新聞記者
写真館からの帰り道。
来たときと同じように歩いて帰ろうとしていると、不意に背後から声を掛けられた。
「――やや! 貴女はまさか聖女様でしょうか!?」
何とも若いというか、キャピキャピした声。
『キャピキャピだって~』
『古いよね~』
『やっぱり中身はオバサンか~』
「私は前世でもピチピチ♡キャピキャピじゃい!」
容赦のない妖精さんたちに容赦のないツッコミ(雷撃魔法)を喰らわせた私である。もちろん妖精さんたちはこの程度じゃノーダメージ以下略。
「……へぇ。アレが噂の妖精か……」
呆れたような、戸惑ったような声を上げるラミィであった。どうやら彼女も妖精さんが見えるらしい。まぁ『ミキリ』ができるのだから見えても不思議じゃないか。
というか私の周りの女性、妖精さんが見える人多すぎでは? 妖精さんが見える『妖精の愛し子』って公式には私一人だけのはずなのに。
そんなことを考えながら振り返ると――、一人の少女がドン引きしていた。すぐ近くに雷が落ちてビックリしちゃったかな?
この時代の少女としては珍しい格好だ。
男性が被るようなハンチング帽に、シャツ、そして長ズボン。
この国、この時代の女性は生足を出すのがありえないのでミニスカートなんてものは存在しない。……それにしたって男物のズボンを履くのもありえないのだけどね。
髪色は、茶。たぶん長いだろうけど帽子の中に入れているのでショートカットに見える。
なんというか、もったいないなぁ。せっかく綺麗な髪色なのに。
おっと、とりあえず名前を聞いておきましょうか。
「え~っと、あなたは?」
「やや! これは申し遅れました! 私、新聞記者をやっているカナンです! 聖女様に是非ともインタビューをしたいと思いまして!」
「新聞記者?」
新聞とは言うけれど、別に毎日発刊されているわけではない。どちらかというとゴシップ誌とか、週刊誌と呼んだ方がいい代物だ。
内容としては貴族の醜聞が大半。貴族に喧嘩を売ると簡単に取りつぶされるのが庶民であるはずなのだけど、新聞に関しては『敵対派閥の貴族を貶めるのに便利』、『お茶会のネタになる』という理由から生き残っているみたい。
まぁ、そんな感じだから、ネタにしたらマジで取りつぶし&一族抹殺される高位貴族の醜聞が乗ることはほぼない。だいたいが子爵とか男爵、騎士爵といった『庶民にも比較的身近な』貴族が話題の中心となる。
そんな新聞記者が、聖女にインタビューねぇ?
私としては別にいいかなぁと思うのだけど、ナユハとラミィが自然な動きで私の前に立った。
「申し訳ございませんが、現在『聖女様』はプライベートな時間を過ごしておりまして」
「そうだね。『聖女様』への取材申請は教会を通してもらえるかな?」
いやそんな無下に断らなくても……。
「リリアは自覚がなさ過ぎる」
「リリア嬢は自覚がなさ過ぎだね」
あ、はい。申し訳ございませんでした?
私が謝罪(?)していると、新聞記者だという少女がナユハに近づいて、その顔を覗き込んできた。美少女と美少女が近距離で見つめ合うとかかなりの眼福である。
「? あ、あの……?」
「ナユハ・レナードさんですよね?」
「な、なぜ私の名前を?」
「貴女は有名ですから。……良くも悪くも」
「…………」
「気をつけた方がいいですよ? 私は新聞記者として様々な情報に触れる機会がありますけど――『黒髪』というだけで敵視するバカは、たぶん貴女が思っているより多いですから」
「……………………」
「聖女様に取材できないなら仕方ありません。今日のところはこれにて失礼しますね。ではでは! またいつか!」
両手を打ち鳴らしてから新聞記者さんは人混みの中に消えてしまった。
◇
――そして数日後。
キュピーンと何かを受信した私である。
なんかよく分からないけど隣国を滅ぼしても許される気がしてきた。
こう、全力全開の攻撃魔法を叩き込んでも許される気がしてきた。
「うん、許されないかな」
「許されないですね」
『許されないよねー』
「さすがのわたくしでも止めますわ、お姉様……」
ナユハ、ミリス、愛理、マリーから怒濤のツッコミをされてしまった。どうしてこうなった?
