1.いつもの日常
1.いつもの日常。
「――キューピ○3分クッキング!」
レナード家王都別邸。友達であるナユハと愛理、そして妖精さんたちを集めて私は高らかに宣言した。
妖精さんたちが楽器を鳴らし、愛理が指笛を吹き、ナユハが死んだ目で拍手をしている。うん、いつも通りの光景だ。
「で? リリア、今日は何をやらかすの?」
メイド服装備のナユハがジトッとした目で見つめてくる。
「やらかすとは失礼だねナユハちゃん! ちょっと暇だから上級ポーションを作るだけだよ!」
「……上級ポーションは『暇だから』という理由で作っていいものじゃないよ? 伝説通りなら四肢の欠損すら治しちゃう薬だよ?」
ナユハが何とも常識人なツッコミをして、
『上級ポーションはレア素材を使う割に回復量は初級の四倍しかなかったからねー。ゲームだとよほどの物好き以外は作らなかったんだよね。初級を四本使った方が安上がりだし』
愛理は(この世界にとっては)非常識なことをつぶやいていた。
上級ポーションに対する価値観に天と地ほどの差があるナユハと愛理がお互いの顔を見合わせ、首をかしげる。……うん、説明すると長くなるから気づかないふり。
さて、材料の確認。
ユニコーンのたてがみ。フェニックスの尾。人魚の涙。万年蛇の抜け殻。そして“つなぎ”として純エーテル水を500mlと。
ユニコーンは純潔なる魂。フェニックスは不滅の肉体。人魚は不老長寿。そして万年蛇には若返りという意味があるらしい。魔術的には。
そんな意味を持っているので、不老長寿を願う人々からは人気の素材となっている。なんでもどこかの国の皇帝は素材を買い集めすぎて財政を破綻させたとか。
もちろん貴重な素材だから高価なのだけど、そこはレナード家の財力。あっさりと必要な素材は集められてしまった。未来の一般市民としては価値観を崩壊させないよう気をつけなきゃね。
「たてがみをざくざく切り刻み~、尾っぽの毛をむしり取り~、涙をポチャンと入れたあと~、抜け殻の粉末混ぜまして~、不思議な水で一煮立ち~」
即席の歌を歌いながら大鍋をかき混ぜる私である。
ちなみに。ポーションを作っているのは庭にある屋外調理場。ガーデンパーティーなどで簡単な料理を作る場所だ。主に肉を焼く。そして肉を焼く。この国の人間はとりあえず肉を焼いておけば大人しくなる。
なぜわざわざ野外調理場でポーションを作るのかというと、三日前に中級ポーションを作っていたら火柱が上がってあわや火事、なんてことがあり。ポーション作りは外でやりなさいとお父様に厳命されたのだ。
初級は無事作成でき、中級は火柱が上がったけど完成はした。だから、上級ポーションは爆発くらいするんじゃないのかな?
「さぁ! 離れて離れて! 今から魔力を込めるからね! 私の予想では大爆発するはずだから!」
私の言葉に従って距離を取りつつ、ナユハがつぶやいた。
「なんでリリアは少しウキウキしているのかな?」
『単に爆発が好きなんじゃないのかな~? 璃々愛も特撮が大好きだったし。火薬の使いすぎで島の地形が変わっちゃった映画がお気に入りだったもの』
「やっぱり爆発なしでは生きられない身体になってしまったんだね……」
なにやらナユハから事実無根なことで同情されている気がするけど、あえて気にしない! 意識をそっちに持っていったら大爆発しそうだから!
一応聖魔法の結界を周囲に張り、鍋の中に少しずつ魔力を流していく。慎重に、ゆっくりと。ナユハの誤解を解くためにも爆発を起こさないために。
そして。
――ちゅどーん、と。
やっぱり爆発しましたとさ。
屋敷の屋根より高い爆炎かー。
あんなに気をつけて魔力を調整したのに、どうしてこうなった?
ちなみに。
大爆発こそしたものの、上級ポーションは無事――いや、有事完成した。
四肢の欠損すら治せるという話だったので、右腕が超握力になってしまっているナユハに飲んでもらおうかとも思ったけれど……本人に『これはこれで役に立つから』と拒否された。
堅い瓶の蓋を開けるときとか、クルミを割るときに便利らしい。屋敷のメイドさんたちにも好評だとか。
……美少女としてそれでいいのだろうか?
ちょっとストックができたので、キリがいいところまで連続で投稿します。
今日の午前中に更新予定です。




