 たとえば、『一定間隔で魔力を放出させる』という術式を組んでから魔石に溶け込ますとかね。こうすれば一定間隔で魔力を放出させる魔石の完成って訳ですよ。


「……いや、普通無理だからね? 髪の毛に術式を書き込むスペースなんてないよね? しかも固体である魔石に溶け込ませる? ちょっと意味が分からないんだけど」


『諦めなよナユハちゃん。リリアちゃんのやることだよ?』


 何やら二人が話し込んでいる間に髪の毛in魔石は完成したのであった!


「わ、私が今まで築き上げてきた魔術常識が……」


 なにやらナユハが地面に両手を突き、そんな彼女の肩を愛理がぽんぽんと叩いていた。きっと実験の成功を土地神様に祈っているに違いない。


 現実から目を逸らしつつ、ロケットに魔石を装着。

 私は岩の上でスタンバイしていた妖精さんに目を向けた。


 敬礼してきたので、私も返礼する。


 妖精さんはどこからか用意した宇宙服を着込み、ヘルメットを脇に抱えている。

 私の脳内にBGMが流れ始めた。隕石大爆破なあの映画のメインテーマだ。


 妖精さんが親指を立てて、ロケット上部に備え付けられたコクピットに乗り込んだ。

 コクピットとは言ってもイスが一つ置いてあるだけの小部屋なのだけど。


 他の妖精さんたちが紙テープを投げてお見送りをしている。それは船旅の時にやるものじゃないのかな?

 まぁいいか。雰囲気は大切だ。


「――それでは、これより点火します! 世界で初めて宇宙へ到達することを願って!」


 笛を鳴らして危険を知らせる。

 この森にはナユハと愛理しかいないと思うけど、雰囲気重視だ。


「発射5秒前!」


「よん、」


「さん、」


「にー、」


「いち、」


「――ゼロ!」


 轟音と共に魔力がほとばしった。


 方向性を与えられた爆発的な燃焼は、驚くほど真っ直ぐにロケットを大空へと突き進ませた。


 成功だ。


 私が成功を確信して握り拳を作ると――



 ――爆発した。



 どかーん、と。


 妖精さんを乗せたまま。


「よ、妖精さーんっ!?」


 叫ぶ私。

 綺麗なお空で妖精さんが親指を立てていた。マンガやアニメのワンシーンのように。


 ……まぁ、でも大丈夫。


 私の攻撃魔法が直撃しても無傷な妖精さんなのだ。たとえ魔石が爆発しようが傷一つ付かないだろう。


 というか。

 そんな存在じゃなければ危なすぎて実験段階のロケットに乗せられないって実際。





 爆発させちゃったお詫びに、パイロットの妖精さんには私の血を飲ませてあげた。

 この程度の報酬でやってくれるならどんどん頼みたいのだけど、毎回爆発に巻き込ませるのはさすがに良心が痛む。

 まずは爆発した原因を究明しないとね。


 爆発したロケットは稟質魔法(リタツト)を伸ばしたナユハが空中で回収してくれた。本体に結構な大穴が空いているけれど、爆発の規模に比べれば原形を留めている方だ。


 爆発したのは放出していた魔力だったようで、魔石自体に大きなダメージはない。元々魔石はとても硬い物質だしね。槍で壊せるお爺さまがおかしいのだ。


 え? そんな魔石に髪の毛を溶け込ませたのはどういう理屈かって? ははは、ナユハちゃん。細かいことは気にしちゃいけないよ!


 しかし、う~ん?


 魔石を弄りながら私は首をかしげた。


「おかしいなぁ。計算上は最後まで一定の魔力放出を続けるはずなんだけど……」


 宇宙開発に失敗と原因究明はつきものだ。本来なら何人もの研究者が寝る間も惜しんで作業をするところ。


 でも、私にはとても便利な“左目”がある。ちょっと無理をすれば爆発の原因も『視える』だろう。


 こんなチートを使って開発をするのは、必死に技術と経験を積み重ねている研究者の方々に申し訳ないような気もするのだけれども。私はほとんど一人で開発を行っているので見逃して欲しいところだ。この世界でロケット開発している人なんて他にいないだろうし。


 私が眼帯を取り外して“左目”に魔力を通したところで――


 ――気配がした。


 背後。

 不自然に薄いから、たぶん気配遮断系の魔法を使っているのだろう。


 殺気はないから敵の可能性は低い。

 でも、友好的な存在は気配遮断なんてしないはずだ。


 私は存分に警戒しながら後ろを振り向いた。


 警戒して意識をそっちに割かれていたからかな? 左目の眼帯を外していることをすっかり忘れていた私は、視界に映った人間をついつい“視て”しまった。


 ――黒い、紐?


 それが“彼女”の首に巻き付いている、ような気がした。

 一瞬しか見えなかったから見間違いかもしれないけれど。


 ……どこか優しさを感じられる紺碧の瞳。

 虫一匹殺したことがなさそうな穏やかな顔つき。

 そして、高貴さの証とされる金の髪。


 着ているものは一応平民服。

 でも、左目を使うまでもなく一等品質の生地を使っていることは理解できる。


 立ち振る舞いも貴族のそれ。

 しかも、かなり上級の指導を受けた人間のものだ。


 ……おばあ様に貴族名鑑を暗記させられたので、貴族名鑑の最初の方に肖像画が載っている“彼”の名前は知っている。知らないはずがない。



 ――リュース・ヴィ・ヴィートリア。



 我がヴィートリアン王国の国名そのものを名字に持つ存在。

 この国で唯一ミドルネームを持つことが許された家系。


 我らが親愛なる王太子殿下。


 原作ゲームにおけるメインヒーロー。

 悪役令嬢にとっては最大の死亡フラグ。


 御年9歳。

 6年後に入学する学園で、ヒロインと運命的な恋に落ちる存在。


 そんな彼を“左目”で鑑定してしまった私は――



「――女の子じゃん」



 つい、つぶやいてしまった。


 乙女ゲームの攻略対象なのだからもちろん男性であり。

 ゲーム本編にも、お約束のように上半身裸のスチルがあったわけで。


 ……当時学生だった身分として言いにくいけど、エッチなシーンもプレイ済み。


 まぁつまり何が言いたいかというと、リュース・ヴィ・ヴィートリアは間違いなく男性であるはずなのだ。変な裏設定とか後付けなんて存在しない。完全に。完璧に。彼は男性なのだ。男性でなければならないのだ。


 なのに、“左目”は意味不明な事実を伝えてきているわけであり……。



 ……ど、どうしてこうなった?





すみません、年末年始は更新お休みします。


次回、1月4日投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] ロケット本体は鍛冶職人さんに作ってもらった鉄製。 あれ…?風呂用の木桶作るのを職人に頼むのは令嬢としてどうかって言ってたリリアさんはどこに…?
[一言] これゲーム主人公も色々あってどうしてこうなったしそう
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