13.再会
13.再会
『――リリアちゃんは聖女。いやむしろ天使。今日の鼻血は私の萌え心の爆発だったのです』
リッチを滅し、愛理さんを救った日の夜。
夢の中で私の前世・璃々愛がそんな世迷い言をほざいていた。あの鼻血は間違いなく愛理さんとの衝突が原因なのだけど……。
……全体的に薄暗く、足下には霧が巻いている謎空間の中。私は気付いたら一人の美人と相対していた。
漆黒の髪は艶やかに腰まで伸び。
白磁のような柔肌に一切の汚れはない。
顔のパーツは呆れるほど見事な黄金比で。
唇は紅牡丹のように華やいでいた。
左目には私と同じく眼帯をしているが、それすらも彼女の美しさを引き立てる一助となっている。
圧倒的な美人。欠点がなさ過ぎて恐ろしさすら感じられる。その美しさは神さまだと紹介されても信じてしまいそうなほど。
綺麗さだけならおばあ様にも匹敵するのでは?
これで彼氏がいなかったとか信じられないのだけど……。よく考えてみたら趣味が合いそうなオタクさんは美人過ぎて近づけないだろうし、女慣れしている人は中二病的な言動からして敬遠するだろう。
(そう考えると彼氏いない歴=年齢にも納得だよ璃々愛)
『あ~、今ちょっと失礼なこと考えたでしょ? ふふ~ん、分かる、分かるよ。なにせ私はリリアちゃんのファン一号なのだからね!』
仮面な一号ライダーの変身ポーズを取りながら宣言する璃々愛。せっかくの美貌が台無しである。
残念美人。言葉では知っていたけど実物は本当に残念な気持ちになるね……。
「あ、はぁ……」
呆れ半分で気の抜けた返事をすると璃々愛はなぜか身悶え始めた。
『あ、いい。その冷たい目最高。我々の業界ではご褒美です。天真爛漫なリリアちゃんも大好きだけどやっぱりクール系も捨てがたいなぁ!』
「……うわぁ」
どん引きである。見た目だけなら『黒髪の女神』なのに口を開けばこれである。ほんとに残念美人という感想しか浮かんでこないよ……。
私がさらに視線の温度を下げると、何が楽しいのか璃々愛はごろごろと床(?)の上を転がっていた。蹴り飛ばしていいだろうか?
璃々愛は体感5分ぐらいたっぷりと床を転がり回り――
『――さて。冗談はここまでにしておいて』
咳払い後に身を起こして正座の体勢となった。
途端、空気が変わった。
どうしようもない変態から、神々しさすら感じさせる淑女へと。
(なるほど、これなら主神の生まれ変わりでもおかしくはない)
さすがは名門武家のお嬢様。中身が中二病でなければ完璧なレディだ。
そんな璃々愛は三つ指をついて私に深々と頭を下げてきた。
『――リリア・レナード様。この度は貴殿のご助力を賜りましたお蔭で、無事に親友を救い出すことができました。誠にお礼の申し上げようもございません』
「あ、いえ、どういたしまして?」
さっきまでのハイテンション・アホーな璃々愛を見ていた私としては、急に礼儀正しくお礼を言われても戸惑うことしかできない。
顔を上げた璃々愛はそんな私を満足げに見つめ、立ち上がってから嬉しそうに私の両手を掴んだ。
『リリアちゃんにはお世話になったから、お礼をしなくちゃね』
「お礼?」
握られた手の中に、何かを掴まされた感覚がする。紙片、だろうか?
『うん、お礼。この情報はきっとリリアちゃんの力になるよ。本当はリリアちゃんの“左目”なら私が教える必要もないんだけど、まだ力を使いこなせていないみたいだから。おねーさんがちょっと協力してあげましょう』
聖母のように微笑んでから璃々愛は私の手を離し、そして――
『――あなたに、力を』
ネタに走っていた。お前はどこの天然ニュータイプだ。思わず『月は出ているか?』と返さなかった私、偉い。
そういえば私のこの知識って元々は璃々愛のもの。彼女がガチのどうしようもない手遅れ廃オタクであるのは自明の理であるのか。
「……璃々愛って、もう少し真面目な空気を持続させられないの?」
『え? 無理無理。私が愛理から付けられたあだ名知ってるでしょう? その名もずばり“末期へ至りし中二病”よ? むしろシリアスな空気は進んで破壊しちゃうわよね!』
「ダメだこいつ手遅れだ」
源平の時代から続く武の名門の娘さんがこれってどうなのさ?
