閑話 少し前のミリスさま(ミリス視点)
リリア・レナード様との衝撃的な出会いで色々と吹き飛びかけましたので。改めて私のやるべきことをおさらいすることにしました。
1,世界の終わりの起点となるダンジョンを探す。できれば内部調査。
2,義弟であるウィリス様と仲良くなる。
3,リリア・レナード様に関する情報収集。
ダンジョン捜索はまずお父様から冒険者ギルドにいく許可を戴かないとですね。今度お父様にお時間を割いていただいて(忙しいときは数日帰ってこないということもザラなのです)お話ししてみましょう。
ウィリス様との信頼関係は数年掛けて築き上げるべきものですから焦っても仕方ありません。とにかく虐めないように、虐めと取られるような言動はしないよう注意しましょう。
リリア・レナード様に関する情報収集ですが……えぇ、彼女、ほぼ確実に転生者ですよね。ゲームの名前まで出ていましたし。万が一ゲーム未プレイでも、あの“笹倉愛理”さんが側にいるのですから、ゲームに関しての詳細な情報は得ているはずです。
リリア・レナード様が『良いヒロイン』なのか、それとも『悪いヒロイン』なのか。判断するためにも直接お話を……するには、まだ仕込みが足りていませんのでお茶会や夜会でそれとなく話題に出し、情報収集することにしましょう。
決意を新たにした私は硬く拳を握りました。とうとう“ヒロイン”と接触してしまったのです。気合いを入れていきましょう!
◇
気合いを入れたのはいいものの。
あのあとは王城が黒いドラゴンに襲われて半壊したり、リリア・レナード様が聖女に選ばれたり、王太子殿下の婚約者になられたりと激しく事態が動いてしまいました。
原作ゲームでも、ファンディスクでも、『リリア・レナード』が10歳の誕生日に王太子殿下の婚約者になるなんて展開はありませんでした。これは制作者として断言できます。
リリア・レナード様はヒロインとなり。
であるならば、きっと、私は悪役令嬢となったのでしょう。
…………。
不幸中の幸いは、私が王太子殿下の婚約者にならなかったことで、私がリリア・レナード様を虐める理由がなくなったことでしょうか? 元々は『婚約者の王太子に寄ってくる子爵家令嬢を排除する!』という理由で虐めるのですし。
いえ『下級貴族の娘が婚約者などと認めません!』という展開はあり得ますけれど、それは私が気をつければいいだけで。
破滅回避という意味では、殿下の婚約者にならなかった現状はきっといいものなのでしょう。
…………。
ここ最近、お茶会や夜会はリリア・レナード様に関する話で持ちきりになっています。もちろん次期王妃様に関する情報収集の意味も多分に含まれてはいますが、それを抜きにしてもリリア・レナード様は偉大な足跡を残されていますから。
特に話題となっているのが王太子殿下を『漆黒』の魔の手から救い出した活躍と、……王国に対して多額の寄付をしてくださったことです。
なんでもレナード家所有の鉱山からアンティークの金貨を発掘、それらをすべて王国に寄付してくださったのだとか。
リリア・レナード様が埋蔵金を掘り当てたという噂話は前々からありましたけれど、正式な寄付によって事実だったと確認された形ですね。
彼女こそ真の忠臣だ、とか。国家を救う英雄だ、とか。リリア様は次期王妃として多くの上級貴族から好意的に受け入れられているようです。
……まぁ、ときには『商売で卑しく稼いでいるのだからもっと寄付すればいいのに』という感じの批判も聞こえてきますけれど、無視していいほどに小さな声でしょう。
その『小さな声』のうち一人はレナード家から借金を重ね、屋敷まで担保にしているという噂なのでただの嫉妬でしょうね。
そして寄付された金貨は陛下を通じて我がガングード家へと渡り、最近とみに増えている魔物対策に当てられるようです。
普段は公爵らしく自分を律しているお父様が上機嫌さを隠しきれていないのですから、私が想像するより遙かに大きな金貨が動いたのでしょう。
…………。
前世を思い出してから、もうすぐ4年。
