第二話 女王様ルート?
死ぬかと思った。
マジ死ぬかと思った。
「生きてることにビックリだよ私は」
ナユハさんのこの発言は「訳:私信じてたよ! リリアなら生きて帰ってくるって!」となります。まったくナユハたんはツンデレだな~素直じゃないな~。
「どうしてそうなるのかな?」
本日何度目かも分からない呆れられだった。
それはともかくとして。邸宅内に招き入れられた私たちはさっそく本題をマリア様から聞かされた。
「ヒュンスター家当主として、正式にマリーを王太子殿下の婚約者として推挙することになったわ。陛下にも事前に話は通してあるので、ほぼ決まりよね」
……。
…………。
………………ほう?
マリーをリュースの婚約者に?
ほぅほぅ?
なるほど?
つまり?
――私から、マリーを奪おうと?
「じゃ、邪神並みの殺気を飛ばすのは止めてくれないかしら義娘!?」
キラース様(マリー父)の背中に隠れるマリア様だった。こんなにもラブリーでチャーミーなヒロイン役を捕まえて邪神扱いとは失礼な。
「……いや邪神扱いもしょうがないというか……」
「わたくし、お姉様からこんなにも愛されていましたのね!」
少し後ずさるナユハと、腰をくねらせるマリーだった。私何もしてないのに……解せぬ。
解せぬと言えばマリア様の発言だ。一応、私とマリーって親公認じゃなかったでしたっけ?
「ぴっ!? だ、だから殺気はやめて!? む、実娘! あなたなら真意が分かるでしょう!?」
ビシィっとマリア様に指差されたマリーは顎に手を当てて数秒悩み、キラリーンと目を輝かせた。
「……なるほど、つまり、殿下との婚約はあくまで建前で、わたくしとお姉様がずっと一緒にいられるようにするためですのね?」
うん?
どゆこと?
私が首をかしげているとキラース様が一歩前に出た。追加で説明してくださるみたい。
ちなみにキラース様は私の『邪神並みの殺気(?)』を受けても平然としている。マリア様は涙目なのに。さすがは勇者パーティの斥候を勤め上げられた御方だ。
他の方々に比べれば地味で知名度も低いけれど、(お爺さまたちに比べると)遙かに劣る戦闘能力で最前線を駆け抜けた胆力は並じゃないってことか。別名、命知らず。
「ナユハ嬢は騎士爵であり、専属メイドでもあり、リリア様の護衛として成婚後も一緒にいることができますが……マリーはこれでも侯爵令嬢ですからね。リリア様が王妃になられた後は、なかなか同じ時間を過ごすことができないのですよ」
侯爵家の女としていずれは結婚しなきゃいけないし、頻繁に王城に通っていてはリュースとの浮気を疑われてしまうということかな? そうなると余計な醜聞が立ってしまう上に、結婚相手の家との関係も悪化するし、「自分の娘も!」と行動する連中が出てくるかもしれない。
ならばいっそリュースの側妃にしてしまえと。
そうすればマリーは他の人と結婚しなくてもいいし、リュースもマリーに手を出したりはしないから安心だ。王宮という閉ざされた空間で、表向きは側妃として働かせながら私とイチャイチャさせようと。
うん、私としては問題なさそうだけど……ダシに使われるリュース、かわいそすぎである。将来この国で一番偉くなる子なのに。
「……表向きはそうだけど、実質的に一番偉くなるのは義娘じゃないかしら? なにせ聖女で、金の瞳を持っているのだから」
途方もない放言をするマリア様だった。いくらなんでもありえなくないですか? 私、ただの子爵家の娘ですよ?
まったくマリア様は冗談が下手だな~と私が苦笑していると、なぜかナユハとマリーは呆れ顔。
「……駄目だこの子自覚がなさ過ぎる。リュース様に何かあったら、自分が『女王』にされかねないのに」
はい?
「……もしかして、自分が王位継承権持ちと気づいていないのでしょうか?」
え? 私って継承権持ってるの? おばあ様は何も言わなかったけど?
