閑話 ナユハとミリスとダメ女
リリアとマリーのやり取りを。扉の向こうで聞き耳を立てている存在がいた。
ナユハとミリスだ。
出歯亀……というよりはマリーを心配するからこその行動。むしろここにはいないラミィこそマリーとの付き合いの短さが露呈した格好だ。
まぁ、マリーとラミィは同じ人に恋情を抱いているのだからいずれは親しくなるのだろう。お互いをよく知らない今の時点で心配しろというのが無理な話である。
しかしナユハとミリスはマリーと相応の付き合いがあり。彼女を心配するからこそ、貴族的に見ても『はしたない』盗み聞きをしていたのだ。
世界の終わりが起こる可能性。
何とも縁起の悪いことだが、リリアが口にするのだから、妄想と断言するのも憚られる。
「…………」
ミリスにできることは限られている。
自分には戦闘能力などないと考えているからこそ。
……実際のところ。ミリスは『悪役令嬢』として他を圧倒する魔力総量を持ち、十分『ラスボス』になれるだけの素地はあるのだが……平気な顔でドラゴンを退治してしまうリリアやラミィと比べるとやはり見劣りしてしまう。
そんな彼女も最近では使い魔――月追う狼と契約し、ハティの協力を得られれば世界の終わり対策のための強力な戦力となるのだが……。そもそも、『いざとなればハティに頼ればいい』という発想自体がないミリスである。
ハティの正体というか危険性を(真の意味で)理解しているのはリリアやウィルドくらいなので、こればかりは仕方ないのかもしれないが。
ちなみにミリスにとってのハティは『ふふふ、こんな可愛い子が世界を滅ぼすはずがないでしょう?』である。割と親バカならぬ主バカである。
まぁ、そんなミリスが主だからこそハティも大人しく子犬ライフを送っているのだが。
『――バゥ』
ミリスの肩によじ登った白い子犬――にしか見えないハティが小さく鳴く。本来であればそれはただの鳴き声であるはずなのだが……なんだか『気をつけよ、主殿』という副音声(?)が聞こえてくるミリスである。
『バゥ(アレが復活すれば、世界の危機となろう。あのダメ女の危惧は、まぁ正しいだろう)』
「いやダメ女って……。アレでもいいところもあるんですよ?」
思わずフォローしてしまうミリスであった。『アレ』扱いしている時点でアレなのだが。
というか、世界の危機という言葉を聞いてもさして気に留めてないあたり……ミリスもだいぶ毒されているらしい。ダメ女――ではなくて、アレ女に。
◇
リリアの判断は正しいとナユハは思う。
そもそもリリアは普段ちょっとだけポンコツなだけで、こういうときの状況判断力は抜群なのだ。そんなリリアがラミィをダンジョンの同行者として選び、マリーに世界の終わり対策をお願いした。
だから、それは間違いなく正しい。
頼りにされなかったからといって、ナユハが不満に思うことはない。ただ、ただ、こういうとき頼ってもらえなかった自分が情けなくなるだけで。
ダンジョンに潜入できるほど個人としての戦闘能力があるわけではなく。マリーのような広範囲殲滅力もない。リリアの護衛騎士に任命されたくせに、なんて役に立たないのだろうとナユハは自らを卑下してしまう。
もちろんナユハは普通の人間より魔力総量が多いし、『聖女の銀髪』が元となった右腕もある。さらには建国神と異国の雷神からの加護持ちで、その力を使いこなせればマリーに劣らぬ広範囲殲滅力を発揮することができるだろう。
まぁ、つまり、ミリスにしても、ナユハにしても、自らの戦闘力に対する自覚がなさ過ぎるのだ。
これは二人が一方的に悪いわけではなく、魔法戦も近接戦闘もバカみたいに強いリリアがすぐ側にいるのが原因の8割ほどを占めている。
まぁ、つまり、8割リリアが悪いのだ。
次回、9月30日更新予定です
 




