冒険者になろう
ミリスからの依頼という形で、件のダンジョンを調査することになった。やっぱり他派閥の貴族令嬢がガングード領で許可なくわちゃわちゃするのは問題があるみたい。
もちろん受注するのはドラゴンスレイヤーな凄腕冒険者・ラミィと、同じく竜殺しな私である。
「……いえ、調査してくださるのは嬉しいのですが……」
なんだか歯切れの悪いミリスだった。
「リリアは別に冒険者じゃないですよね? 冒険者ギルドの依頼を受けるわけにはいかないですし、素人がダンジョンに潜り込むというのは問題しかないかと」
「……そこはほら、バレなきゃいいじゃんの精神で一つ」
「ヒロインなんですから順法精神を持ってください」
ズパっと突っ込まれてしまった。ミリスさん、最近ナユハさんから容赦のなさを学んでいませんか?
しかし、そうか。冒険者じゃない人間がダンジョンに潜り込むのはマズいのか。
…………。
あ、ピーンときた。ピーンときましたよ私。
冒険者以外が潜り込むのがマズいなら、冒険者になってしまえばいいじゃない。
◇
「お姉様、『聖女』が冒険者になるのはないと思いますわ」
「王太子殿下の婚約者が冒険者になるのはないと思うな私」
「貴族令嬢が冒険者になるのはないと――いや、ボクがとやかく言えることじゃないか」
マリー、ナユハ、ラミィから呆れられてしまった。いやほんと、ラミィにだけは言われたくないわい。
まぁ、大丈夫だいじょーぶ。聖女だの王太子の婚約者だのは貴族の間で有名なだけだし。一般人は知らないでしょうきっと。冒険者ギルドなら普通に登録できるんじゃないのかな?
「ダメだこの子、自覚がなさ過ぎる。私がしっかりしないと……」
「お姉様はご自身の見た目に無自覚すぎですわよね」
「そういえば、写真館とやらの見学に行ったときも、普通にそのまま向かったものね。カツラを被るとか、ちょとくらい変装してもいいだろうに」
ナユハ、マリー、ラミィから呆れられてしまった。堂々と赤髪を揺らしていたラミィにだけは言われたくないわい。
まぁ呆れられるのはいつものことなので気にしないことにして。
「気にしないからやらかすことになるんだよ?」
冷静に突っ込まれてしまった。どうして以下略。
ともかく、まずはガングード領へと移動。現地の冒険者ギルドで冒険者登録をして、そのままダンジョンにレッツゴーしてしまおうという腹づもりである。
王都の冒険者ギルドだとお爺さまかおばあ様が嗅ぎ付けそうだしね。
「……黙って冒険者登録したとなると、怒るんじゃないかなぁ御二方」
怖い未来予知するの、やめてください。だってしょうがないじゃん話すと止められそうだし。
「……冒険者になっても、いきなりダンジョンに潜るのは無理なのでは?」
マリーがラミィに問いかけて、
「そうだねぇ。既存のダンジョンなら国と冒険者ギルドが管理していて、登録したばかりの低ランク冒険者は入ることすらできないのだけど……ミリス嬢の言うダンジョンは未発見だからね。偶然見つけて入ってしまったと言い訳すれば、まぁ大丈夫じゃないかな?」
なら冒険者登録しなくてもいいじゃん。とは思うけど、まぁもしかしたらまだまだ原作ゲーム的な追放ルートも残っているかもしれないし、一応冒険者登録しておこうかな。
ミリスの道案内でガングード領の冒険者ギルド本部へ。
本部の建物はレンガ造りの三階建てで、一階部分は受付と酒場になっているようだった。なんというかテンプレな冒険者ギルドの建物って感じだ。
「こういうのって冒険者ギルドに入った瞬間に悪目立ちして、『おうおう、ここはガキの来る場所じゃねぇぜ!』と柄の悪い冒険者に絡まれちゃうんだよね!?」
「なんでちょっとウキウキしているんだい?」
「え? だってテンプレじゃん。冒険者をぶっ飛ばして我が力を示す絶好の機会じゃん?」
「リリア嬢はときどき変なことを――いやいつものことか」
解せぬ。
「いいかいリリア嬢? 強者というのは寛容さも必要だ。ちょっと絡まれたくらいで消し炭にしてはいけないんだよ?」
消し炭って。ラミィは私を何だと思っているのか。いくら私でも人間を消し炭になんてしないわい。消し炭にしたことがあるのはドラゴンくらいっす。
どうしてその評価になったと首をかしげながら私は冒険者ギルドの扉を開けた。
「……うわ、聖女じゃねぇか」
「なんだあの覇気」
「人間の発していいものじゃねぇよ……」
「おい、目を合わせるな。絡まれたら死ぬぞ」
「レベルを鑑定するまでもなく強いと分かるって、どんなバケモノだよ……」
あっれー? 冒険者さんたちがサッと目を逸らし、俯いてしまったぞー? おかしい。こういうのって絡まれるのがテンプレじゃないの?
「そりゃあ、冒険者に一番必要なスキルは危険察知だし。勝てない勝負はしない。少しでも危険があれば逃げる。ベテランになればなるほど、無茶なんかしないのさ」
危険人物扱いはやめていただきたい。と、私が不満に思っていると――
「――へっ、情けねぇな。聖女が何だってんだ。ここはいっちょ冒険者の掟を教えて――」
モヒカン頭の若い冒険者が立ち上がり、私に向かって歩いてきたところで――周りの冒険者たちがモヒカン男に掴みかかり、ボコり、物理的に黙らせてしまった。
「馬鹿野郎! 相手を見て喧嘩を売れ!」
「お前が死ぬのは勝手だが、こっちまで巻き込まれたらどうする!?」
「アレの実力も見抜けないなら冒険者なんて止めちまえ!」
何という容赦なき暴力。
ちょっとドン引きしてしまう私だった。というか私聖女ですよ? 『アレ』扱いは酷くない? どうしてこうなった?
次回、7月30日更新予定です