運命を変えようと必死にやってきました。ドレスをデザインし、デザイナーの方々と折衝を重ね、売り込みのため恥ずかしさを押し殺して自分のドレスを着込んでお茶会に参加したことも一度や二度ではありません。
宝飾品もデザインしました。
より多くのお金を稼ぐために会社も設立しました。前世の苦い記憶にフタをしながら営業をすることもありました。
石鹸を開発し。悪役令嬢小説を書き。魔物の素材を活用した筆の生産にも手を伸ばして……。すべては世界の終わりに備えるためでした。ガングード領の砦を強化したり、補修したり、命を賭けて戦ってくださっている騎士様や領兵、冒険者の方々に十分な報酬を支払うためでした。
私が4年掛けて稼いだお金はいまだお父様に受け取ってもらえず。たとえ受け取っていただけたとしても、お父様をあそこまで上機嫌にできるほどの金額ではありません。リリア様が一度で発掘した金貨の足元にも及ばないはずです。
…………。
悔しくないといえば嘘になります。
これまでの努力は何だったのかと、無常観がないと言えば嘘になります。
しかし、
私の心は不思議と穏やかでした。
あぁ、やはり。
やはり、私は平々凡々とした人間であり。
真の主人公になれるはずもなく。
悪役令嬢という役ですらきっと力不足であり。
たとえるならば、太陽と月。
光り輝く太陽はリリア様。その輝きは見る者の希望となり、その“力”で多くの人々を救ってくださるのでしょう。
そして、そんな太陽のおこぼれをもらってやっと存在を証明できるのが月。それが私。リリア様がいなくなれば世界は混沌に支配されるでしょうが、私がいなくなっても、世界は別の『悪役令嬢』を選ぶことでしょう。
私などいなくても……。
(……私がいなくても、大丈夫)
たとえここが乙女ゲームの世界でも。悲劇の約束された世界でも。リリア様がいれば何とかなるでしょう。彼女こそがきっとこの世界の中心(主人公)なのですから。
私がいなくても、大丈夫。
もしも世界の終わりが起こっても、リリア様に任せれば最悪の事態は回避できるはずです。
だから……。
(――やりましょう)
たとえ失敗しても、大丈夫。
私が失敗しても、リリア様がいる。
真なるヒロインが、救世主がいるのなら。紛いもののヒロインにすらなれない私が命を惜しむ必要もありません。
多少の危険を冒してでも。世界の終わりの起点となるダンジョンの調査を行いましょう。
リリア様がいれば最悪は回避できますが、それでも、世界の終わりが発生すれば少なくない犠牲が出てしまうのですから。
少しでも犠牲を減らすために。
世界の終わりを発生させないために。
私は、私のできることを。
より多くの人を救うために。
ゲームでは失われてしまう命を守るために。
私は、やらなければなりません。
決意を新たにした私はお父様にお願いしました。冒険者向けの装備を開発するためギルドを訪れてみたいと。
王城をドラゴンが襲撃し、後始末に追われて多忙であることは分かっていましたが、私ももう待っていることなどできなかったのです。
お父様の反応は芳しいものではありませんでしたが、私も引くわけにはいきません。何度か折衝を重ねた結果、『護衛を準備するから、少し待ちなさい』というお言葉を戴きました。
いざとなれば屋敷を抜け出して――と考えていましたので、護衛付きとはいえ正式な許可が出たことは喜ばしいことでしょう。
……私の様子からして、断ったら屋敷を抜け出しかねないと思われた可能性もありますけれども。
とにかく、もうすぐ第一歩を踏み出せます。
天は自ら助くる者を助く。
努力しないで結果だけを求めても、天が微笑んでくれることはないのですから、粉骨砕身の覚悟を持って事に当たらなければなりませんね。
璃々愛
「……もしや、ミリスちゃんってナユハちゃん並の厄介さなのでは?(オブラートに包んだ表現)」
オーちゃん
「いや包みきれてないから。ものすっごくストレートな表現だからそれ」
次回、6月29日更新予定です。