「はははっ、誰も『滅ぼせるの?』と疑問に思わないあたり、なんというか、リリア嬢だね」
苦笑するラミィだった。解せぬ。
それはともかく。そろそろスタンピード対策を本格化させようということになり、ミリスとのお茶会を開催した私である。
参加者としてはもう原作ゲームについて話しちゃったナユハとマリー、原作ゲームは知らないけど戦闘能力が高いので是非とも協力して欲しいラミィ、そして、原作ゲームのシナリオライターということで愛理にも参加してもらうことにした。
の、だけれども。
『んー? ゴメン。スタンピードに関しては大した設定はないんだよねー。その場のノリと勢いで書いたというかー』
はい?
軽い口調でとんでもないことをほざきませんでしたか愛理さん?
『いやだって、原作シナリオだとほとんど関係ないし。お話のスパイスとしてそれっぽいお話をそれっぽく臭わせただけだし。――作中の出来事すべてに詳細な設定があると思ったら大間違いだよリリアちゃん!』
「このダメシナリオライター!」
思わず突っ込んでしまう私だった。どうしてこうなった?
「……ナユハ嬢。ちょっと話が見えないんだけど?」
「あぁそうですよね。実は――」
と、ラミィに原作ゲームについて説明してくれるナユハたんだった。いつもすみません。
「……なるほど。未来視なんてとても信じられないけど、まぁリリア嬢だものね」
なんだか妙な納得をされてしまった。どうしてこうなった?
まぁとにかく。愛理が役に立たない(オブラートに包んだ表現)ので、手探りで調べていかないとならないでしょう。
「妖精様から教えていただいた情報によりますと、我がガングート領のこの辺りにスタンピードの発生源となるダンジョンがあるそうなのです」
「ほうほう」
ダンジョンについてはこの前の王城中庭崩落事件で色々と裏設定を知ってしまったので『めんどくせぇ』となってしまう私である。
ダンジョンの『本質』について知っているのは私だし、ここは私が調査に赴いた方がいいでしょう。
「ダンジョンか。ならば冒険者であるボクが同行した方がいいだろうね」
頼もしいラミィであった。
「わ、わたくしも同行した方が現地でも色々と便宜が図れるかと!」
おずおずと手を挙げたのはミリス。
「うん、ダメです」
「な、なぜですか!?」
「いやいや公爵令嬢をダンジョンに連れて行けるわけないでしょうが」
「ラミィ様も公爵令嬢ですよ!?」
「あなたラミィほどの戦闘能力あるんですか?」
ミリスのペット(?)であるハティも『そうだそうだもっと言ってやれ』とばかりに頷いている。ミリスって意外と行動力があるからねぇ。ハティも苦労しているのかもしれない。
「むぅ、むむむぅ……」
なぜだか悔しがるミリスの背中を、マリーが親しげに撫でる。
「ふふ、戦闘能力がないのならしょうがないですわ。ここは戦闘能力が高いラミィ様とわたくしに任せてもらって――」
「あ、マリーもダメだよ?」
「なにゆえですか!?」
「だって、大迷宮だよ? ボスエリアならとにかく、他は狭い通路が基本なんだから。マリーがドラゴンに変身したら崩れて生き埋めになっちゃうかマリーの身体に押しつぶされちゃうじゃん」
そりゃあ竜人形態で戦ってくれるならいいけど、マリーって絶対調子に乗ってドラゴンに変身しちゃいそうだし。
「……どうしてこうなりましたのぉ……」
床に手をついてうなだれるマリーだった。どんまい。
次回、7月20日更新予定です。