「そりゃあリース様はリリアを王妃にする気満々だし。王様にするつもりはないのだから教えないんじゃないのかな。それに『巫国』の頃はともかく、ヴィートリアン王国では女王なんてほとんどいなかったし」
そ、そうそう。女王なんてよほどのことがなければ生まれないのが我が国じゃないか。
私に同意するようにマリーが頷く。
「そうですわね。女性が政治参加するのはいかがなものかという風潮はありますものね。かの有名な『氷の宰相妃』も、女性じゃなくて神様の使いなのではと本気で信じている人がいるほどですし」
うんうんそうそう。
「でも、『巫国』の初代国王はスクナ様だし、ヴィートリアン王国の初代国王も女性だもの。本来は何の問題もないんだよね」
うん?
「リース様は紛れもない王族ですし、他の国はともかく、建国神スクナ様が初代国王(女王)となられた『巫国』を祖とする我が国は女性も継承権を持っています。リース様や王弟殿下方を含めましても、お姉様は十位以内に入るでしょうし……『銀髪金目』を考慮に入れればリュース様の次くらいになるかと」
いや高くない? 思ったより高かったんですけど? そもそもおばあ様は臣籍降下してお爺さまと結婚し、子爵夫人になったのだから継承権はない=孫である私にも継承権はないのでは?
「本来ならそうですけれど、例の事件のせいでリュース様――ごほん、王太子殿下以外の後継ぎがお隠れになりましたもの。特例としてリース様他、臣籍降下された方々の継承権も復活していますわ。当然ながらお姉様も」
マジで?
「他にも元々王族であられた公爵家の方々にも一応は継承権がありますが……やはり王家から離れて時間が経っていますものね。『血の濃さ』を考えればお姉様は上位になってしまうのですわ」
つまり。
あれですか?
私、
王妃ルートどころか女王様ルートもあり得ると?
なんだそれ。
絶対面倒くさいやん。
乙女ゲームのシナリオよ、どこ行った?
『自分で破壊したくせにねー』
『しっちゃかめっちゃかにしたくせにねー』
『たまには予定通りにいかないこっちの身にもなってみろー』
妖精さんが『ざまぁ』とばかりに私の周りを舞い踊っていた。
ど、どうしてこうなった……?
◇
後日。
リュースにマリーが(表向きの)婚約者になりそうだと説明すると。
「……まぁ、いいと思うよ? マリー嬢がリリアの側にいるなら、それが一番確実な方法だろうからね」
おぉ、自分がダシに使われているのに何と寛大な。さすが私の夫(予定)である。……今さらながらリュースが『夫』って違和感あるなぁ。私にとって初対面の時から女の子だし。もう嫁ということでいいのでは?
『うむうむ! その寛大な心! やはりあの阿呆 (父親)とはひと味違うようだな!』
嬉しそうにぷかぷかと浮いているミヤ様だった。いつ来たの、とか、どこから聞いていたんですか、とか。そういうツッコミは意味がない。なにせ王宮で起こっていることはすべて把握できるそうなので。
「ただ、一つ言いたいことがあるのだけど」
と、リュースは珍しく不満げな顔をした。彼女って基本的に『王太子』として自分を律しているのでワガママを言うことが珍しかったりするのだ。
ふっふっふっ、いいでしょう! たまにはリュースちゃんのワガママをお姉さん(誕生日がちょっと早い)が聞いてあげようじゃないですか!
「ナユハやマリーたちがリリアと同衾しているのを止めるつもりはないよ。ただ、私とは一度もやっていないのは不公平だと思うんだ」
ふっふっふっ、お姉さん急用を思い出したので帰りますね!
椅子から立ち上がろうとした私の肩をガッシリと押さえ込むミヤ様。おのれミヤ様ー。裏切ったなー。
『よく考えたらわらわも同衾したことがないな。さすがに婚前交渉は『はれんち』ではあるが、一緒に寝るくらいなら問題はあるまい! 女性同士であるしな! 皇女と同衾できる栄誉をその身に刻み込むがよい!』
はいミヤ様もbed in する気満々ですね。やったー超絶美少女&美女で両手に華だー。現役王太子&竜列国皇女というおまけ付き! しかもここは王宮! 人の目がいっぱい! えっちなのはいけないと思います!
どうしてこうなった?
ちなみに婚約はマリー本人に相談無しで決められました。貴族なのでしょうがないですね。
次回、6月17日更新予定です。




