閑話 腐れ縁三人組
――リリアへの説教後。
何だかんだの腐れ縁であるリリアの姐御・キナと、姉弟子・フィー、そしてラミィの姉・近衛騎士団のケリィ・リーンハルト公爵令嬢はフィーの執務室に集まった。三人が自由に使える部屋の中で防音性能はここが一番高いのだ。
「しっかしまぁ、ダンジョンを一撃でぶっ壊すとはなぁ」
呆れたような、諦めたような声を上げるキナ。彼女の視線の先にはリリアがダンジョンで拾ってきた指輪が置いてある。
リリアが半ば強引に『調べてくださいね!』とフィーに押しつけたものだ。
リリアの鑑定によると迷宮王の指輪という魔導具なのだとか。
寝不足であることを差し引いても顔の蒼いフィーの様子から、どうやらとんでもない代物らしい。
「んで? その指輪はそんなにヤバいものなのかよ?」
と、キナ。
「王宮だから元々すごい『気場』」なんだろうけど、できたばかりのダンジョンでしょう? ドロップ品も大したことないんじゃない?」
と、ケリィ。
あまりにも暢気な二人の言葉に文句の一つも付けたくなるが、寝不足でそんな気力すらないフィーである。
「……私でも鑑定できなかったのよ」
「はぁ……?」
「さっき捕まえたランクAの鑑定眼持ちに頼んでも、鑑定不能だった。つまりはリリアちゃんしか鑑定できないってことで――要するに、神代に作られたものか、神自らお作りになった指輪ってことになるのよ!」
「はぁ……?」
「珍しそうってのは分かるけど、どう凄いの……?」
仲良く首をかしげるキナとケリィだった。殴りたい。ひじょーに殴りたいフィーであるが、さすがに二対一(&寝不足)では分が悪いのでグッと我慢した。この二人は無駄に戦闘能力が高いのだ。
「リリアちゃんによると、この装備は『ダンジョン』が作れるようになるらしいわね。自然発生じゃないダンジョンが作れるなんて、そんなの『魔王』の中でも神代に生まれた存在しかできないはずの偉業なのよ」
ダンジョン、という単語にキナとケリィが敏感に反応した。
「ほうダンジョンが!? なら素材取り放題じゃねぇか! 好きに作れるなら貴重素材を落とす魔物も生み出せるんだろう!?」
と、さっそく金儲けに走ろうとするキナ。
「いいわねダンジョン! 好きに作れるなら、数が少なくて対処法があまり研究されてない魔物とも戦えるんでしょう!? もしかしてドラゴンとも戦えたりして!?」
と、修行のことしか頭にないケリィ。
もはや突っ込む気力すらないフィーである。
「使ってもいいけど、ダンジョン一つ作るのに必要な魔力ってどれくらいよ? たぶん、使った瞬間に魔力を吸い尽くされて干物になるわよ?」
「ゾッとしねぇなぁ……」
「さすがに干物になったら剣が振れなくなるわね……」
「……まぁ、リリアちゃんなら使いこなせそうだけど」
ボソッとつぶやくフィーにケリィが呆れたような目を向ける。
「あなたの妹弟子はどれだけバケモノなのよ?」
「経験はともかく、保有魔力だけなら初代勇者に少し劣るくらいよ? しかもまだ10歳だから、将来的には追いつくか、追い越すでしょうね」
「7日7夜も魔王と戦って、使った魔力が土壌に染みついて2,000年後も消えない、あの初代勇者に……? さすがは聖女様……」
「他人事みたいな顔してるけど、あなたの妹さん、そんな聖女様に恋をするそうよね?」
「我が妹ながら、何でそうなるのか……。いやね? たしかに姉としては剣術以外にも興味を持って欲しかったわよ? 別に『父様』から認められるだけが人生じゃないのだから、剣以外の生きがいを見つけてくれてもって……。でも、『恋に落ちる』じゃなくて『恋をする』って何よ!? どうせ『恋人になったらいつでも手合わせできるだろうなー』くらいの安易な発想でしょうあの子のことだから!」
まったく妹を信頼していないケリィであった。間違ってもいないところがどうしようもない。
「……いや、だが、いい状況じゃねぇか?」
悪巧みするように口端を吊り上げるキナ。
「どういうことよ?」
「うちとしちゃあ、ドラゴンを倒せる人材にはなるべく王都にいて欲しい。『漆黒』の野郎が暗躍しているなら尚更だ。だがラミィのやつは冒険者を始めたからな。依頼によっては他国にも行くだろうし、すぐに連絡を取れる場所にいるとも限らねぇ」
キナの言葉にフィーの目が光る。
「なるほど、リリアちゃんの『恋人』にしてしまって、リリアちゃんの側にいさせようと? そうすれば滅多なことで王都を離れることもないでしょうし、離れたとしてもリリアちゃんほどの保持魔力なら居場所を探しやすいと」
リリア本人にはあまり自覚はないが、彼女は歩くだけで周囲の魔素をかき乱す規格外なのだ。つまり不自然に魔素が乱れている場所にリリアはいると。
「恋人はまだ早ぇにしても、護衛騎士にするって手もある。なんだったら教会が引き取って聖騎士にしたっていいぜ?」
「うんうん、ナユハちゃんだけじゃ『聖女様』の護衛が少ないって話も出ているものね。護衛として自分の子供を送り込もうとする貴族連中を黙らせるには、『剣劇少女』であり『公爵令嬢』であるラミィちゃんがぴったりだと」
どんどん話を進めるキナとフィー。類は友を呼ぶと言うが、腹黒は腹黒を呼ぶのかとちょっと引くケリィであった。
ちなみにケリィは類友は類友でも『腹黒』枠ではなく『力こそパワー』枠である。
そんなケリィにキナとフィーが首を向ける。
「まずは家族を説得しねぇとな」
「姉として、そこのところはどうなのよ?」
「え? 私としては……聖女様に迷惑を掛けるのは不安だけど……でも下手にラミィを野放しにするよりかはいいかしら……。それに、聖女様の護衛騎士ならお父様も反対しないでしょうし」
「なら決まりだな。あたしは教会に話を通しておこう」
「じゃあ私は陛下に相談しておきましょう」
「「リーンハルト公爵の説得、よろしく」」
仲良く声を揃えるキナとフィーだった。さらっと一番面倒くさい交渉を任されてしまったケリィは『どうしてこうなった……』と天井を見上げるのだった。
次回、3月1日更新予定です




