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幼女ヒロインは女の子を攻略しました ……どうしてこうなった?  作者: 九條葉月
第八章 悪役令嬢とヒロインと 編

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閑話 短編二本

※短めの短編二本一緒投稿します。





 閑話 お茶会のあとで




 なんだか真面目な話をする雰囲気じゃなくなってしまったので。世界の終わり(スタンピード)対策の話し合いはまた後日ということになった。まぁ世界の終わり(スタンピード)発生は数年後のはずなのでそんなに慌てなくて大丈夫じゃないのかな。……たぶん。


 で、ミリス様とマリーが揃ってお花を摘みに行ってしまった際。


「――聖女様。本日はご足労戴き深謝申し上げます」


 老齢の執事さんから深々と頭を下げられてしまった。

 最初はミリス様がうちに来るって話だったんだけど、子爵家の屋敷に公爵令嬢を招くのは気が引けたので私がやって来た形だ。


「いえいえわたくしは子爵家の娘ですもの。こちらから出向くのは当たり前のことですわ」


「…………」


 私の謙遜を受けて執事さんがわずかに眉を動かした。“左目”を解放したままだったので『聖女様で宮廷伯で王太子殿下の婚約者が何を?』という呆れを読み取ってしまう私だった。わー、端から見ると私って結構偉い? 中身が結構アレですみません……。


 そのまま“左目”で見ていると執事さんは心の中で『いやそうではなくて』とセルフツッコミをしてから私に胡乱な目を向けてきた。


「先ほどお嬢様――ミリス様が涙を流されているように見受けられましたが……」


 おっと抱きしめたから見えないかな~と思ったけどそんなことはなかったみたいだね。ミリス様付きの執事としては気が気じゃないか。

 別に誤魔化すようなことでもないので素直に答えることにする。


「えぇ。誰にも認められず、誰にも褒められず。ずっと一人で頑張ってきたのです。まだ10歳なのですから泣いてしまうこともあるでしょう」


 あ、執事さんがちょっと不機嫌になった。『旦那様も奥様もお嬢様を認め、褒めていましたが?』と。


 たしかにガングード公や夫人はミリス様を褒めていたみたいだけどさぁ。それはあくまでドレスのデザインとか会社の成功に関してでしょう? ちゃんと『一人で世界の終わり(スタンピード)対策していて偉いなミリスは』と褒めてあげなきゃ心に響かないと思いますよ?


 いやまぁそんな褒め方ができるのは心が読める私くらいで、読めない執事さんからしてみれば『何も知らないくせに偉そうに』となっちゃうだろうけどね。なんてこったい。


「ミリス様の努力を理解していただけるとは……それが噂に名高い“左目”の力なのですか?」


 胡散臭い、という本音が透けて見えていた。“左目”のおかげで文字通り。


 あかん、執事さんからの好感度(?)が急降下している。いや男の人から嫌われようがどうでもいい気がするけれど、これから何かと関わりがあるだろうミリス様の執事だものなぁ。今からでも好感度(?)を上げる努力をしなくては……。


「えぇ、そうですね。名高いかどうかは知りませんけれど……」


 当たり障りのない返事をしながら、何か弱みを握る――じゃなかった、好感度の上がりそうなネタでもないかしらと執事さんを“左目”で視る私。


 と、ちょっと嫌なものが見えてしまった。


 ……ん~。

 どうしたものかなぁ。

 ちょちょいとやっても(・・・)いいし、うまくいけば好感度も上がるだろうけど、目に見えないものだから説得力がなぁ。

 それにこういうのは一度“痛い目”に遭わないと同じこと繰り返すだろうし……。


 …………。


 よし、ミリス様に任せよう!