私が呆れかえっていると璃々愛は気安い態度で私の肩を叩いてきた。これは、アレだ。同類を見る目をしている。
『いやぁ、リリアちゃんも中々だったよ? あんなにも重い過去がありそうなリッチを自分語りさせずに退場させちゃうし、そのうえ愛理を救った手段が鼻血とか! ……ぷっ、くふふ、君こそ“末期へ至りし中二病”の名を受け継ぐにふさわしい存在だ!』
「やめて、マジやめて。何そのださいネーミング。いくら私が中二病でも許容範囲から飛び出ているよ?」
『残念ながら手遅れです。すでに“世界樹の智慧”は更新されました!』
「やめて!」
◇
「――どうしてこうなった!?」
叫びながら私は飛び起きた。ちなみに世界樹の智慧とはこの世界のすべての情報が書き込まれるという前世的に言うとアカシックレコードみたいな以下略。
嫌な寝汗に不快感を抱きながら私はベッドから起き上がった。見慣れた天井に、内装。謎空間から無事自分の部屋に戻って来られたみたい。
「…………?」
無意識のうちに握っていた右手を開くと、この世界ではありえないほど上質な紙が折りたたまれていた。前世の言葉で表現するならA4上質紙。
「お礼、力になる、か。璃々愛の言葉は信用できるのかどうか……」
あのハイテンション・アホーの言うことだからなぁと私は期待一割の警戒九割で紙を開いた。二枚。一枚はGo○gleっぽいマップが印刷されていて、もう一枚には文字がびっしり書き込まれていた。
とりあえず地図の上に書かれた文字を読んでみる。
「日本語だよ。気が利かないなぁ。頭の中で翻訳しなくちゃいけないのに……。ええっと、なになに? 『異世界の徳川埋蔵金!? レナード鉱山に前王朝の秘宝を見た!』だって……?」
なんだこの胡散臭いテレビ番組みたいな文章は?
地図の上には赤い『×』が記されていて、順当に考えればこの場所に秘宝とやらが眠っているのだろう。
(うちの鉱山かぁ。ちょっと気になるし、探してみようかな? レナード鉱山ならナユハに会えるし、屋敷の解体は無期限で延期になっちゃったものね)
なんでもあのリッチは本気で王国転覆を狙っていたらしく、かなりヤバめの魔導具やら呪術書やらが見つかったらしいのだ。で、魔導師団や教会が詳しく調査するために隣の空き屋敷は一時的に王国が接収してしまったと。だから銭湯建設の予定を延期してナユハに会いに行っても何の問題もない。
とりあえず鉱山の責任者はまだお爺さまだから、一応報告してから向かおうかな?
ちなみにもう一枚には“ポーション”の作り方が記載されていた。異世界転生ものではおなじみだね。
◇
『もちろん私もついて行くよ! なにせ私はリリアちゃんの使い魔――じゃなくて侍女だものね! あと噂のナユハちゃんにも会ってみたいし!』
お爺さまに許可を取ったあと(リッチ事件の後始末で忙しかったらしく会えるまで三日もかかってしまった)、さっそく小旅行の準備をしていると愛理が自慢げに胸を叩いた。
愛理とじっくり話し合い、この世界でやりたいことが見つかるまでは私の使い魔でいるということで話はまとまった。まぁ、幽霊とはいえ美少女を使い魔と呼ぶのはアレなので侍女という扱いにしてもらったけど。
というわけなので今の愛理(さん付けは悲しそうな顔をするので止めた)はレナード家仕様のメイド服を着用している。この世界の幽霊は触れるからね、メイド服も着られるのだ。
もちろんメイド服はロングスカートだともさ。フレンチメイドは認めない。メイドさんの魅力の二十割はふわりとなびくスカートにある。
ふわふわ浮いている幽霊が侍女、しかも愛理は不吉とされる黒髪黒目なのでかなり悪目立ちする。が、元々私ってば銀髪赤目(&眼帯)で過剰に注目を集めちゃう人間だし別にいいやと開き直ることにした。
「愛理も来るの? じゃあ馬車での旅になるのかな? 転移魔法で移動しようと思ったけど、私はまだ一人でしか転移魔法できないし」
おばあ様なら数人一緒にできるのだけど、と私が自らの未熟さを嘆いていると愛理が親指を立てた。
『あ、大丈夫。なんか知らないけど私ってリリアちゃんのいるところにテレポート? できるみたいだから。契約したおかげかな?』
「何それ便利」
