第9章 エピローグ 写真館で
お母様とは継続審議と相成った。
まぁでも私は渾身の空手チョップでスッキリしたし、お母様もなんだか吹っ切れたような顔をしていたので、何とかなるんじゃないのかな? 少なくとも、今までよりは希望が持てると思う。
そんなことがあってから数日後の、ある日。私たちは徒歩で写真館を目指していた。そう、以前ナユハを救うための資金を稼ぐために作ろうとしたアレだ。
建物は完成し、貸衣装も準備され、貧民街の人を中心として人も雇い、研修も完了した。
まぁつまり、今日から写真館がオープンするわけである。
ちなみに馬車を使わないのは、同行したラミィが鍛錬の一環として歩くことを希望したからであり、それに(意外にも)ナユハが同意したためだ。
どうやらリーンハルト家でケリィ様と手合わせした結果、もっと鍛錬しなきゃと考えたみたい。
いや、その歳でケリィ様と手合わせできるのとかバケモノじみた強さなんだけどね? どうにもナユハさんは自分の強さに自覚がなさ過ぎである。
「比較対象がリリア嬢だからね」
私をバケモノを越えたバケモノ扱いするの、やめてもらえません?
「しかし、リリア嬢のお母様は……なんというか、普通の女性だね。もちろん、いい意味で」
私の事情を誰かから聞いたらしいラミィがそんな感想を口にした。ちなみに最近のラミィは『聖女様の護衛なんだから、聖女様のお側にいないとね』ということでうちに下宿(?)している。
公爵令嬢なラミィの他にも、メイドプレイしているマリー(侯爵令嬢)がいるし……うちの高位貴族密集度、高すぎである。あと戦力値も。ドラゴンに変身できるマリーに、ドラゴンスレイヤーな私、ラミィ、そしてお爺さまもいるし。もはや王都くらいなら落とせるのでは?
「リリア嬢の場合、そのうち国を落としそうだよね」
ラミィは私を何だと思っているのか。どうしてこうなった?
そんなやり取りをしているうちに写真館の場所に到着。貴族向けのお高い値段設定なんだけど……店の前の道路を塞ぐほどの人だかりができていた。
「大人気……というよりは、野次馬ってところかな?」
「聖女であるリリアの写真が飾ってありますからね。見たいって人は多いんじゃないですか?」
そんなやり取りをするナユハとラミィだった。
個人的にはツーショットしたナユハとミリスの美しさに惹かれている説を推したいと思います。だって二人はメッチャ可愛いし。
「……リリア嬢って、意外と、アレだよね……」
アレとは何かなラミィさん?
あはは、うふふと笑いあっていると――人混みの中から、神官服を身に纏った男性が出てきた。なにやら気むずかしそうな顔をしている。
神官は思考に熱中しているのか、『銀髪・黒髪・赤髪』というかなり目立つ集団である私たちに気づいた様子もなく、何処かへ歩き去ってしまう。
何となく気になったけど……まぁ『左目』を使うまでもないかと判断した私はそのまま人混みをかき分けて写真館に入ったのだった。
◇
――神官服の男性。
この国においては別段珍しい存在ではない。
ただし、もしも見かけたのが大聖教の関係者であったならば。その男が着ている神官服が隣国にして敵対国家『神聖ゲルハルト帝国』のものであると気がついただろう。
……よりにもよって大聖教で一番偉いはずの『聖女様』や、形だけとはいえ聖騎士であるラミィが気づかなかったが、それはまぁ置いておくとして。
男は写真館のショーウィンドウに飾られた写真を睨め付けていた。
写っているのは神に愛されし銀色の髪を有した少女と、黒い髪をした女。
許されない暴挙である。
神に愛された銀髪と、汚らわしい黒髪が同じ空間にいるなど。絶対に許してはならないのである。
黒髪を抱き寄せる銀髪の女も。
それに抵抗するそぶりを見せない黒髪の女も。
そんな冒涜の一枚を平気な顔で眺める民衆たちも。
神にその生涯を捧げた男にとって、決して許されない存在であった。
「――神に対する冒涜だ」
吐き捨てた男は写真館の前を離れ、人混みの中に消えていった。
次回、ちょっと間が空きまして6月30日更新予定です。