 丸投げ (予定)の私を見て訝しげな目を深める執事さんであった。どうしてこうな――いや自業自得かな。









 閑話 ミリスとマリー(ミリス視点)




 転生者とはいえ記憶以外は凡百の人間ですので、生理現象は避けられません。

 具体的に言うとお手洗いに行きたくなってしまったのです。


 貴族のお茶会では数時間掛けて複数種のお茶を飲むのが普通ですし、単純に化粧直しをすることもあるため途中で席を立つことは失礼に当たりません。


「申し訳ありません。わたくし少々……」


 語尾を濁しながら席を立つとリリア様は快く見送ってくださいました。

 けれど――


「あら、わたくしもご一緒させてくださいませ」


 にこやかに笑いながらマリー様も席を立ちました。


 笑顔。


 先ほど怖い笑みを向けられた私としては警戒心しか抱けませんし、笑顔を浮かべているからといってそのまま『好意を抱いてくれている!』と考えてしまう善良な人間は貴族失格でしょう。


 何が怖いってマリー様は竜人で、ちょっと力加減を間違えたら私なんて『ぷちん』と潰されてしまうことです。


 しかし『え? あなたと一緒に行くのは嫌ですよ』なぁんて口にできるはずがないので一緒にお花を摘む(隠喩)ことになりました。


 マリー様はお手洗いの場所を知らないはずなので私が先導することになります。途中まではメイドに扮した護衛の方が同行していましたが、さすがにお手洗いの中にまでついてくるわけにはいかなかったのか室内では私とマリー様の二人きりとなりました。


 室内は二つの小部屋に別れていて、お手洗いは部屋の後ろ半分、手前半分は化粧直しなどをする場所となっています。公爵邸なので椅子まで備え付けられたかなり広く本格的なスペースです。


 前世の記憶持ちであるリリア様と接触したせいか、今までは気にしないようにしてきたことに意識が割かれてしまいます。具体的には上下水道って素晴らしいなぁとか、ウォッシュレットって偉大すぎる発明だよなぁ、とか。


(リリア様もいくつかユニークな発明をしていると耳に挟んでいますし、今度その辺も相談してみましょうか)


 そんなことを考えながら所用を終えると、マリー様は化粧直し用の椅子に腰掛けて私を待っていました。薄々感じていましたが目的は私と二人きりになることだったみたいです。


 マリー様の側まで移動すると彼女はゆっくりと立ち上がり、おもむろに指を鳴らしました。


 私の周囲で、何かが凍り付いていくような音がします。ぱりぱり、ぱりぱりと。壁を沿うように部屋全体に反響するこれは――結界の展開?


 おそらくは防音の結界。さきほどリリア様が張った結界と同じものでしょう。


 いやマリー様? ここは公爵邸で抗魔法の結界が張り巡らされていますからね? さも当然のように防音の結界を張るのは止めていただけませんか?


 私の驚きを理解したようにマリー様がわずかに目を細めました。


「ご安心を。わたくしは先ほどのお姉様の結界を参考にしただけですので。そうでなければ抗魔法の結界に阻まれて上手く展開することはできなかったでしょう」


 いやいやマリー様? 一度見ただけで結界を分析習得したんですか? そっちの方が難しくないですか? さ、さすがは『人間を遙かに超える魔術巧者』であるドラゴンの血を引く竜人ですね。


 というかその話が本当ですと、竜人の魔術展開すら妨害する抗魔法の結界を、リリア様は初見で破ったことになるんですけど……あ、わかりました。『深く考えたら負け』というものですね? リリア様に常識は通じない。リリア様に常識は通じない……。


 私が世界の真理を胸に刻み込んでいると、マリー様は教師のように人差し指を立てました。


「ミリス様であればご存じかもしれませんけれど、わたくし、近々王太子殿下 (リュース)の婚約者となる予定でして」


 マリー様のご実家、ヒュンスター侯爵家は私の父であるガングード公が率いる王権派(ガングード派)ですから、私もその噂は聞き及んでいます。


 マリー様が人差し指に次いで中指と薬指を立てました。


「現在我が国の貴族派閥は大きく分けて三つ。ガングード公率いる王権派と、大聖教が後ろ盾である聖教派、そしてレナード子爵家を中心とする中立派となっています」


 軍事力の王権派。

 宗教の聖教派。

 そして、経済の中立派。


 我が国の貴族令嬢であれば当然知っているべき情報です。それを改めて口にするのですから、これからの話の前振りなのでしょう。


 ちなみに子爵家であるレナード家が派閥の長になることはまずありえないのですが、実態は派閥と呼べるほど強固な集まりというわけではなく『レナード家(商会)から多くの資金援助を受けたorこれから受けたい貴族の集まり』という緩い集団を便宜上そう呼んでいるのです。