『昨日なんてマグロを食べに海まで行ったのに一瞬で戻って来れたもん』
一番近くの海でもたぶん馬車で半月はかかると思う。戻るのは一瞬だとしても、むしろどうやって行ったのだろうか? あのリッチ事件からまだ三日しか経っていないのに。
まぁ異世界の幽霊相手に常識でものを考えても無駄かな。
「前世の記憶持ちとしては羨ましいなぁ。というかこの世界にマグロっているの? 食べられているの?」
『マグロはいたけど市場にはなかったから素潜りで取ってきた!』
「何この幽霊アグレッシブすぎる!」
『やっぱり醤油がないとイマイチだね!』
「素潜りする前に気づこうよ!」
おかしい、なぜ私がツッコミ役になっているのだろう? 自分で言うのも何だけど私って天真爛漫で非常識でボケ役のはずなのに……。
というか璃々愛もそうだけど前世組のキャラが濃すぎるんだよなぁ。こんな人間が一億人以上いるとか……日本、恐ろしい国だ……。
とりあえず、お父様にこの子の相手をさせてはいけない。胃が殺されてしまう。固く誓った私であった。
◇
「――到着~!」
『どんどんぱふぱふー!』
私が採石場に着くと同時、隣に愛理が『にゅっ』と現れた。ほんとにテレポートできるんだね。
それはともかく、これからナユハに会えると思うとテンション爆上がりな私である。
「さぁやって参りました採石場! 正確に言えば作業員の宿舎前! 時刻は朝焼け、ナユハもまだ寝ている時間でしょう!」
『寝起きドッキリ!』
「早朝バズーカ!」
『「いえーい!」』
ハイテンションにハイタッチする私と愛理であった。前世日本の知識がある人が隣にいるとネタが通じてやりやすいね!
「……お二人方。朝っぱらからうるさいですよ」
後ろからナユハに声をかけられた。ナユハったら早起きだねー……、というか久しぶりの再会なのにものすっごく呆れられている気がする。
しかしこの程度でめげる私ではない!
「やぁナユハ今日も変わらずの美少女だね。朝焼けに輝く黒髪はもはや世界の至宝と言っても過言ではないよ。黒真珠のような瞳に私だけが写されている喜びをどうやって表現したらいいだろうか」
「……おはようございます、リリア様。リリア様も変わらずの女たらしであるようで安心しました」
「たらしたことなんてないよ!?」
「失礼、自覚がありませんでしたか。天然だとしたら手遅れですね」
あっれーナユハさんが毒舌だぞ? 確かにピリリとした毒はときどき吐いていたと思うけど……。『男子、三日会わざれば油断するな死ぬぞ!』とはよく言うが美少女にも当てはまるのかな?
まぁ、でも、
「毒舌なナユハちゃんもかーわいいねー! なになに? 私にとうとう心許してくれちゃった!?」
私が破顔しながらそう尋ねると、ナユハはわずかに小首をかしげた。
「えぇ、“友達”ですから少しばかりそれらしく振る舞えるように努力したのですが……どうでしょうか?」
顔は一見すると無表情。
だが、その眉が少しばかり不安げに下がっていることを私は見逃さなかった!
「クーデレだー! 璃々愛の気持ちが分かった! クーデレ最高だ!」
ノータイムで抱きついてしまった私に罪はない。悪いのは可愛すぎるナユハちゃんだ!
そして私が璃々愛の生まれ変わりだということにも納得するしかなかった。璃々愛の私に対する言動と、私がナユハに向ける言動がそっくりなんだもの。
でもしょうがない。
なぜならナユハは可愛いのだから!
……これだけ騒いでおいて何だけど、私に百合な趣味はない。断じてない。……と、思う。最近ちょっと自信なくなってきたけれど。
ちなみに。『ボク☆オト』の移植版の追加シナリオでヒロイン×悪役令嬢の百合ルートが実装されていた(そしてそこそこ好評だった)ので、ゲームの設定的には女の子もいける気がするけれど――うん、たぶん気のせいだ。
私が前世の記憶からの戦略的撤退を決意していると、ナユハの視線が私の背後、ぷかぷかと浮いている愛理へと移動した。
「リリア様、そちらの方は?」
ナユハの問いかけとほぼ同時、愛理が私とナユハを引きはがした。そのままナユハににっこりと笑いかける。
『はじめまして。リリアちゃんの前世からの親友、笹倉愛理です』
おや? 周りの気温が数度下がった気がするぞ?
