魔王(やはり女性)
「――私が! 魔王である!」
焼け残った区画――つまりはダンジョンの最奥部に一歩踏み入れた途端。そんな若々しい『女性』の声が響いてきた。
「…………」
「…………」
いきなり『魔王』と名乗られ、思わず顔を見合わせる私とラミィ。
(リリア嬢の知り合いかい?)
(変な人が現れたらまず私の知り合いかと疑うの、止めてもらえません?)
「私が! 魔王である!」
いっそ白けた空気に負けることなく再び名乗る魔王(?)であった。とりあえず精神力は魔王級らしい。
ふむ。
見た目はとんでもない美少女というか美女だ。腰まで伸ばされた黒い髪と、黒い瞳。その外見的特徴のせいかどことなくナユハに似ている。ような気がする。
うん、見れば見るほどナユハそっくり。
ナユハが大人になったらこんな感じの美人さんに――いやナユハが自分で『魔王である!』とか名乗る系の人になったらアレだなぁ家族会議ものだなぁ。
いやしかし、いくらアレ系だとはいえ、こういう美人さんは新鮮かもしれないね。私の周りにいるのは美少女ばかりだし。しかも顔つきはナユハに似ている。つまりはナユハ大人ver. これはこれで。魔王がいるのに天国か。ダンジョンなのに天国か。
「リリア嬢は一度生まれ変わった方がいいね」
なぁんか『いっぺん死ねや女たらしが』と罵られたような?
ふっ、しかし残念だったねラミィたん。私はもう生まれ変わっているのだよ。しかも二回も。
「あぁ、バカは死んでも治らない……」
バカってあんた。
「はははっ、やはり予想通り面白いではないか」
と、楽しげに笑う(自称)魔王様。
「やはりってどういうことですか?」
「いやなに、最近は管理の手伝いをするのも飽き飽きしてテキトーにやっていたんだがな」
いやテキトーにしないでくださいよ世界の管理を。
「で。ここ数年どうにも『運命』が狂うなぁと思ったら、散歩に出かけるような気軽さで『運命』を狂わせる女がいるじゃないか。しかも、狂わせたあとは元のものよりも良くなっているというオマケ付き。どんな女なのか気になってな。暇つぶしも兼ねて、ちょっと魔物を暴れさせて誘い出してみたんだよ」
つまり、世界の終わりが早まったのは魔王の好奇心のせいであり、ひいては私のせいであると?
ど
う
し
て
こ
う
な
っ
た
!
?
「まぁ、リリア嬢だしねぇ」
心の底から納得するの、やめていただきたい。どうしてこうなった?
というか、私を誘い出そうとするのは一万歩譲って理解できるとしても、誘い出す方法が『魔物を暴れさせる』ってどうなのさ? 計画も何もあったものじゃなくない?
「ふっ、実際こうしてやって来たじゃないか。神算鬼謀っぷりに惚れ惚れするな我ながら」
さらっと心を読みながら、ぱっさぁと前髪を払う魔王であった。ナユハっぽい顔で自己評価がメッチャ高いのが新鮮だね。ナユハって自分の評価が低いというか自覚が足りないから。
「さて。というわけで」
なぜか大剣を取り出す魔王。その切っ先を私に向けてくる魔王。
「その歳にしては強いな。というわけで、暇つぶしに付き合ってもらおうか」
なぜかバトル展開突入である。どうしてこうなった?
というか、こういうときのテンプレって『弱い。つまらん』ってなったら容赦なく殺しに来るヤツだよね? どうしてこうなった?
「まぁ、リリア嬢だしねぇ……」
どうして以下略。
次回、10月30日更新予定です