 別に政治信条などありませんし政局に関わることもないから中立派と呼ばれているだけ。ですが、王権派と政教派に所属していない貴族のほとんどが中立派に所属していると言っても過言ではない現状、もしもダクス・レナード子爵がその気になれば王国の政治バランスは一気に崩れることでしょう。


 ただでさえ圧倒的な資金力で他領の経済の首根っこを掴んでいたというのに、娘であるリリア様が王太子殿下の婚約者になり、聖女に選ばれたのです。その影響力は推して知るべしというもの。

 これでまだ最大派閥になっていないのですからレナード子爵は噂通り政治に興味のない人物なのでしょう。


「王族の子供が少なすぎる現状、王太子殿下の婚約者は複数人用意される予定です」


 前世の記憶的には『ハーレム野郎め! 爆発しろ!』という感じですが、さすがに王族の子供がリュース殿下だけであるのは少なすぎますから仕方のないことですね。


「政教派は元々国王陛下と対立することが多かった上、レイジス神官長の失脚で後ろ盾の大聖教が権力争いの真っ最中。婚約者をねじ込む余裕はないでしょう」


 なんだか凄いことになっているみたいです。マリー様はどこからそんな情報を仕入れてくるんですかね?


「わたくしが婚約者となれば王権派ガングード中立派レナードから一人ずつ王妃を出すことになりますけれど、そうなると新興である中立派の力が強くなりすぎてしまいます。王権派としては見過ごせませんし、権力争いをする気のない中立派としても王権派からもう一人か二人くらい妃が出た方が安心できるのです」


 まだ9歳で、前世の記憶もなさそうなのにこの知識と理解力。素直に感心するしかありません。マリー様のような子が未来の王妃になるのならこの国も安泰で――


「というわけでして。三人目の王妃筆頭候補はミリス様なのですわ」


「…………」


 どうしてそうなりますの?

 いえ分かります。マリー様の説明から『王権派筆頭であるガングード公の娘ミリス』が婚約者に丁度いいのは分かります。分かりますが……あえて言わせてください。どうしてそうなりますの?


 ヒロインであるリリア様が王太子殿下の婚約者となりましたし、私はもう選ばれないだろうと安心していたのに……。まかさこれが悪役令嬢ものによくある原作ゲームの修正力……?


「そこで、ですが。同じく王妃になるかもしれない者同士として、無意味な争いを避けるためにも前もって伝えておきたいことがありますの」


 マリー様がわざわざ腰を曲げ、下方から私の顔を覗き込んできました。

 紺碧の瞳。その瞳孔がまるで爬虫類のように縦に細長く狭まっています。


「――王太子殿下が誰を愛そうが、誰が国母になろうが、わたくしにはどうでもいいことなのです」


「……はい?」


「わたくしは、リリアお姉様がいればいい。リリアお姉様の側でナユハお姉様が笑っていればいい。お二人の幸せを見守りつつ、ときおりおこぼれ(・・・・)をいただいて……。王妃になることなど、そのための手段でしかないのです」


「…………」


「ですから、わたくしへの嫉妬は不要。牽制や妨害など必要ありませんし、どうぞ好きなだけ殿下と愛を育んでくださいませ」


「…………………」


 リリア様と、ナユハ様。

 いずれは王妃になられる御方と、王妃付きの護衛騎士となるだろう人。


 そんな二人の側にずっといようとしたら……確かに、二人目の王妃となることが道の一つとなります。


 ナユハ様はどうか分かりませんが、先ほどの態度からして、マリー様がリリア様を恋愛的な意味で慕っているのは間違いないのでしょう。それこそ愛人的な立場でも我慢できるほどに。

 つまり、リリア様への愛を貫くために王妃になると。


 理解できますが、理解できません。


 だって、そんなの、王太子殿下を利用することしか考えてないじゃないですか。貴族令嬢としてあり得ない不敬であることはもちろん、巻き込まれる殿下が可哀想すぎ――


「あ、殿下はもうご承知の上ですので」


 なにしてんですか殿下ぁー!?


