プロローグ 原作ゲームの思い出。(璃々愛視点)
お待たせしてすみません。連載再開です。
プロローグ 原作ゲームの思い出。(璃々愛視点)
この世界の原作ゲームは『ボク☆オト ~ボクと乙女と恋のメロディ~』だ。
いや、すでに細部どころか大筋まで変化しているから原作ゲームうんぬんは今さらな話かもしれないけれど、それでも、世界観が『ボク☆オト』と共通しているのは間違いない。
ボク☆オトというゲームは元を辿れば同人ゲームだ。とある同人即売会でごく少数配布された『ボク☆オト』は、その圧倒的な文章力などでネットを中心に話題となった。
そして某大手ゲーム製作会社が権利を購入し、加筆修正や設定変更、絵師の交代、炎上、度重なる延期を経た末に発売されたのが『製品版』だ。
その後は(私にとっての)不倶戴天の敵であるファンディスクや、コンシュマー版、いくつかの続編、そしてソシャゲ版まで生まれるほど息の長い作品となった。
何を隠そう、私が初めて執筆した小説も『ボク☆オト』関係であり、実を言うと愛理に読ませたことが……あ、痛っ、心が痛い。痛いです。よりにもよって愛理に読ませるとか……。
しかもそのあと調子に乗って書いた悪役令嬢もの (全3巻)も嬉々として愛理に読ませたからなぁ……。
コホン。辛い過去からは目を逸らして、と。
さて。リリアちゃんは、ゲームのファンディスクで不幸な結末を辿る (らしい)ナユハちゃんを無事に救ってみせた。まぁ私が無意味な乱入をしちゃった気がするけれど、気のせいだ。
となると、次の問題は『王太子』だと思う。
王太子。
リュース・ヴィ・ヴィートリア。
ボク☆オトにおけるメインヒーローだ。金髪碧眼のイケメン。同人版でも製品版でも、その麗しい姿がパッケージのど真ん中に大きく描かれていた。
そんな、間違いなくメインヒーローであるはずなのに、王太子の死亡率は非常に高かった。そりゃあもう心ないアンチが『マンボウ王太子』と揶揄するほどに。
どれだけ死んでしまうかというと、『同人版』では王太子がすべてのルートで死亡してしまうほど。王太子ルートも例外ではなく。
……うん、よく考えなくても乙女ゲームとして間違っている。たぶん話題になった原因の何割かは『マンボウ王太子』のせいだと思う。
王太子の死因は様々。大体が魔王復活をきっかけに暗殺されるとか、魔王に操られたモブキャラに殺されるとか、王都に迫るドラゴンにその身を捧げるとか……。とにかく、国と大切な人を守るため簡単に命を捨ててしまうキャラなのだ。
……私にだって理解できる。
王太子の献身があるからこそボク☆オトのストーリーは光り輝くのだし、決して無駄死にではない。
むしろ魔王復活からの王太子の死という流れは主人公が“聖女”として目覚めるきっかけとなる(ことが多い)のだから最重要のイベントとすら言えるだろう。
あれは間違いなく『一流の悲劇』だ。
でも、私は納得できなかった。
正直に言えばあまり好きではなかった。
ボク☆オトの同人版が発売されたあのとき、あの即売会で。縁があってボク☆オトを入手することができた私は憤慨した。そして探した。王太子が生存するルートを。
なぜならオマケ要素のスチル一覧には不自然な空きが一カ所あったからね。そこに王太子ルートの、超萌えるスチルが保存されるはずだと確信したのだ。
選択肢は全パターン確認したし、ネット上の同士と協力して王太子ルートを探した。時には原作者にメッセージを送ったりして……。
なぜ『あまり好きではない』ゲームにそこまでこだわってしまったのかは……うん、私にもよく分からない。
今となっては色々推測できるけど、まぁとにかく、あのときの私は本気だった。本気で王太子が生存する未来を信じ、探し求めていた。
そして判明する驚愕の事実。
あのスチル一覧の不自然な空きは、単純な製作上のミスだったらしい。
その時の私の絶望は筆舌に尽くしがたく。愛理いわく『陸に打ち上げられたマンボウ』だったらしい。
その時のモヤモヤや鬱憤、怒りを叩きつける形で私は初めての小説に挑戦し、王太子が死なずにリリアちゃんと結ばれる問答無用のハッピーエンドを書き上げた。
自分でも拙いことは分かっているし、ご都合主義の塊のような小説だった。
けれど、込めた情熱に嘘偽りは一切ない。
そして、そんな私の情熱はまさしく天へと届き。新たに作られた『製品版』において王太子生存ルート……トゥルーエンドが実装されたのだ。
そんな思い入れのある王太子だから、この世界でも生き延びて欲しいし、幸せになって欲しい。
あ、でも、リリアちゃんと恋仲になるなら話は別だ。この世界のリリアちゃんはもはや私の娘と同じ。そんな娘が男とズッコンバッコンしている場面など見たくない! リリアちゃんとR-18なことをしたかったら私を倒してからにしろ!
ちなみに私は結構強い――ん? なんだいオーちゃん? ……え? この世界の王太子リュースは女の子?
ははは、ご冗談を。この私が男と女を見間違えるとでも? 男か女かなんて骨格や筋肉の付き方を見ればすぐ分かるじゃないか。
……あ、そういえば、リリアちゃんってリュースと出会ったときまだ3歳だったじゃん。もちろん同い年のリュースも3歳。さすがに子供の骨格を見ても性別は分からないかー。
いや、え? ほんとうに? マジでリュースが女の子なの? いや全知全能なオーちゃんなら間違えないだろうし、こんなことで嘘をつかない神だってのも知っているけどさ。
どうしてこうなった?
……いや、待てよ?
リュースは女の子。
リリアちゃんも女の子。
つまり、百合か。
ならば許す。
なぜならば、百合は世界の真理だから。
あ、もちろんナユハちゃんと愛理が、リリアちゃんとズッコンバッコンするのも許すよ? なぜならば百合だから。
まぁ、愛理に対しては『リリアちゃんと現実で恋愛できるとか羨ま死ね』と思わないでもないでもないけどね。
――私は願った。
悲劇を否定し、拒絶し、物語を塗り替えるために一つの物語を作り上げた。
私だってできたのだ。
リリアちゃんもきっとできる。
だから……。リュースを、救ってあげてほしいな。
すぐにもう1話投稿します。




