03.おとめげぇむ?
さて。今日の目的は写真館以外にもう一つあった。
ミリスの義弟、ウィリス様の恋路を出歯亀――じゃなかった。誘拐される未来を『未来視』しちゃった教会のシスター(そしてウィリス様の思い人)・レイナさんの様子を見ることだ。
イチャイチャしているタフィンとアルフはもう放っておいて。ナユハとミリスと一緒に例の教会近くへ転移した私だった。
物陰に隠れながら教会の様子を監視する。
ちなみにミリス情報により今日ウィリス様が教会を訪れることは調査済みだ。
「リリアって意外と他人の恋愛沙汰が好きだよね」
「他人の心配より自分のことをどうにかしろって感じですけどね」
なんかもう、仲いいなナユハとミリス。
そしてミリスがだんだん毒舌になって言っている気がする。まさか、ナユハから悪影響を受けて……?
「リリアのせいだね」
「リリアのせいですね」
あなたたち実は双子だったりしませんか?
やはり将来的な肩身がどんどん狭まっている。そんな未来を見て見ぬふりをしながら視線はウィリス様とレイナさんを観察する。
声は聞こえないけど仲よさそう……あ、魔法で集音すればいいのか。
というわけで私はウィリス様たちのやり取りを集音し、ナユハやミリスにも聞こえるようにしたのだった。
『レイナ……聞いて欲しいことがあるんだ』
『え? どうしたんですウィリス様?』
何か言いにくそうにモジモジとするウィリス様。とても絵になる。さすがは乙女ゲームの攻略対象 (予定)である。
しかし、これはまさか、あれなのでは?
告白シーン!
いや~まさか美男美女ならぬ美少年美少女のリアル告白イベントを目の当たりにできるなんて! よっしゃいったれウィリス様! 私は君の味方だぞ!
「……やっぱり他人の恋愛沙汰が大好きだよね」
「リリアが味方になったらどうしようもない女たらしになってしまうのでは?」
ミリスって意外と毒舌なんですね……。
ウィリス様がレイナさんの手を取る。優しく、されど確かな意志を持って。
さぁ告白だ祝福の鐘を鳴らせ! と、私が期待に胸を躍らせていると――
――二人の真横に馬車が止まった。
次いで、馬車の中から複数の男たちが飛び出てくる。
男の一人がレイナさんを後ろ手に拘束し、他の男たちが剣やら杖やらを構えた。
私の周りにはチート魔力持ちの愛理やマリーがいるので忘れがちだけど、普通の魔術師は魔術行使の補助のために杖を使うものなのだ。
なんか見たことあるなぁと思ったら、アレだ。未来視したレイナさんの誘拐シーン。マジかー、私マジで未来視スキル所得しちゃったかー。
『貴様ら! レイナを離せ!』
ウィリス様が雷の魔法を発動させる。……けど、誘拐犯の魔術師が張った結界によって無効化されてしまう。
ウィリス様の腕前なら問題なく結界も貫けそうだけど、たぶんレイナさんを傷つけないよう手加減しちゃったのでしょう。
可愛い女の子をこれ以上怖がらせるのも気が引けるし、ここはヴィートリアン王国誘拐犯撃退数第一位の私が出張ってあげようかな。
「むしろ大陸一位じゃないのかなぁ。私がメイドになってからも何度か撃退しているし。多いときには週一だし」
「え~……、噂には聞いていましたけど、リリアってそんなに誘拐されかけているんですか? お祓いとか行きます?」
聖女がお祓いに行かなきゃいけないとか世も末すぎである。
私が突っ込んでいると、先ほどより遙かに大きな雷魔法が誘拐犯の結界を貫いた。
誘拐犯たちが痙攣しながら地面に倒れ伏す中、渦中のレイナさんだけが無事に立っている。レイナさんだけ外すとは、なんともまぁ、器用なことで。
『――はん、ざまぁないな』
誘拐犯を無力化した“青年”が馬車の屋根の上に建ち、冷たい目でウィリス様を見下ろす。
『誰だ貴様!?』
『……ジーク。平民なので名字はない。レイナの護衛をやっている』
『護衛だと!? なぜレイナに護衛など!?』
ウィリス様の疑問はもっともだ。ガングード公爵家の次期当主であるウィリス様ならともかく、(言い方は悪いけど)平民でありただの教会のシスターであるレイナさんに護衛が付くはずもない。
もしかしたらレイナさんは騙されているのかも。と、疑問に思うのが普通であり、だからこそウィリス様も警戒しているのだろう。
そんなウィリス様を嘲笑うかのようにジークと名乗った青年(なんか知らんけど超イケメン)が馬車の屋根から飛び降り、レイナさんの腰を優しく抱いた。
うわぁ、流れるような自然な動作でのボディタッチ。これは参考になくちゃ――じゃなかった。結婚前の乙女の腰を抱くだなんて不謹慎な!
「…………」
「…………」
あの、二人とも? 冷たい目で見つめてくるの止めてもらえません? せめて突っ込んでもらえません?
「……開き直ってから、もう……どうしようもないよね……」
「……さすがは女殺しの聖女と恐れられているだけのことはありますね……」
いや待ってミリス。そんな二つ名(?)は初耳なんですけど? 私がいつ女を殺したというのか……どうしてそうなった?
と、私たちがいつものやり取りをしている間にもレイナさんを取り巻くシリアス展開は続いているわけであり。
『レイナに護衛が付く理由、分からないのか? これだからお坊ちゃんは』
『なんだと?』
『分からないなら教えてやる。――次期公爵様が懸想する平民の女。これほど狙いやすく、利用価値のある女なんていないからな。敵対貴族や身代金目当ての連中からの魔の手が伸びるのも当然だろう? それを分かっているからこそお前の姉は俺を護衛として付けたんだよ』
『……お姉様が?』
愕然とするウィルス様をせせら笑いながらジーク青年がレイナさんを抱きしめる力をわずかの強めた。
『ま、これで分かっただろう? レイナの平穏な生活を願うなら、とっとと諦めることだ。……お前の隣にレイナの幸せはない』
『…………』
次期ガングード公であるウィリス様がレイナさん結婚するには『妾』という手段をとるしかない。愛する人の隣に別の女性がいる。正式な奥さんとして笑っている。貴族であるウィリス様にとっては『普通』でも、平民であるレイナさんにとっては……。
う~ん、修羅場。何という修羅場。なんだこれ乙女ゲームか? いつの間にレイナさんヒロインの乙女ゲームが始まったんだ?
「……なるほど、これが愛理のよく言っている『おとめげぇむ』か……」
いきなり始まった修羅場にナユハさんはドン引きして、
「……あれ? ジークさんをレイナさんの護衛として雇ったのが私ということは、ウィリスの恋敵を送り込んだのも私ってことになる? お、弟から敵視されるフラグが……断罪……追放……悪役令嬢……」
ミリスは地面に両手を突いてブツブツつぶやいていた。なるほどこれが乙女ゲームの修正力?
どうしてこうなった?
と、ミリスの代わりに嘆いてあげる私であった。
璃々愛
「平民の恋人を認めずに、弟の恋路を邪魔する姉……なんというか、悪役令嬢だね! 小説一本書けそう! 愛理に頼んでみようかな!」
オーちゃん
「気軽にプロに頼むな」
次回、11月10日更新予定です。




