14.解決(パワープレイ)
「親だからと言って、全員が例外なく素晴らしい人であるとは限りません。むしろ、そうでない人の方が多いでしょう」
夫人は語る。平坦な声で。考えるまでもない事実を告げるように。
「もちろん、立派な親もいることでしょう。ですが、その人は親だから立派なのではありません。元々立派だからこそ、親となっても立派であれるのです」
「…………」
「親だって、人間です。機嫌の悪いときもありますし、出来ないことは出来ませんし、やりたくないことはしたくありません。子供のためと頑張っていますけれど、それだって、無限に力が湧いてくるわけでもありません」
「それは……」
「親だって怒ります。泣きます。怖いものは怖いですし、叫びたいときだってありますし、――嫉妬することも、あるのです」
「…………」
「リリア様はご立派な人間です。二百年ぶりに任命された聖女にして、神と等しき金色の瞳を有しておられます。その歳で多くの国難を排除し、多くの人を救ってきたことはわたくしの耳にも届いております」
「……私はそんな、立派な人じゃないです」
思わずそう答えると、夫人はどこかもの悲しそうに目を細めた。
「立派じゃないと言えるリリア様だからこそ。本気でそう思っているリリア様だからこそ。――本当に平凡な人間の『弱さ』を理解できないのです」
「弱さ……」
だからこそ、と夫人は続ける。
「強き御方。どうか。どうか人間の弱さを理解してください。『親』の不完全さを許してあげてください。親だって、一人の人間なのですから」
「…………」
「聖女様に対しての数々の無礼な発言、伏してお詫び申し上げます」
「……頭を上げください。私はそんな、頭を下げられるような人間じゃありません。……こんな簡単なことに、今まで気づかなかったのですから」
そう、何も気づかなかった。
何も知らなかった。
理解しようともしなかった。
前世の記憶。
チート。
そんなものがあったって、私はしょせん子供。10年しか生きていないガキだったということらしい。
◇
家に帰る馬車の中で、私は悩んだ。どうしたものかと。どうすればいいのかと。
結論。よく分からん。
よく分からないので、とりあえず突撃することにした。
「どうしてそうなるのかな?」
なぜか呆れるナユハさんと、
「まぁ、リリア嬢だからね」
なぜか馬車に同乗しているラミィだった。
家に到着。
メイドさんに、お母様(幽霊)の居場所を聞く。
肩を回しながら、お母様のところへ。
「――ひっ」
私の姿を見つけて、小さく悲鳴を上げるお母様。ちょっと前の私なら少し傷ついただろうけど、今の私は大丈夫。――なぜならもう、決めたから。
動きを止めたお母様に、一歩一歩近づいていく。
お母様の眼前で立ち止まり。
存分に暖まった肩を回し。右腕を振り上げて。
渾身の力を込め。
今までの不満を。怒りを。悲しみを込めて。
――お母様の脳天に、空手チョップを叩き込んだ。
「!? !?」
幽霊になっても物理ダメージが有効なのか、涙目で頭を抱えるお母様だった。
そんなお母様に対して、私は満面の笑みを浮かべて――
「――とてもスッキリしました! 色々と言いたいことはありますが、これでチャラにしましょう!」
心の清々しさを表現するように親指を立てる私であった。
「……う~ん、どうしてこうなった?」
「やっぱり面白いねぇリリア嬢は」
次回、5月30日更新予定です。




