プロローグ 狂信者たち
――神聖ゲルハルト帝国。
リリアの住むヴィートリアン王国の隣国であり、大聖教の『聖地』を巡り、何度も侵略戦争を仕掛けてきた国である。
そんなゲルハルト帝国の指導者が一堂に会し、使者としてヴィートリアン王国に派遣されていた神官からの報告に耳を傾けていた。
「……つまり、あの偽聖女は汚らわしい『黒髪』と共にいると申すのか?」
偽聖女。
リリア・レナードのことである。
堕落した信仰を掲げるヴィートリアン王国に本物の『聖女』が誕生するはずがなく、であるならば、リリア・レナードは偽物に決まっているのだ。
銀髪だとか、赤目だとか、金の瞳などという情報は(ゲルハルト王国にとって)意味をなさない。なぜならリリア・レナードは偽聖女であり、であるならば聖女の証も偽物に決まっているのだから。
偽物の銀髪を本物のように語り、初代勇者と同じ赤目や、建国神スクナ様と同じ金色の瞳であると偽るなど……まさしく、神すら恐れぬ所行である。
真なる信仰を守るゲルハルト王国としては看過することはできない。必ずや信仰の名の下に天罰を下し、偽聖女であると白日の下にさらさなければ。
しかし。
そんな偽聖女よりもさらに罪深い存在がいる。
黒髪だ。
魔王の血を引く一族。
汚らわしい一族。
そんな黒髪の女が、(偽物であるとはいえ)銀髪と同じ姿絵(写真)に収まるなど……。
不埒である。
不敬である。
不遜である。
神を見くびるにもほどがある。
断罪せねばならない。
その命で以て償わせなければならない。
必ずや。
必ずや天罰を。神に変わって執行せねば。
「まずは、この国に連れてこなければ」
暗殺者を送り込むのは簡単だ。
しかし、それではダメなのだ。
汚らわしい黒髪の女。
神を見くびる罪深き女。
異端審問にかけ、罪深さを肉体に刻み込み、衆人環視の元で断罪しなければ。そうすればきっとスクナ様もお慶びになるだろう。
そのためには、暗殺などもってのほか。
なにをしてでもこの国に連れてきて、正義を執行しなければ。
「まずは情報を集めろ」
「必ずや天罰を」
「必ずや天罰を」
「罪深き一族」
「汚らわしい血」
「――ナユハ・デーリンに、神罰を」
この章か次の章で子供編を一旦区切り、新しい小説として学園編(15歳)を投稿予定です。話数が多すぎて管理ページが三分割されていて、とても管理しにくいので……。
次回、7月10日更新予定です