対するナユハもにっこりとした笑顔を浮かべた。
「……そうですか。お初にお目にかかります愛理様。前世など関係なくリリア様に友達として認めていただいたナユハでございます。以後、お見知りおきのほどを」
間違いなく気温が下がったぞ? あれーナユハと愛理って水魔法を応用した氷結系統の魔法が使えたんだねぇアハハハハ。
……どうしてこうなった?
◇
愛理とナユハは幾度か火花を散らしたあと固い握手を交わしていた。どっとはらい。ということにして当初の目的を果たすことにする。
「ん~、この辺かな?」
私はナユハと愛理を引き連れて鉱山の端、採掘され尽くして廃棄された区画にやって来た。璃々愛からもらった地図によるとこの真下あたりに秘宝が眠っているらしい。
ちなみにナユハはお爺さまから『またリリアが来たら仕事よりも付き添いを優先するように』と厳命されているらしく侍女のように付き従っている。むしろレナード家から正式に認められた愛理よりも様になっていた。メイド服でないのが不自然に感じるほどに。
まぁ元々貴族だものね。立ち振る舞いは美しいし、それがメイドという職種にぴったりハマっているのかもしれない。
(メイド服……ナユハ……うん、いいかもしれない)
頭の中で欲望を爆発させながら表向き真面目な顔をする私である。
「穴掘りしなきゃいけないけど、どうするかなぁ? さすがに作業員の人に協力してもらうわけにはいかないし」
私はレナード家のお嬢様だから命令すれば穴掘りもしてくれるだろうが、お仕事の邪魔をしちゃいけないよね。
あ、本当に秘宝が埋まっているかどうかの確認なんかしないよ? 左目を使えば視えるはずだけど、最初から結果が分かってしまったらつまらないもの。浪漫は大切にしないとね。
「リリア様の土属性魔法なら穴も簡単に掘れるのでは?」
「私って力の微調整が苦手だからさ~。埋まってる秘宝を押しつぶしたり壊したりしちゃうかもしれないんだよね」
その名もスキル“未熟なるもの”だ。
「……あぁ」
納得したように深く首肯するナユハちゃん。短い付き合いの中でも私のやらかしを目撃してきたものね。説得力抜群だ。
「パワーショベルでもあれば話は早いんだけど、あるわけないしねぇ」
「ぱわーしょべる?」
「パワーショベルっていうのはねー」
私が身振り手振りを交えて建機の説明をしていると、愛理がにゅっと顔を割り込ませてきた。頭上からいきなり人の顔が現れるのは凄くビックリするね。
『ゲームみたいにゴーレムを錬成して穴を掘ってもらうのは?』
「あ、その手があったか」
ソシャゲ版の戦闘アイテムにゴーレムがあったのだ。コストはかかるけど自キャラを消耗させないで戦えるので広く使われていた。
うまい助言をした愛理はドヤ顔で私――じゃなくてナユハを見た。カチン、という音がナユハから聞こえたのは気のせいだと信じたい。
「……リリア様。差し出がましいですが私の稟質魔法であれば掘った岩の運搬等でお役に立てるかと」
きらりーんと目を輝かせたナユハ。ぐぬぬと唸る愛理。
この二人、実は仲がいいのではないだろうか? 対抗はしても嫌味とか批判は口にしないし。
「ま、いいや。とりあえず基本パーツはこの辺にたくさんある岩を使って、関節部分は砂で流動的に――」
頭の中で設計図を作り、後は膨大な魔力で無理やり形にする。
「――錬成! 命なき巨人!」
フルでメタルなアルケミストのように胸の前で両手を叩く。直後、周囲の岩が踊るように飛び跳ね、組み合わさって体長10メートルほどの巨人となった。ちょっと大きすぎたかな? とは思うけど、まぁ他に人もいないのでいいことにする。
しかし、顔がないのでペプ○マンみたいだね。岩を使った割に表面は滑らかだし。とりあえず自律で穴掘りができるよう術式を組んでみよう。
「さ、さすがです!」
『やっぱりリリアちゃんは凄いね!』
プログラムを組んでいる間、黒髪美少女二人が目を輝かせていた。ふふ~んと即座に調子に乗ってしまう私。ここはもっといいところを見せないとね!
「――さぁゆけ! ゴーレムよ! 前王朝の秘宝を白日の下にさらすのだ!」
ウォオオオォン! という駆動音(?)を上げながらゴーレムが岩を引っぺがし砂を掻き上げ垂直に穴を掘っていく。
「おー、凄い。前世の建機より早いんじゃないの?」
岩や砂塵が飛んできても平気なように私と二人の周りを結界で囲いつつ自画自賛。やっぱり私は天才だね!
