04.騎士団長の息子、再来
「……どうしてこうなりました……?」
義理の弟からの断罪フラグが立ってしまったミリスは地面に手を突いてうなだれていた。そんな彼女の肩を優しく叩く私である。
「まぁまぁ、もし断罪されたら出家すればいいだけだし。私が引き取るし。聖女専属の修道女とか下手な貴族子女より尊敬されるし権力も持てますよ?」
『バゥ(もしそんな事態になったら、我が主を断罪するような節穴連中なんて丸呑みしてやろう)』
同時にミリスを慰めるハティであった。
「断罪自体は止めないんだ……」
なぜか呆れるナユハだった。
ちなみにナユハは妖精の愛し子であるおかげかハティの言葉も分かるらしい。やだ、私の正妻、有能すぎ……?
私がボケているとパスを通じて姐御から念話が飛んできた。
『おうリリア! たまにはお茶会と洒落込もうぜ! もう『準備』はできているからな!』
姐御からのお茶会のお誘いとか面倒くさい未来しか見えないんですけど? 未来視を使うまでもなく。
逃げるかなぁとちらりとナユハを見ると、『どうせ逃げても無駄だから諦めたら?』という顔をされてしまった。どうしてこうなった?
◇
とりあえず(王宮に直接転移すると色んな人から怒られるので)一旦うちに戻り、そのあと馬車で王宮を目指すことにした私たちである。
ちなみに参加者(?)は私、ナユハ、そしてミリスである。
「……いえ、なぜ私まで?」
「……道連れは少しでも多い方がいいと思いません?」
「思いませんよ!? 巻き込まないでくださいよ私戦闘力ゼロなんですから!」
「いや~私と(友達として)付き合うならこういうことにも慣れておかないと、的な?」
「……なるほど、リリアと(恋人的な意味で)付き合うなら……どうしてこうなりました?」
oh,とばかりに頭を抱えるミリスの背中をナユハが優しく撫でていた。仲が良さそうで何よりだ。
王宮に到着し、馬車から降りる。
「うわぁ……」
馬車の中でも薄々感じていたけど、降りた途端に確信した。
これはダメだ。
絶対面倒くさいことになる。
絶対『どうしてこうなった!?』案件となる。
三十六計逃げるが勝ち。ここは日を改めて――
「――はいはい。ここで逃げてもどうせ巻き込まれるんだから、さっさと解決してしまった方がいいと思うな私」
ナユハの超握力な右腕で襟を掴まれ、ズルズルと引きずられてしまう私だった。なんかもう雑。私の扱いが雑すぎですナユハ様。
『自業自得ー』
『因果応報ー』
『悪因悪果ー』
いや悪因って。私がいつ悪事を働いたというのか妖精さん。
ちなみに。
引きずられる私(聖女)を目にして、王宮の人たちは『あぁ、またやってるよ……』という感じの生暖かい目で私たちを見ていた。どうしてこうなった?
◇
なんかもう、ドロドロとしたものが漂っていたので、それを辿って移動すると中庭に着いた。ナユハが黒いドラゴンをぶっ倒したという場所だ。
「ガイサン様が致命傷を与えていたし、私はトドメを刺しただけなんだけど……」
謙遜するナユハだった。普通の人間はいくら弱っていようが『幻想種』を殺すことなんてできないからね? この子、自覚がなさ過ぎである。
「リリアにだけは言われたくないでしょうね」
ミリスから冷たい目を向けられてしまった。ナユハさんよりは自覚あると思うなー私。
「おっ、リリア。来たか」
悪びれもせず姐御が片手を上げた。なんかもう嫌な予感しかしないけど一応尋ねてみる。
「姐御、いったい何をやらかしたんですか?」
「リリアじゃあるまいし、あたしが何かやらかすわけねぇじゃねぇか」
私なら何をやらかしてもおかしくはないという評価、断固抗議します。
「え?」
「え?」
二人とも、そんな『やらかしまくっているくせに、自覚なし?』みたいな顔するの止めてもらえません?
「ま、リリアが自覚無しなのはいつものこととして、だ。どうやら中庭にダンジョンが発生したみたいでな。厳正な会議の結果、リリアに丸投げしちまおうということになった」
「どうしてそうなった?」
仕事をしろ大人たち。ここには近衛魔導師団とか近衛騎士団とかいるでしょうが。
私がじぃっと視線を移すと、中庭に待機していた魔導師団員はさささっと目を逸らした。ダメな大人たちである。
「はぁ……。で? よく分からないですけど、ダンジョンをぶっ壊せばいいんですか?」
「おう。最終的にはそうなるんだが、その前に一応『鑑定』してみてくれや。場所が場所なだけに、あの黒いドラゴンが関係しているかもしれないからな」
「黒いドラゴンが?」
「おうよ。もしそうなら『討伐したドラゴンの死体を放っておくとダンジョンが発生する』っていう可能性が出てくるからな。今後の研究対象にしたいってのがフィーの意見だ」
「……そういえば、姉弟子はどこ行ったんですか? 魔導師団長なんだからここにいるべきですよね?」
「あぁ、『お客さん』がいるからちょっと出迎えにな」
「お客さん?」
私が首をかしげると――
「――ナユハ嬢!」
大きな。とても大きな声が中庭に響き渡った。そりゃあもう拡声器とか拡声魔法を使ったレベルのバカでかい声が。
視線を声がした方に移すと、そこには、見覚えのある少年の姿があった。
アホの子。
じゃなかった。騎士団長の息子、ギルス・ゲルリッツ。
そう、ナユハに。私のナユハに。こんなにも可愛いナユハに槍を向けた愚か者。黒髪黒目という理由だけで危険だと判断し槍を向けた大馬鹿野郎。うんやはりアホの子だ。ギルスなんて大層な名前はもったいない。
私が絶対零度もかくやという冷たい目を向けていると、アホの子はこちらに駆け寄ってきた。
思い切り踏み込み、大ジャンプ。
空中で両膝を折りたたみ、正座の体勢に。
そしてそのまま地面に着地する、あの技は、まさに――
――ジャンピング土下座!?
スクナ様が伝えたとされる最上級の謝罪方法! もうちょっと教えることは選びなさいスクナ様!
ズササーッと地面を滑ったアホの子は、狙ったかのようにナユハの足元で止まった。
「ナユハ嬢! どうか謝罪させてもらいたい! 黒髪黒目などという理由で槍を向けてしまったこと! このギルス・ゲルリッツ一生の不覚だった!」
何という熱い謝罪。
これはもうアホの子扱いは止めてあげて――いや、別の意味でアホの子か、これ?
そして。
衆人環視の前で騎士団長(侯爵)の息子にジャンピング土下座をされたナユハはというと、
「……どうしてこうなったのかな?」
現実逃避するように青い空を見上げたのだった。
次回、12月10日更新予定です。