 自分の妃になるリリア様と、自分の妃になるマリー様の百合を認めているんですか!? 許しているんですか!? 心が広すぎじゃないですか!? 器の大きさの使いどころ間違っていませんか!? どうしてそうなったぁ!?


「ちなみに殿下もリリアお姉様にべた惚れですので……えぇ、頑張ってくださいまし」


 ハーレムだ。

 男女混合ハーレムだ。

 まさか10歳で王太子殿下を含めたハーレムを築き上げるとは……。いえ悪役令嬢ものならよくある展開ですけれど……。これが正ヒロインの実力(?)ですか……。リリア様、恐ろしい子!


 いえリリア様は問答無用に美少女ですし、今までの功績もずば抜けていて、ほぼ初対面である私を抱きしめてくださるほど心優しい方なのですからモテるのも納得ですけどね。


 えぇ、私を優しく抱きしめてくださって……。


 先ほどの出来事を思い出して私が胸に温かいものを感じ取っていると、なぜだかマリー様がじっと見つめてきました。


「というお話をしたいと思い今回はお時間を割いていただいたわけですけれど。どうやら無駄だったようですわね」


「へ?」


 マリー様が貴族令嬢らしく扇で口元を隠しました。テンプレなら扇の下に嘲笑が浮かんでいる場面ですが、マリー様の目元はニヤニヤによによと緩んでいまして。


「さすがお姉様ですわ。抱きしめるだけで公爵令嬢を落としてしまわれるだなんて」


「はい?」


「リリアお姉様は器が広いですから嫁が一人や二人や十人くらい増えても問題はないでしょう。ただし、正妻はナユハお姉様。そこのところをはき違えますと『はーれむ』全員を敵に回しますのでお含みおきくださいませ」


「ちょっと?」


「しかし四大公爵家のうちキュテイン公爵家の娘(王妃エレナ)からは実の娘のように可愛がられ、ガングード公爵家の娘から愛を向けられるとは……さすがお姉様ですわ!」


「いやその『ガングード公爵家の娘』って私のことですよね? い、いったいいつ愛を向けたんですか私!?」


 思わずマリー様の肩を掴んでガクガク揺さぶってしまった私ですが、マリー様は怒るでもなく『えぇ、えぇ、分かっていますわよ照れているんですわよね』と言わんばかりに温かい目を向けてきました。


 ど、どうしてこうなったのでしょう?






 ……補足いたしますと。

 このときの私は『男女混合ハーレム』だと勘違いしていたのですが。後々リュース王太子殿下が実は『女の子』であると教えられ……ただの『女たらしが作った百合ハーレム』だったと知ることになるのでした。





 政局はともかく、ガングード公は無理やり婚約者を決めるつもりはないですし、ミリス様が希望すればデザイナーや会社経営者としての将来も許すつもりですが、ミリス様本人はまだ知りません。



 レナード家は王国の政治に圧倒的な影響力を持っていますが、もちろんリリアさんにそんな自覚はありません。


次回、8月8日更新予定です。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] リュースが女の子だと知った時のリアクションは見たかったな [一言] 実際の所、ミリスの進路はこれが最適解なんだよな
2022/08/03 08:11 チョーロー
[良い点] 貴重なツッコミ要員が増えますねw やったね! [一言] >後々リュース王太子殿下が実は『女の子』であると教えられ…… そりゃ…知らないよねw
[良い点] 慌てなくても大丈夫!というのはフラグの気がしますw しかし左目を開けっぱなしのリリアさんは珍しいですね。正直、普段も普通に左目を隠さずに居るならどんなヤバいフラグてもへし折れるでしょうw …
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