閑話 ナユハと
リリアがダンジョンに向かったあと。
聖女リリアと領主の娘ミリス様が世界の終わりの可能性を伝えたおかげか、冒険者ギルドは万が一に備え始めたようだった。
マリーはリリアからお願いされたおかげでやる気満々だし、ミリスは冒険者ギルド長となにやら話をしている。愛理は相変わらずフラフラするのに忙しいし、私としては手持ち無沙汰になってしまった。
私はリリアのおかげで右手が超握力になってしまったし、まだ使いこなせていないとはいえ異国の雷神の加護があるから、戦闘もできないことは無いと思う。
ただ、私には実戦経験がないし(黒いドラゴン? 剣をぶん投げただけなので『のーかうんと』だ)、体力も10歳の女子相応。魔物相手の実戦では役に立たないというか、足手まといになる可能性の方が高いと思う。
『この子、自覚がなさ過ぎるよね~』
≪なさすぎるよねー≫
≪なさすぎるよねー≫
≪そういうところだぞー≫
いつの間にか仲良くなったらしい愛理と妖精様たちがプカプカ浮きながら肩をすくめていた。どういうことだろう?
そのまま愛理たちはどこかへ行ってしまったので、手持ち無沙汰が復活した私は当てもなく街を歩いていた。冒険者たちは忙しく走り回っているし、武器などを満載した荷車が大通りを行き交っている。いかにも『戦前』って感じの雰囲気だ。
リリアは世界の終わりの確信がない以上、あまり大きな騒ぎにしたくなかったみたいだけど……ギルド長としては準備しないわけにはいかないし、結果的に大事になりそうな感じだった。
こんな騒ぎになって『世界の終わりが起こりませんでした』ってなったら大変なのだけど……。まぁ、リリアが動いたのだから何かが起こるというか、起こしてしまうのだろう。こういうとき、なにかしらやらかしてしまうのがリリアという少女なのだ。
今回はそんなに大げさにならないといいなーっと私が祈りを捧げていると――大気が乱れた。正確に言えば、大気中の魔力が大きく乱れた。
「――やや! さすがは私! まさか一発で見つけてしまうとは!」
目の前に現れたのは、平凡な茶色い髪と瞳をした少女。いや、とてつもない美少女なので『平凡な』という形容詞を使うのは憚られてしまうのだけれども。
以前に一度、会ったことがある人だ。
あれは確かリリアたちと写真館の下見に行ったときのこと。新聞記者だというこの人が声をかけてきたのだ。
良くも悪くも私が有名だと語り、私の名前を知っていた人。たしか――カナンさんだったっけ?
そんな彼女が今は神官服に身を包んでいる。
……神官だったのだろうか?
いや、新聞記者なら変装しているって可能性もあるのかな?
「お久しぶりですナユハ・レナードさん! また会えて嬉しいです!」
人好きのする笑顔を浮かべながら手を差しのばしてくるカナンさん。反射的に私が彼女の手を握り返し、握手をすると――
「――ナユハ!」
珍しく。
それはもう珍しくキナさんが深刻な声を上げた。ここにいないはずの人物。王宮大神官であるキナさんは、王都のレナード邸にやって来ることはあっても、王都を出ることは滅多にないはずなのに。そんな彼女がガングード領にいて、慌てた様子で私とカナンさんに駆け寄ってくる。
そんなキナさんを見て嫌な予感がした私はカナンさんとの握手を離そうとしたけれど……カナンさんが力強く私の手を握り、そして――
「だから、言ったでしょう? 気をつけた方がいいですよ、って」
――視界が回る。
この感じは転移魔法だ、と私が認識したときにはもう、彼女による転移魔法は完全に発動。私はガングード領から飛ばされたのだった。
※年末まで仕事が忙しい&変な人に絡まれてやる気ゲージが一気に減ったので、回復するまでしばらく更新お休みします。
次回、1月頃更新予定です。