ギルドマスターと
周りが騒がしくて話もできないということで、私たちは受付の奥にある応接室に通された。ちなみに全員貴族なので豪華な部屋に通されても気圧されたりはしない。
私たちをソファに座らせたあと、対面のソファにどっかりと腰を下ろすギルド長(?)
「とりあえず自己紹介しておくか。俺はギール。冒険者ギルド・ガングード領支部のギルド長をやっている。ま、お前さんには『ガルドの弟子』と言った方が伝わりやすいか」
お爺さまの関係者だったらしい。ほんとお爺さまって手広いというか、知り合いが多いよね。
「そりゃあ神槍だもの」
「邪神を倒した英雄ですもの」
「この国一番の商人だもの」
ナユハ、マリー、ラミィに突っ込まれてしまった。そう考えると濃い人生送っているよねお爺さま。しかも国王の旧友で、国王の姪っ子を嫁にもらったと。……私よりお爺さまの方が主人公適正高いのでは?
「ないね」
「ないですわね」
「もうちょっと自覚した方がいいと思うよボクは」
怒濤の三連ツッコミだった。私そんな主人公っぽいことはしていないはずなのだけど……。どうしてこうなった?
解せぬ評価に首をかしげていると、ギールさんが面倒くさそうに頭を掻いた。
「お前さんのことは師匠から聞かされていたから、他人とは思えん。冒険者になりたいってなら多少無茶を通してやってもいいが……。二人は知っているのか?」
ギールさんの言う『二人』とはきっとお爺さまとおばあ様のことでしょう。
「知らないですね。だからこそこうして王都やレナード領のギルドじゃなくここまで来たのですし」
「おいおい、内緒なのかよ。そりゃまた噂以上の悪ガキじゃねぇか」
にやりと笑うギールさんだった。なんか知らんけど気に入られたらしい。
「冒険者になるのに出自は問わねぇ。元貴族だろうが、元犯罪者だろうが、ギルドのルールを守るなら受け入れる。……だが、お前さんは現役の聖女で、王太子殿下の婚約者。一応王宮と教会にも報告しなきゃならねぇから、理由を聞いておかねぇとな。――英雄である二人に隠してまで、聖女であるお前さんが冒険者になろうっていう理由は何だ?」
「う~ん、冒険者に興味があるから、とかどうでしょう?」
「そんな理由に納得して許可を出したらこっちの首が飛ぶわ。物理的に」
その程度でスパーンなのか。怖いな異世界。
「そうですね……。とあるダンジョンを調査したいのです」
「ダンジョン? それは、普通の冒険者に依頼するんじゃダメなのか?」
「ダメですね。おそらくは『世界の終わり』の発生地点となるので」
「…………、……は?」
「世界の終わりのー! 発生源にー! ですねー!」
「いや、聞こえてる。そんな大きなお声を出さんでいい。……そりゃあマジなのか?」
「私は確信していますが、証拠はありません。だからこそまずは私たちだけで調査しようかと」
「……確かに。師匠やリース様に話したら大事になるな。ギルドも総動員されるだろうし、まず間違いなく国も動く。そうなってから『間違いでしたー』では済まされないか。わざわざ『敵』にエサをやる必要はねぇと」
「えぇ。それに、ドラゴン対策に私かお爺さまのどちらかが王都に留まるよう、以前お爺さまが国王陛下直々にお願いされまして。それだけならまぁ旧友同士の口約束と判断できるかもしれませんが……最近、王宮がドラゴンに襲撃されたでしょう?」
「あ、あぁ、それはもちろん知っているが……」
ちらっとマリーを横目で見るギールさんだった。まぁマリーは王宮でドラゴンから人に戻っちゃったし、兄であるマリット様もやらかした。二人が竜人と竜使いであることは広く知られてしまっているのだろうね。
「あの事件の主犯である『漆黒』はまだ捕まっていませんし、二度と王宮をドラゴンに破壊されるわけにはいきません。というわけで、ダンジョンを調査するにしても私かお爺さまのどちらかは王都に留まらないといけないのです」
「……ったく、漆黒の野郎も面倒くせぇ置き土産を……」
憎々しげにつぶやくギールさんだった。そろそろ『漆黒』は人からの恨みで呪い殺されるレベルなのでは?
「……リリアもそろそろ自重した方がいいと思うなぁ」
「……嫉妬で呪い殺されても不思議じゃありませんわよね」
「……いや、リリア嬢は呪い殺されるようなタマじゃないか」
なぜかしみじみと語るナユハ、マリー、ラミィであった。どうしてこうなった?
次回、8月20日更新予定です




