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幼女ヒロインは女の子を攻略しました ……どうしてこうなった?  作者: 九條葉月
第九章 剣劇少女編

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閑話 暁の閃光

すみません、予約投稿できてませんでした



 冒険者パーティー、『暁の閃光』のパーティーリーダーであるカイラスは応接間の扉を開き、『聖女』リリアに喧嘩を売った。


 嫉妬、であることを否定するつもりはない。

 国母としての未来。

 聖女としての人望。


 さらに実家は大金持ちだという。


 しかも尊敬に値するギルド長からも期待されていて……。


 そんな『恵まれた』少女に、カイラスは確かに嫉妬していた。


 不満、を抱いていることも否定しない。


 いくら王太子殿下の婚約者だからといって。いくら聖女様だからといって。冒険者としての決まりを破り、未発見ダンジョンの攻略を任されるなど。許されていいはずがない。


 約束された未来があるのに、なぜ冒険者をする必要があるのか。道楽ではないのか。――そんな少女に、自分たちの聖域を汚されるのが我慢ならなかった。


 そして何より。

 彼は、怒りを抱いていた。


 こんな年端もいかない少女に未発見ダンジョンの調査を任せるなど。

 子供とは守るべきものであり、危険にさらすようなことはあってはならない。たとえ貧困によって冒険者になるしかない子供がいたとしても、それは大人がサポートして無事に成長できるよう見守らなければならない。だというのに、まず間違いなく死ぬであろうダンジョン調査に放り込むなど……。


 嫉妬。

 不満。

 怒り。


 様々な感情がない交ぜになりながらもカイラスは聖女リリアに剣を向けて――腕試しの提案はいとも簡単に認められた。


 カイラスとて並みの冒険者ではない。

 今はまだランクも低いが、将来はSランクパーティに至るのではないかと期待されている有望株だ。


 そんなカイラスに臆することなくリリアは演習場へと移動して。しかし武器すら構えることなく。剣を握るカイラスを見て首をかしげた。


「あれ? 一人で戦うつもりですか?」


 パーティー全員で掛かってこい。リリアは言外にそう言っていた。


 舐められたものである。


 きっとその歳なりに腕に自信があるのだろう。

 だが、一対一の戦いと多対一の戦いでは様相がまるで異なる。いくら対人戦が強かろうと、対集団戦ともなれば一瞬で沈められることも多々ある。


 冒険者パーティーの要は連携と役割分担だ。

 まずは盾役が相手の攻撃を受け止め、後方支援職が遠距離攻撃をしつつ目くらまし。そうして敵の注意が逸れた瞬間を見計らい、前衛が切り込み一気に勝負を付ける。その連携の恐ろしさを、この少女はまだ知らないのだろう。


 人間ほどではないとはいえ、連携を行ってくる魔物もいる。ゴブリンなどは出会う機会も多いだろう。


 ここは早めに連携の重要性と恐ろしさを教えてやるべき。そう判断したカイラスは仲間を呼び寄せ、いつも通りの連係攻撃を行おうとした。


 剣を向ける。

 普通の少女であれば、それだけでもう泣き出すだろう。本能で危機を察するだろう。


 しかしリリアは平然とその場に立ったままで。武器すら構えることもせず。


「――威圧(ズウィン)


 たった一言。

 その一言で、冒険者パーティー『暁の閃光』は崩壊した。


 誰も動けない。声すらも発せられない。


 盾役は命とも言える盾を取り落とし、魔術師は喉を押さえて苦悶し、回復役はすでに失神した。


 威圧(ズウィン)


 レベル差のある相手を一定時間行動不能にする技。かつて『魔王』にのみ伝えられたという、物語の中にしか存在しないはずの大魔術。


 それを、10歳程度の少女が使っていた。


 風もないのに銀の髪が揺れる。

 血を啜ったかのような赤い瞳は冷酷に『暁の閃光』を捕捉し。

 その顔には、作り物のような微笑が浮かんでいた。


 ――魔王だ。


 彼女は、人の皮を被った魔王に違いない。


 カイラスたちの負けだ。


 動くことすらままならず。声すら発することもできず。こんな状態で戦いになるはずがない。

 なによりも、『魔王』としか思えないリリアを前にして――『暁の閃光』の心はすっかり折れていた。勝てるはずがない、逃げなければ殺される、と。実際に動けていたならすぐに逃走を選択していただろう。


 負けた。


 カイラスたちは負けたのだ。


 それはもはや認めるしかない事実であり。ここからはどうあっても戦況を逆転させることなどできるはずがない。


 ――だというのに。


「う、うぉおおぉぉぉおおおおおっ!」


 自らを鼓舞するかのような大声を発しながら。カイラスは、一歩前に出た。威圧(ズウィン)による行動不能の中、それでも一歩を踏み出してみせたのだ。


 リリアとカイラスのレベル差から見れば快挙だろう。すでに複数体のドラゴンを討伐した『英雄』と、まだまだ『有望株』でしかない冒険者。その一歩は、お互いの距離を埋める第一歩と言えるかもしれない。


 ……だが、それまで。

 奇跡は長く続くはずもなく。


 踏み出した足に力は入らず。感覚すら曖昧で。冷や汗が止まらなくなったカイラスはオークに足をつかまれ振り回されたように意識が混濁し――そのまま気を失った。




「……なんか私が悪役っぽくない? 怪我させないようにしたのに。どうしてこうなった?」




次回、9月10日更新予定です

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― 新着の感想 ―
[一言] まさかの全部聞いた上での挑戦でした!? しかし、しかしだ、ギルドに来た所に下っ端冒険者から言い出した気がする、リリアさんの実力の一端も感じ取れないなら冒険者辞めてしまえと…この精鋭パーティは…
[一言] 冒険者君よく頑張った。よかったねえ逆鱗に触れなくて槍すら出してないからちょうやさしい
[良い点]  むしろ彼らの描写があることに驚いたんだよね。
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