……このときの私は気づくべきだった。
あんな勢いで掘り進めたら、地面の下に何かがあったら壊れちゃうんじゃないかと。壊れないにしてもかなりの衝撃を与えちゃうんじゃないのかと。
愛理とナユハから褒められて調子に乗っていたんだね。
地面を掘り進めて二分ほど経っただろうか。
ゴーレムの指先から『ガリッ!』という鈍い音がした。
しかしゴーレムは止まらず掘削作業を進め、いやぁな音が鉱山に連続してこだまする。
「ちょ、ちょっとストップ! 何か見つけたのならゆっくり丁寧に!」
やっぱり急造のプログラムじゃ応用が利かないかぁと私がため息をついていると――
――突如。
地面が揺れた。
ゲームの世界である影響か、あるいは地盤的な問題か、この世界には地震なんてほとんど起きないというのに。前世の感覚的に震度3程度の揺れが鉱山を襲ったのだ。
「――――っ!」
とっさにナユハと愛理を抱き寄せて結界の強度を上げる。その間にも地震は続き、次第に地面が隆起し始めて……。
「……はぃ?」
どしゃーん、と。そんな効果音を上げつつ地面から一匹のトカゲが姿を現した。……いやいや自分で言っておいて何だけど体高10メートルを超えそうなトカゲなんているはずがない。頭から尻尾までの長さは優に20メートルを超えるだろう。
しかもコウモリっぽい羽まで生えているし。どっからどう見てもファンタジー世界の住人・ドラゴンじゃん。
え? なに、私ドラゴン掘り当てちゃった?
『おぉ! 本物のドラゴンだ! 宝を守るドラゴンとか物語の定番だよね!』
愛理は初めて見るドラゴンにテンションを上げ、
「……ストーンドラゴンですね。一説には年月を経たストーンスネイクが進化したものとされていますから、ストーンスネイクがいたこの鉱山に現れても不思議ではないでしょう」
ナユハは目をグルグルさせながらドラゴンの解説していた。だいぶ混乱しているみたい。
相反する反応を見せた二人を置いてきぼりにするかのように事態が動いた。自律プログラムを組んだゴーレムがドラゴンを敵として認定、握り拳をドラゴンの腹に叩き込んだのだ。
眠りから覚めた直後、自身に匹敵する大きさがある巨人から殴られるとは思っていなかったのか……ドラゴンは油断した体勢のままもろに攻撃を食らい、背後の岩壁に叩きつけられた。
というか、あのドラゴンが目覚めたのはどう考えてもゴーレムがガリガリしたからだよね。安眠妨害された上に殴られるとか、ドラゴンへの同情を禁じ得ない。
『――ガァアアァアアァアッ!』
ようやっと目が覚めたのかドラゴンが一旦口を閉じ、何かを吐き出すように喉を動かした。
ドラゴンブレス。
数千度の火炎放射がゴーレムに襲いかかる。
けれどゴーレムは止まらなかった。
龍の息吹によって表面を溶かされながらも、命なきもの特有の蛮勇でもってドラゴンとの距離を一歩二歩と縮めていく。
この敵が今まで戦ってきたどんな生物とも異なると気づいたドラゴンが翼を広げた。一旦空へと逃れ仕切り直しを目論んでいるのだ。
だが、遅い。
ゴーレムはすでにドラゴンを掴める位置にまで到達していた。
身体を半ば空中に踊らせていたドラゴンは足を掴まれ――
「――って! なんで怪獣大戦争が始まっているの!?」
ツッコミをしてしまった私である。
いや私だって前世の影響で特撮好きになったからこの戦いを静観したい。したいのだけど……。
愛理は私がどん引きするくらいのハイテンションでゴーレムを応援しているし、ナユハは静かだけどウル○ラマンを応援する子供みたいな純真な目で戦いを見つめている。
しかもどこからか現れた妖精さんは、
『ロボットアニメに必要なのは作画だよねー』
『いやストーリーだよー』
『重量感ー』
という感じにロボット談義を始めてしまったし、ついでに言えば頭の中で璃々愛(特撮バカ)が超ハイテンションに騒いでいてうるさいし……、こんなにも見学者がいるのにツッコミをしてくれそうな人間が私しかいなかったのだ。
「あぁ、もう……」
なんで財宝発掘でドラゴンとバトルになるの、とか、私だってツッコミせずにリアル特撮を楽しみたかった、などという想いを込めて私は叫んだ。
――どうしてこうなった!?
百合度が上がったと思ったら怪獣大戦争が始まっていた。何を言っているか(以下略)
次回、16日更新予定です




