世界の秘密
思い切りブレスを吐いて満足したのか、マリーたちは街へと戻るみたいだった。
と、その前に。愛理がふよふよとこちらにやって来て耳打ちしてきた。
『な~んか嫌な予感がするから、ここでチートを教えておきましょうー』
「チート?」
『ほら、ボク☆オトって基本シナリオゲーだけどRPG要素もあったじゃん? でも、シナリオだけ楽しみたい人からすればRPGなんてうざったいだけだから、公式で裏技というか救済策を用意しておいたんだよねー』
うざったいって。ぶっちゃけすぎじゃありません原作者様?
チート。いわゆるMODか。昔のPCゲームで数字を弄り、体力無限とか兵数無限とかのチートをやっちゃうアレ。ちなみに璃々愛はそんなもん使わずに力業で攻略していたみたい。
「でね、ボク☆オトでは――」
こそこそとチート技を教えてくれる愛理さま。今さらだけど凄いシーンである。こう、聖女が神様から世界の真理を授けられるみたいな?
……私って一応聖女だからあながち間違ってないのか……。どうしてこうなった?
◇
「いやぁ、見事なまでに丸焦げだねぇ」
ダンジョンの中を歩きながらラミィが感心したような声を出した。ちなみに燃やし尽くされたばかりなのでダンジョンの中はとても熱い。それでも私たちが平気な顔で歩けているのは……私とラミィがそれぞれ氷系の魔法で自分の周りを冷やしているからだ。
ラミィって剣ばかり振っているけれど、公爵令嬢らしく魔力総量もかなりのものなのだ。まぁ魔法を使うよりも叩き切った方が早いという頭薩摩な人なので滅多に使うことはないみたいだけど。
「ところで、」
何でもないような顔をしながらラミィが尋ねてきた。
「世界の終わり対策なら、十分な戦力だよね。マリー嬢だけではなく愛理嬢までいるのだから」
愛理。
愛理がラミィの前で――というか、誰かの前で『力』を使ったことはないはずなんだけど。
稟質魔法とはまた違う、愛理が、愛理であるからこその力。
それを見抜いているっぽいとか……どれだけ『目』が良いんだろうねラミィって。
「マリー嬢と愛理嬢がいるなら、こんな狭いダンジョンに潜入しなくても、街の防壁で待ち構えればいい話だよね。どうしてわざわざダンジョンを調査しているんだい?」
満足な移動や回避行動のできないダンジョンでは、世界の終わりの物量に押しつぶされるかもしれないからね。ラミィの心配というか疑問ももっともだ。
「う~ん……」
隠してもしょうがないので、私はラミィに対して右手を差し出してみた。
人差し指には、この前の黒龍退治の戦利品――迷宮王の指輪が嵌められている。
「私って一応ダンジョンマスターって扱いらしくてね。ダンジョンに関する真実を教えられちゃったんだ」
「さらっととんでもないことを暴露したよこの子……」
あれ言ってなかったっけ?
まぁいいや。とりあえず説明してしまおう。
「元々この世界には世界樹が生えていて、世界の隅々にまで根を張っていたんだ」
「有名な昔話だね。数千年前に世界樹を枯らしてしまった邪神を、数十年前に神槍ガルドが打ち倒したと」
「世界樹の本来の役割は、穢れた魔素の清浄化。根っこから淀んだ魔素を吸収し、浄化して、葉っぱから放出していたんだ」
「ずいぶんと盛大なお話だね。穢れというのがどういう状態を言うのかは分からないけど……世界樹が枯れてしまった以上、穢れた魔素は穢れたままになってしまうと?」
「その通り。かつて根っこが張っていた地下には昔と変わらず穢れた魔素が流れ込むのだけど、それは浄化されることなく溜まり続けて――困った『管理者』は、その魔素を魔物に変換して人間に倒させることにした」
「魔素が魔物に、ねぇ? ……その根っこがあった場所こそがダンジョンだと?」
「そうなるね。まぁそのあと生み出されたダンジョンも多いけど」
「いくらダンジョン内の魔物を討伐しても絶滅する気配がないのは、穢れた魔素から生み出されているからと?」
「その通り。で、それでも消費しきれなくて溜まりに溜まり続けた魔素1,000年分が一気にあふれ出して世界の終わり――魔物の大量発生になってしまうと」
「わざわざ1,000年も貯めないで、もうちょっと小まめに放出するのはダメなのかい? 管理者とやらがいるんだろう?」
「管理者もそこまで真面目じゃないみたいだね」
「真面目にやらない結果の世界の終わりなのかい……」
「フォローするなら、あと9年経てば世界樹の種から新たな世界樹が生えてくるから、今回が最後の世界の終わりになるはずなんだよ」
「……ダンジョンの秘密は分かったし、次が最後という情報は喜ばしいよ。でも、ボクたちがダンジョン調査に赴く理由の説明にはなっていない。むしろ、そこまで分かっているのなら調査する必要なんてないだろう? ボクたちがするべきなのは万全な状態で、1,000年分の穢れから発生した魔物が尽きるまで倒し続けることなのだから」
う~ん鋭い。言動が頭薩摩だから誤解しがちだけど、キレは鋭いんだよね。
「……これはちょっとメタ的な発言になるんだけどね?」
「めた?」
「世界の終わりが起こるのは私たちが魔法学園に入学したあと。ゲーム開始後に起こるはずなんだよ」
「未来予知ってヤツかな?」
「まぁそんなところ。でも、魔物の発生数は異常なまでに増加しているし、妖精さんの介入もあった。これはもう5年6年も待たずに世界の終わりが起こりそうなんだよね。――『運命』より遙かに早い発生。ここは一応ダンジョンの管理者に確認した方がいいと思ってね」
「管理者……。いわゆるダンジョンマスターか。リリア嬢みたいなのが出てきたらさすがに手に負えないけれど。どんな存在が管理しているんだい?」
ラミィからの問いかけに、私は一旦立ち止まってから答えを口にした。
「世界の管理を助ける者。世界を『運命』へと導く者。世界の終わりを管理して、世界の終わりを見届ける者。――私たちは、それを『魔王』と呼んでいるね」
璃々愛
「早まりそうなスタンピード! その秘密を探るため、我々は魔王が待ち受けるダンジョンに潜入した!(水スペ風)」
オーちゃん
「ただ単にリリアが『運命』を破壊しすぎてめちゃめちゃになっただけじゃないか?」
璃々愛
「それを言っちゃあおしまいよ」
次回、10月20日更新予定です




