08.呪いの装備?
姐御と姉弟子がやって来て、ダンジョンで拾った指輪、迷宮王の指輪が私の元に返ってきた。
うん? 面倒くさそうだから姉弟子に押しつけたのに、何で戻ってくるのかな? 装備すると外れない系の呪いの指輪かな? 私まだ装備してなかったんだけどな? どうしてこうなった?
指輪を持ってきた姉弟子に胡乱な目を向ける。
「あの、姉弟子。なんで私のとこに戻ってくるんですか?」
「リリアちゃんが発見者なんだから、当然でしょう?」
「ダンジョンの核からドロップした装備品って、基本的に国が買い取るか回収するものじゃないんですか?」
「……リリアちゃん、いいことを教えてあげましょう」
姉弟子はすぅっと息を吸い込んで、
「――神代魔導具を買い取れる予算的余裕なんて! 我が国には! ありません!」
そんな、もの悲しい現実を口にした。泣いていいだろうか?
いや大丈夫? 次期王様のリュース、大丈夫? やだよ結婚して財布を見たら借金まみれでしたなんて展開。せめて早めに教えてください。
まぁ、いざとなったら錬金術で金を作ればいいか。
私が軽く考えていると、姉弟子は疲れたように首を横に振っていた。
「もしも買い取れる可能性があるとしたらレナード商会だけど……それだって結局はリリアちゃんの元に返ってくるわよ? リース様は次世代に管理を任せようとするでしょうし、魔力が人並み(貴族並み)しかないレナード子爵やアルフ君には管理どころか保管すらできるかどうか怪しいし」
世知辛い現実であった。
「あと、万が一にも『漆黒』とかの悪人の手に渡ると酷いことになるから。そういう意味でもリリアちゃんに管理して欲しいのよ。リリアちゃんなら漆黒も近づけないだろうし」
いや、なんで魔導師団とかを飛び越えて私に話が持ち込まれるのだろう? なにゆえ『漆黒』を撃退できること前提で話が進んでいるのだろう? どうしてこうなった?
◇
嫌でござる。
これ以上の面倒ごとは嫌でござる。
そう言って必死の抵抗をして、何とか指輪を返却しようとした私だけど……。某正妻様の、『どうせ最後にはリリアがやらかして終わるんだから、諦めて受け取ったら?』という言葉に撃沈された私である。うちの嫁からの信頼が分厚い。そしてどこかズレている。どうしてこうなった?
あっれー? 最初の頃は私が振り回していたはずなのに、今では尻に敷かれている気がするぞ? どうしてこうなった?
「……出会った頃から割とナユハに振り回されてねぇか?」
姐御が呆れたように指摘してきた。そうだったっけ?
まぁ今度の方針についてはあとでじっくり話し合うとして。今重要なのは迷宮王の指輪だね。
とりあえず、装備してみて初めて起動する系の魔導具だったので、とりあえず右手の人差し指に嵌めてみる。万が一呪いの装備だったとしても、私ってスクナ様の加護があるから効果がないし、そんな危険な魔導具はぶち壊してしまえばいいだけだもの。
「――――」
装備した途端、頭の中に情報が溢れだした。この指輪の基本的な使い方から、ダンジョンの情報に至るまで。
いやまぁ全自動説明書は便利だからいいのだけど……問題は、さらっと説明されたダンジョン本来の役割だ。
…………。
…………………。
…………………………。
えー? なんだこれ? スクナ様や師匠からも教えられてないぞ? 姉弟子が興味深そうに顔を覗き込んでくるけど、この情報はちょっと気軽に教えられない。
たしかミリスって世界の終わりを阻止するために原因となるダンジョンを調査しようとしているんだよね?
あ、これヤバいな。
ミリスが調査するときは同行しよう。固く決意した私だった。
◇
それはともかく指輪である。
ダンジョンを作っていた黒いドラゴンは完全完食されたけど、王宮の中庭に作られたダンジョンが消えてしまったわけではない。まぁダンジョンの大本になる指輪が残っているのだから当然と言えば当然か。崩落はしたけれど、時間を掛けて魔力を貯めればまた復活するでしょう。
で。
ダンジョンを作るには魔力が必要で、集めた魔力をD.P.(ダンジョン・ポイント)に変換しないといけないらしい。
D.P.を貯めるとダンジョンを守るための魔物の作製や罠の設置などができるほか、ダンジョンの入り口を守る城や防塁、堀などの防御施設から畑やら温泉やら作れるらしい。
D.P.はダンジョンを作成し、冒険者をおびき寄せることで獲得できる。
基本は冒険者を倒して『吸収』することでD.P.が溜まるらしいけど、その他にも、冒険者を『監禁』することでも溜まるらしい。なんでも人間は生きているだけで魔力を生み出すから云々かんぬん。
まぁつまり、一気にD.P.が欲しいなら吸収してしまうのが良くて、少しずつでも長期間欲しいなら監禁するのが良いらしい。
で。
なんか凄い勢いでD.P.が溜まっていた。
うん、まぁ、よく考えれば当然だよね。ここは(半壊したとはいえ)王宮、魔力が高い人間である王族や貴族、近衛魔導師団員、ついでに言えば姐御や姉弟子がいるもの。自然発生する魔力は相当なものがあると思われる。
なんかもう、ちょっと待てば溜まったD.P.で大規模ダンジョンを作れるどころか入り口に立派な城も作れそう……。
……うん? 城が作れる?
…………。
なんだかまた面倒くさそうなことに巻き込まれるような予感がしたので、気づかなかったふりを――
――がっしりと。
肩を掴まれてしまった。姉弟子から。
「あら、お城を作れるの? 興味深いわね。王宮の再建をするためには中庭の大穴をふさぐところから始めなきゃいけないところだったから、丁度いいわ」
絶対逃がさんとばかりに手に力を込める姉弟子だった。どうやら独り言で喋っていたらしい。
ど、どうしてこうなった?
次回、3月10日更新予定です。




